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勘違いの行方
しおりを挟む「闇の勇者ですか、噂に聞くほどの者でも無さそうですね」
ヴェルドはユウカを見ながら敵対した感想を言う。
「なんだい? 僕にその能力が効くと思ってるのかい?」
俺ですら初見では見切れなかった能力だ。
危険を知らせようと思うが声が出ない。
ヴェルドから一瞬、魔力の動きを感じる。
「これが魔王ヴェルドの能力なのかな?」
『ドール』
魔王? 剣聖じゃないのか!
ヴェルドは戦闘態勢を崩しながらユウカに声をかける。
「闇の勇者様はもう私の操り人形です」
気づいた時には既にユウカの身体には糸が絡み付いていた。
「英雄君はこのタネが全然わかってないようだから言うけど……これ遠隔操作系の能力じゃないよ」
えっ?
「この絡み付いてる糸はダミーだよね? こんな感知にギリギリ引っ掛かるかどうかの薄い魔力で人が操れる筈がないじゃないか」
……。
「確かに洗練された魔力だけど、それは自分を格上と見せるようなフェイクで、ただ絡み付けてるだけ、能力は別物」
能力を考えた時から既に相手の術中にハマっていた事実を知った俺。
コイツは出来る奴だとかシリアスな雰囲気を出して考えてた記憶がある。
ちょー恥ずかしいじゃん!
「これは魔族が使う呪いの魔法だよね」
「気づいたところで既に遅いんですよ! 私の魔力を上回るような魔力をお持ちなら話は別ですがね」
『魔王ヴェルドって噂に聞くほどたいしたことないね』
「貴女の身体はもう私の物なんですよ!」
ユウカの緊張感がない物言いにヴェルドが吠える。
ユウカの身体から黒い煙が現れ、それ剥がれると魔力が漏れ始める。
「前の主様は知らないけど、精霊の力ってこういうことにも使えるんだよ」
黒の瞳が紫色に変わり、黒銀のオーラルを纏っている。
「君の能力なんて最初から受けてないんだよ、だって僕は最初から限定精霊化をしてたんだから」
ユウカに絡み付いていた糸はボロボロと崩れ落ちる。
へぇ~うつし影って魔力隠すことも出来たのか……。
感心していた俺の中に何かが入ってくる。
『主様が勝手に何処かへ行ってしまったので……闇の勇者に浮気してしまいました』
『限定精霊化』
俺の身体から白銀のオーラが滲み出る。
『シロか! えっ? 待って精霊神何人来てんの?』
『私とクロだけですよ、ユウカが主様に何か起きたら手助けしようって言ったので準備して待ってました』
『だからあの騎士になってたのか、でも問題なんか待ってても普通起きないだろ!』
『主様は普通じゃないので』
それ褒めてんの?
これで俺も呪いを無効に出来た訳だ、身体が自由に動くっていいな!
『助かったよシロ』
『主様の為なら何でもしますよ……たとえ主様以外の方に力を貸すことになっても』
『ユウカに力を貸してるのは嫌々だったのか?』
『私達はユウカの直感を、ユウカは私達の感知能力を頼りにずっと主様を探す旅を一緒にしていたので……主様の為ならと仕方なく力を貸すこともありました』
周りを見渡すとさっきまで騒いでた奴等が全員寝ている。
ユウカが少しは動きやすくしてくれたみたいだからな。
「もう僕の役目は終わりだね」
ユウカはヴェルドに興味が失せたかのようにフランの元に行く。
「私の人形よ! 闇の勇者を斬りなさい!」
俺に向かって叫ぶヴェルド。
「えっ? 俺に言ってんの?」
「貴方も私の能力を破ったというのですか!」
さっきまで魔力が全くなかった奴がいきなり魔力持ってたらビックリするか。
俺は持っていたグランゼルを鞘に戻す。
「私に刃向かったところで貴方ごときが私を倒せるはずがない!」
『ねぇ、君は勘違いしてるよ? 目の前にいる少年が君ごときに負けるはずないじゃないか』
これで負けたらユウカに怒られるだけじゃすみそうにないな。
『久しぶりに本気で行くか! シロ』
『はい、主様』
コイツだけは許せないしな。
フランは俺が守るって言ったのにこのざまだよ。
『リミテッド・アビリティー』
俺は何もない空間から金色のオーラを纏う黒剣を取り出す。
「ま、まさか」
「俺の名前を覚えてるか?」
「クレス・フィールド......まさか! 剣の勇者!」
『本物だよ……お前は運がいい』
一瞬でヴェルドとの距離を詰める。
音もなくただ静かに振られた黒剣はヴェルドを斬り裂く。
「私は、私わぁ……」
何かを訴えながらヴェルドは魔法石に姿を変えた。
黒剣を放り投げると粒子になって消えていく。
「ユウ様」
ユウカからいつの間に離れていたのか精霊神のクロが俺に詰め寄ってきた。
「もう出会えないと、もうもうもう!」
シロも俺の中から離れる。
二人とも目に涙を貯めている。
「悪いな、いつも待たせてしまって」
「いいですよ! どうせ主様はそういう人ですから」
美女の涙は堪えるな。
「ユウカも悪いな」
「デート1回」
フランの方を見ながらこっちを全然振り向いてくれないユウカ。
「えっ?」
「デート1回してくれたら許してあげる!」
「わかった」
「絶対だからね」
振り返ったユウカは笑顔だったが、うっすらと目が赤くなっていた。
「ここから逃げようか」
「えっ? 王には何かしなくてもいいのか?」
血を流しながら倒れている王様。
「この人は絶対に助かるよ」
いやいや、絶対にとか。
「フランちゃんの能力はね『フラクションラック』まぁ、運命操作みたいな物さ」
でたチート。
「それと王が助かるというのはどういう理屈なんだ?」
「フランちゃんが王様の運を急激にあげたのさ、この状態で助からなかったら僕達が今何をやっても王様は結局助からない」
「今魔法かけたら絶対に助かるじゃん」
「クレス君は愚王に回復をかけてやれって言うの? 僕はごめんだね」
ユウカの言う通りだな。
「よし、放っといて逃げるか!」
助かるなら勝手に助かれ、死ぬならそのまま死ねばいい。
だが俺が今とどめを刺すことは出来ない。
フランが助かって欲しいと能力をかけたのにそれを無駄にすることになるからだ。
俺はフランを背負いルナリアを出る。
俺達は夜の闇へと姿を消した。
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