天才な妹と最強な元勇者

くらげさん

文字の大きさ
113 / 201

アクアの物語

しおりを挟む


 口の中は生臭い血と土の味がする。

 ジャリジャリと気持ち悪い。

 なんで勝てないんだ!

 魔力無い奴に僕が負ける筈がないんだよ!

 そう思えば思うほど苦しくなる。

 なんで、なんで、なんでと、負けない筈と心の中で訴える度に答えの見えない疑問が沸いてくる。

 見えてないんじゃなく、見たくないんだ。

 この現実を。

 僕は気絶していたのか、気づいた時にはクレスさんはいなかった。

『お前は俺を舐めてる』

 昔はわからなかった、ただ漠然と強い人だなと子供の僕は思っていたが、今でも漠然と強いという印象を受ける。

 子供の頃はまだ未熟だった、だけど僕は剣聖なんだ。

 相手を漠然と強いしかわからないと言うことは、僕はまだクレスさんの底が見えてないということになる。

 口の中の土を吐き出しながら立ち上がる。


『絶対に超えて、リリアさんを迎えに行く』


 ここに居ても何もないと城に帰ることにした。


 クレスさんは一目見てわかった、昔と全然変わってなかったからだ。

 そもそもなんでこの国にいるんだ?

 リリアさんに連絡してみるか……無理だな。

 最近は特にリリアさんと喋ることも出来ない。

 声を聞くだけで心臓が破裂しそうな程にうるさくなって、リリアさんの笑顔を思い出すだけで僕は火照ったように顔が熱くなる。

 だからなのかな、クレスさんを言い訳にして今まで踏み出せなかった。

 僕はクレスさんと会って負けた時に少しほっとしたのかも知れない。

 これじゃダメなんだよな。

 でもクレスさんにまず認めて貰わないと。

 今回の事でわかった、もしリリアさんに手を出していたとしたら本当殺されていた。



「お帰りなさいませアクア様」

 色んな事を考えていたら、城についたようだ。

 城に入るとメイドが迎えてくれた。

「あら、アクア帰ったのね」

 するとお母様が階段から降りてくる。

 何処かに行くのか、やたらと派手にドレスを着飾って気持ち悪い。

「お母様お気をつけて」

「行ってくるわ」

 お母様を見送り、僕はすぐさま洗濯場に向かう。


 目当ての部屋のドアを開けると、大量の服と布物。

 そしてそれを一人で洗ってる人物の後ろで洗い物の手伝いをする。

「あらあら、アンタ毎日毎日こりないねぇ」

「いいだろ、僕も好きでやってるんだから」

 僕はこの時間が好きだ、本当の母さんとの二人だけの時間が。

「毎日見張りに来ないでも、もうこの城では私をいじめる物好きはいないよ」

 母さんはこちらを振り向かず声だけで会話する。


『アンタのお陰でね、たいした息子だ』


 僕が剣聖になった事で今では身分の差を言う人は段々と少なくなっていた。

 でもまだ足りない、世界を変えないと。

「僕みたいな子供を無くしたいからね」

「そうだね」

 魔法で水を出しながら服が痛まないように手で優しく洗う。

 魔法で全てやると服がすぐにボロボロになるからだ。

「リリアちゃんの事で何かあったのかい?」

 ふと母さんが悩みを言い当てて来た。

「何でもない……けど」

「けど?」



 今日の出来事を隠すことなく母さんに伝える。

「リリアちゃんのお兄さんに全然敵わなかった」

「そうかい、そりゃ負けるよアンタは」

「母さんにはわかるの?」

「アンタがそのお兄さんに愛で負けてるってことさね」

「愛で負けてる?」

 それなら絶対に勝てると僕は思っていた。

「実力でもお兄さんは底が見なかったんだろ? アンタを試してたんだと思うけどね、リリアちゃんに相応しいかどうか」

 確かに僕が試験の続きをするって言った時にクレスさんは面白いって感じで承諾してた。

「たぶんだけどね、アンタの話だけを聞いてもお兄さんみたいな奴は愛してる人の為なら簡単にポイって命を捨てちゃうんだよ、それで助かった身としては本当に迷惑な話なんだけどね」

「愛してる人の為に命を簡単に差し出すことができる人間」

 僕はリリアさんが死にそうになって、僕の命を捧げれば助かるって状況なら命をかけるが、その時に一瞬も躊躇わないかって言われたら正直わからない。

 でもクレスさんなら簡単に捨てるんだろうなとも思う。

「母さん、僕はリリアさんを好きになる資格がないのかな」

「人を好きになるのに資格なんか要るわけないじゃないか! まずはお兄さんに認めて貰うところから始めな」

「わかった」

「言っとくけど、剣聖を圧倒する化物なんだよ相手は、間違っても認めて貰うまでリリアちゃんには手を出したらいけないよ」

「僕も命は無駄にはしたくないからね」

「アンタも変な恋をしてるね、父親とそっくりだよ」

「またその話?」

「私はある国のお姫様だったんだよ」

 母さんの作り話だと思う。

 平民がよく夢見る、私はお姫様だったっていう物語。

 でも僕はこれが好きでよく聞いていた。

 平民とお姫様の身分の差を考えない結婚。

 それが本当なら僕は本当に両親の子供だなと思ってしまう。
 
「お前のお父さんは城に忍び込んで私の部屋まで来た。その時なんと言ったと思う?」

「なんて言ったの?」

 昔から聞くたびに繰り返しているやりとり。


『お姫様、私とお話しませんか?』


「だよ? その時は警備を即呼んでやったね」

「それから?」

「そうだねぇ、久しぶりに私を連れ去った時の事でも話そうかね、あれは……」

 楽しそうに話す母さんの物語が好きだった。

 二人だけの時間。

 母さんの話はいつも僕に元気をくれる。
 
 明日もクレスさんに会いに行こうと僕は思った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...