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感謝の言葉
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◇◇◇◇
僕は先程会った陽葵という彼女に腕を引かれながら歩いている。
「ちょっと待って」
「早くしないと遊ぶ時間無くなっちゃうよ」
彼女はやっと止まって振り向いてくれた。急かされるように言葉をつくろう。
「僕は遊びに来たわけじゃないんだ」
彼女は目を見開いて驚きの表情を見せる。
「え? 瞬さん、遊園地に何しに来たの?」
「何しに来た、か。そうだな……僕は何をしに来たんだろう」
気づいたら遊園地に来ていたんだ。心が潰れないように、死んだ仲間の残り香を追って、楽しかった記憶にすがる道しか僕には残されていなかった。
僕には仲間が生きてこれなかった今日を、明日を、明後日を、生きていく使命がある。
でも死んだ仲間はもう戻っては来ない。それを自覚すると、死んでしまいそうになる。
それが怖いんだ。
「また怖い顔になってるよ」
「え? おっとッ!」
彼女はいつの間にか僕の目の前にいた。グイッと顔を僕の顔に近づけてくる。咄嗟のことで仰け反ってしまった。
「最近の遊園地は美味しい食べ物もあるし、遊ぶ以外にもたっくさん楽しいことはあるからね。さっきも涼しくなってきた季節なのにクレープなんて食べてたし」
そういう事ね! と、彼女はサッパリとした笑顔を残して、再び歩き出した。
さっきあった初対面の女の子と遊園地を回るという不思議な日だが、彼女の笑顔を見ると、心の黒いモヤが晴れていく気がする。
彼女の笑顔が紅葉の笑顔と被るからだろうか。
「早く早く」
手を引かれるままに僕は走り出していた。
フードエリアは遊園地の地図で見た感じ、五箇所あった。
彼女は出入口付近のフードエリアを目指していたみたいだ。
フードエリアに着くと、彼女は目のつく出店の食べ物を片っ端から買う。
「瞬さんいいの?」
「いいよ」
全部自分のお金で払おうとする彼女を止めて、食べ物のお金は全部僕が払った。
彼女は僕を楽しませようと思って、ここに連れてきてくれた。その優しさをお金で少しでも返せるなら安いものだ。
両手いっぱいに食べ物を買ったところで食べ歩きがスタートした。
「美味しいね」
「そうだね」
「瞬さん全然食べてないじゃん。美味しいよ、早く食べて」
彼女から急かされる。僕は小脇に抱えたバケツ状の箱からポップコーンを取り出して食べる。
最近の僕は食べ物を口にしても味が分からない。
咀嚼して、もう一つ、ポップコーンを食べる。
無味無臭。口の中は異物が入ったみたいな違和感が存在していて、腹に押し込もうとしても喉に突っかかる。
バケツ状の箱の隣にあるジュースで腹に一気に流し込んだ。
「美味しいでしょ」
彼女に「美味しい」と返して、僕は無味無臭の食べ物を美味しそうに食べていった。
美味しいと嘘をついたのは、この笑顔を曇られたくなかったからだ。
僕はまだ人を気遣える心を持っていたのか。
いや違う。
この彼女の笑顔が、僕をヒーローにしてくれたんだ。
『ありがとう』
小さな感謝の言葉を呟いた。
「ん? 今一番良い顔してた、カッコイイよ」
「ありがとう」
褒める言葉の返答に合わせて、再度感謝を言う。
僕は彼女のおかげで、もう少しヒーローとして頑張れそうだ。
僕は先程会った陽葵という彼女に腕を引かれながら歩いている。
「ちょっと待って」
「早くしないと遊ぶ時間無くなっちゃうよ」
彼女はやっと止まって振り向いてくれた。急かされるように言葉をつくろう。
「僕は遊びに来たわけじゃないんだ」
彼女は目を見開いて驚きの表情を見せる。
「え? 瞬さん、遊園地に何しに来たの?」
「何しに来た、か。そうだな……僕は何をしに来たんだろう」
気づいたら遊園地に来ていたんだ。心が潰れないように、死んだ仲間の残り香を追って、楽しかった記憶にすがる道しか僕には残されていなかった。
僕には仲間が生きてこれなかった今日を、明日を、明後日を、生きていく使命がある。
でも死んだ仲間はもう戻っては来ない。それを自覚すると、死んでしまいそうになる。
それが怖いんだ。
「また怖い顔になってるよ」
「え? おっとッ!」
彼女はいつの間にか僕の目の前にいた。グイッと顔を僕の顔に近づけてくる。咄嗟のことで仰け反ってしまった。
「最近の遊園地は美味しい食べ物もあるし、遊ぶ以外にもたっくさん楽しいことはあるからね。さっきも涼しくなってきた季節なのにクレープなんて食べてたし」
そういう事ね! と、彼女はサッパリとした笑顔を残して、再び歩き出した。
さっきあった初対面の女の子と遊園地を回るという不思議な日だが、彼女の笑顔を見ると、心の黒いモヤが晴れていく気がする。
彼女の笑顔が紅葉の笑顔と被るからだろうか。
「早く早く」
手を引かれるままに僕は走り出していた。
フードエリアは遊園地の地図で見た感じ、五箇所あった。
彼女は出入口付近のフードエリアを目指していたみたいだ。
フードエリアに着くと、彼女は目のつく出店の食べ物を片っ端から買う。
「瞬さんいいの?」
「いいよ」
全部自分のお金で払おうとする彼女を止めて、食べ物のお金は全部僕が払った。
彼女は僕を楽しませようと思って、ここに連れてきてくれた。その優しさをお金で少しでも返せるなら安いものだ。
両手いっぱいに食べ物を買ったところで食べ歩きがスタートした。
「美味しいね」
「そうだね」
「瞬さん全然食べてないじゃん。美味しいよ、早く食べて」
彼女から急かされる。僕は小脇に抱えたバケツ状の箱からポップコーンを取り出して食べる。
最近の僕は食べ物を口にしても味が分からない。
咀嚼して、もう一つ、ポップコーンを食べる。
無味無臭。口の中は異物が入ったみたいな違和感が存在していて、腹に押し込もうとしても喉に突っかかる。
バケツ状の箱の隣にあるジュースで腹に一気に流し込んだ。
「美味しいでしょ」
彼女に「美味しい」と返して、僕は無味無臭の食べ物を美味しそうに食べていった。
美味しいと嘘をついたのは、この笑顔を曇られたくなかったからだ。
僕はまだ人を気遣える心を持っていたのか。
いや違う。
この彼女の笑顔が、僕をヒーローにしてくれたんだ。
『ありがとう』
小さな感謝の言葉を呟いた。
「ん? 今一番良い顔してた、カッコイイよ」
「ありがとう」
褒める言葉の返答に合わせて、再度感謝を言う。
僕は彼女のおかげで、もう少しヒーローとして頑張れそうだ。
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