嫌われ者のネクロマンサー

くらげさん

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10話

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◇◇◇◇


 ノクスグラートの防衛線は、確実に崩れかけていた。

 毎夜のように魔物が群れを成して森を越え、村の外れを蹂躙していく。
 衛兵の数は日に日に減り、鉄靴の響きはかつての勇ましさを失い、魔物を前にしておよび腰になっていた。

 フェンはまだ意識を取り戻していない。
 仲間の衛兵たちは疲弊し、怪我を抱え、それでも剣を握り続けるしかない。

 それが、現実だった。

 バリスハリス王国からの増援はまだ届かない。
 連絡の遅延。王国は悪意を持って遅らせているわけではない。ただ、ここは辺境で、助けを呼んでも、すぐには来ない。

 距離と森の障壁が王国の助けを遅らせている。

 ノクスグラート領の衛兵は屈強な戦士で固められているが、連戦続きで、もう限界はとうに超えていた。


 日が沈む頃には、森はまた遠吠えを響かせるだろう。
 次に襲ってくる群れは、今まで以上に大きいかもしれない。
 領民が、餌になるのも時間の問題だった。

 その現状をノクスグラート領で知らない者はいない。セレナは人々の顔を見るたび、胸が重くなる。

 みんなは、いつだって穏やかで、笑顔が溢れていた。

 だが今は、誰も笑わない。
 不安の影が、深く、濃く、街を覆っている。

 彼らはセレナを見ても、以前のように微笑まない。

「白の魔女と名乗らなければ?」

 そうセレナは自身に問いかけて首を振る。

「あの時と同じになるかもしれない」

 呟いた声は、確実に心の奥を抉る。

「今魔女の力を使えば、殺されるかもしれないって怖さもあるけど。一番怖いのは、助けてきた人たちの、私に向けてくる敵意の目」

 その言葉は、セレナの胸の奥に、冷たい震えとして残った。

 敵意の目。

 救ってきたはずの人々が、いつのまにか石を投げてくる。身体よりも心が痛かったことをセレナは知っている。

 セレナは助け続けた。
 病を、怪我を治し、呪いを解いた。

 人々は喜んだ。微笑んだ。感謝した。

 そして裏切った。

 誰もセレナを信じてくれなかった。

 その苦い記憶。

 それは消えない。

「もう、助ける必要なんて、ない」

 セレナは、自分の心にそう言い聞かせた。

 もう白の魔女じゃない。何もかも忘れていいはずだった。

 でも……。

 目の前で泣き出した子どもの声を聞くと、足が震えた。

 母親が抱きしめる腕を見て、胸が締め付けられる。

 殺気立った若者が、大声で罵声を飛ばしていて、息が詰まる。

 衛兵を助けるべきか、見捨てるべきか。

 その答えは、いくつの夜も考えてきた。

 セレナは、その度に見捨てる選択をしてきた。


 そして、今日も最も苦しい問いが浮かぶ。

 今回も助けるべきなのか。見捨てるべきなのか。

 助けても、また裏切られる。

 その問いを前に、セレナの足は止まる。

 夜の闇は深く、街の灯りは弱い。

 彼女の胸の中の重さは、痛みになって襲ってきた。

「私はみんなが笑顔になる魔法を使っていたはずなのに」

 これが白の魔女セレナの魔法を使う根源だった。

「助けにいきたい。本当は助けにいきたいよ」

 助ければ、また傷つく。

 それでも、助けたいと思ってしまうセレナは、まだ、人の笑顔を嫌いになれなかった。










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