天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

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不幸は歩く

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 王の間で王様が乱暴な言葉を吐く。

「何故フランが生きておる! あの魔王は今何をしておるのだ!」

 玉座に拳を打ち付けて怒りを露にする王。

「落ち着いてください」

 それを王の前で膝をつけている一人の男が静める。

 王とは反対に冷静な男は王に言う。

「やはり魔族に頼んだのは間違いだったかと」

 男の言葉に眉間にシワを寄せる王。

「ぐっ! 最凶の娘は儂らには害でしかない、だが剣聖フローラは慕われておった……その娘を殺す事は、民の信頼を地に落とすことになりかねん」

「全て魔王のせいに出来れば話は終わったのですが」

「フランが最凶の娘とわかった日の事を覚えておるか?」

「はい」

 王は昔の事を思い出す。



 フランが生まれて民や王はおおいに喜んだ。

 幾度ともこの国を守った希望の象徴の娘だったからだ。

 それはフランの魔力が安定し始めた頃に起きた。

 物心つく前のフランが精霊化オーラルフォーゼを発動させたのだ、それも何度も。

 将来は世界を守る天才になるなんて言われて、その時は誰も悲劇が起こるなんて思ってもいなかった。

 魔力が安定する境に元々魔力が多い子は希に精霊化をすることがある。

 最初の悲劇はルナリアを中心に木々が枯れていき、雨が降らなくなったのだ。

 雨が降らなくても魔法でどうにかなる、誰もフランがやったとは思わなかった。

 元気な人が突然死んでいくなんてことも起き始めたが、誰もフランがやったとは思わなかった。

 不幸が重なっただけだと。

 フランの父親もこの時に亡くなってしまった。

 そして最大の不幸は。

 旧クラスの神級の魔物が次々に国を襲った。

 フローラが国を守るために、何度死闘を繰り広げたかは数えきれない。

 戦闘の余波で死人も出るほど国の被害も大きかった。

 その悲劇が起こる時は必ずと言っていいほどフランの精霊化が発動するのだ。

 フローラは間違えだと、考えすぎだと訴えたがその時はもう民も王も聞く耳を持たなかった。

 そして辺境に家を建て、フローラとフランを追い払った。

 娘の死という選択肢を天秤にかけられたからだ。

 娘を守れるなら辺境に行くとフローラも賛成したことだ。

 それから魔物もパタリと現れなくなり、渇いた大地を潤す程の雨も降った。

 だが民達の心には希望の象徴の娘は恐怖の象徴になっていた。

 近寄れば不幸が起きると。

 フランが国に来る半年に一回は不幸が通る日だと誰も外を歩かなくなった。

 そして民の間で不幸が起きると全てフランのせいになるようになっていた。

 だがフランを殺せなど言う奴は居ない、それほどまでにフローラの存在があるからだ。



 段々と日が過ぎる毎にさすがの王も自分の身が怖くなってきた。

 半年に一回来る恐怖に。

 そして金を払えばなんでもしてくれるという魔王にフランを殺してくれと頼んだのだ。

『人族風情が俺に頼みだと?』

『辺境におる、家族を殺してほしい』

『金次第だな、国の金を半分よこせ』

『わ、わかった』

『そんなに怖いのか、その最凶の娘という奴は』

 魔王は何が面白いのかずっと笑っていた。




 魔王に裏切られた今、頼めるのは目の前にいる男だけだと王は決意する。

「どうすれば、民に怪しまれずフランを殺せる」

 男は少し考え込むような仕草をすると口を開く。

「まずフラン様が連れてきた男をフローラ様を殺害した罪で指名手配しましょう。騎士達もそれをみれば男を殺したくてしかたないでしょうし、生け捕りにしろと言っても聞かないでしょう」

「ふむ、フローラは民の希望の象徴だったからな」

「その男は王様に取引を持ち掛けた、この国で不自由なく過ごさせろと」

「フランを人質にしてか?」

「そうです、流石にフラン様を人質に取られていては王様にも手出し出来ず、不自由なく泊まらせろと宿屋に連絡するんです」

「ふむ、それならもう言ってある、後はどうするのじゃ」

「騎士達にその男が殺されたなら、王城にいるごく僅かな人物しかフラン様がここに居ることは知りません、後はただフラン様を殺すだけです」

 王は玉座から身を乗り出す。

「もしも騎士が殺せなかったらどうなるのじゃ?」

「私が行きましょう、その時は男の体を使ってフラン様を民の前で殺せばいいだけです。その男の名は?」

「クレス・フィールドじゃ、英雄とは別人じゃがな」

「クレス・フィールド様ですか、面白いですね」

「希望の象徴フローラとは正反対のような剣聖じゃな、貴様は」

「そうですね、剣聖道化師ヴェルドが見事役目を果たしてみせましょう」

 すっと立ち上がり一礼してヴェルドは王の間を後にする。

 



 俺は走りながら城を確認すると。

 城の門は無造作に開いていた。

 段々と城との距離を詰めていくと門の中央に人影がみえる。

「きゅい!」

「そこどいてくれないか?」

 俺はその場で立ち止まり、その人物に声をかける。

「それはできないですね、クレス・フィールド様」

 余裕の笑みが腹立つ。

「胸糞悪い予感が当たったみたいだな」

「フラン様はそれだけこの国には脅威なのですよ」

 俺はグランゼルを引き抜くが。

「身体が……」

「動かないですよね、今から貴方にはルナリアで初めての大罪人を演じて貰います」

「おいおい、俺が、主役、でいいの、か?」

「えぇ、悲劇のヒロインはフラン様でどうでしょう?」

 目の前の男はどこまでも演説口調。

「救ってもらった男が実はヒロインの母親を殺していた犯人で、その男にヒロインは少なからずの恩を感じている、ヒロインの想いを踏みにじりながら男はヒロインをその手で殺す! その時ヒロインはどういう顔をするのでしょう? どういう声で泣くのでしょう?」

 俺は一歩一歩、操り人形のようにぎこちなく王城に入る。

 どれくらい歩いたのか俺は一つの扉の前で立ち止まる。



「まだ始まんないのか、つまんない劇は」



『お楽しみはこれからですよ』


 ぎぎぎ、と自動で目の前の扉が開くと共に男は闇に姿を消した。
 

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