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黒猫の頼み事
しおりを挟む国を出ると始まりの丘から始まる。
真後ろに国があるからか初心者には最適の遊び場だ。
隣を歩くアカネはピクリと固まる。
『なんの声?』
少し戸惑っているようだが目の前にスライムがポンっと現れる。
スライムの身体は大きめの石ぐらいの大きさで水色の青い玉だ。
初心者は始まりの丘に立つとまずチュートリアルで戦闘がアシストされる。
剣を出して棒立ちで構えるアカネを見て初心者の頃を思い出す。
うんうんと首を縦に振ればスライムの突進にアワアワとアカネは対処に困っていた。
アカネは目を瞑って「こっちに来るなぁ」と剣を振っている。
攻撃はどれもスライムには効いていないがそれも戦闘の良い思い出になるだろう。
戦闘を見守り少し時間が経てばスライムにやっとマトモな攻撃が入るようになってくる。
スライムは突進という一つの技しか使ってこない。
魔物に慣れるための最初の敵だからか凄く弱く設定されている。
それでも当たればその箇所は痺れて鈍い痛みを感じる程ではあるが。
はぁはぁと息を吐いたアカネはスライムの突進に合わせる形で的確に剣を振る。
剣が当たったスライムはポンポンと地面を跳ねてシュウっと煙になって消えて行った。
今頃はドロップ品が目の前に現れているだろう事を思えばアカネが初めて一人で魔物を倒して目をキラキラ輝かせてる理由も分かる。
「見てよこれ!」
自慢気に俺には見えないドロップのモニターを必死で指さしている。
「凄いな」
「でしょ」
ニカッと笑うその姿に俺は何も言えない。
「アカネちゃんはクランは入ったのか?」
「うん! 友達が入ってたクランに招待された」
違うと焦ったように言うアカネ。
「女子で構成されたクランだからね」
何が違うんだ? クランはクランだろうし。
魔物狩りなら少しの自信がある俺は何時間でも付き合う覚悟だった。
「クランからだ」
申し訳なさそうにアカネは頭を下げる。
「シン兄ごめん、クラン戦があるって」
「お前の頼みならいつでも付き合ってやるから行ってこい」
「絶対だからね!」
手で早く行けとアピールすると始まりの丘を背にアカネは走り去って行った。
俺も国に戻ると運営クランに足を向ける。
何か分からない緊張をして運営クランの施設に入ればアリサさんの列は沢山の人が並んでいてアイドル並みの人気だった。
俺もその列に並ぶ。
何故か進みが早い列に前を見ればプレイヤーが花束や宝石等をアリサさんに貢いでいただけだった。
本当に握手だけをしに来たファンみたいでうわぁと心の中で思うが俺も人の事は言えないと目を逸らす。
俺の番が来てこんにちはと挨拶から入る。
「あれ? シンさんじゃないですかお久しぶりですね」
「はい。三年ぶりです」
名前を覚えていたのか? 人気なのも分かる気がした。
ぺこりと頭を下げるとアイテムボックスから包まれた箱を取り出してアリサさんに渡す。
「アリサさんが居てくれたお陰でクランが設立できました」
三年前には言えなかった言葉を深く頭を下げて吐き出す。
『ありがとうございます』
頭を上げた俺にアリサさんはニコリと笑うと。
「はい。受け取りました」
後ろから早くと急かされながら俺は列を離れようと足を動かす。
「ちょっと待ってください」
腕を握られ静止の声がかかった。
「えぇっとプレゼント開けていいですか?」
「はい」
なんで引き止められたか分からないまま箱のリボンを開けて黒猫のぬいぐるみを取り出した。
「うわぁ、猫ちゃんだ!」
ぎゅっと子供のようにぬいぐるみを抱きしめるアリサさんは俺を見ると忘れて下さいと正気を取り戻した。
コホンと一つ咳払いをすると。
「シンさん。ルールブレイカーと言われる程の実力があるシンさんに頼みがあります」
ルールブレイカーと言う変なあだ名と実力がどう関係するんだ? と思わずにはいられなかったが黙ってアリサさんの言葉を聞く。
『他国戦に出て欲しいのです』
深々と頭を下げるアリサさん。
俺が他国戦に出る事に何故アリサさんが頼まないといけないんだ?
「こちらから出向くはずでしたがシンさんが来てくれて今しかないと思いました。国から情報が規制されてますので」
アリサさんはこちらにと俺を部屋に案内する。
後ろの視線がめちゃくちゃ痛かったが俺は気にすること無く部屋に入っていった。
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