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恩返しの魔法
しおりを挟むフランさんの魔力が肌にピリつく。
それは空気の振動よりも速く私に危険を知らせる。
右! 思った瞬間じゃなく感じた瞬間に距離を取る。
一つ一つの動作がまるで踊っているようでフランさんの剣技に隙なんて私には見えない。
だけど力を借りている銀髪の少年にはこの糸のような隙がハッキリと見えているのか身体が動く。
そうしろと言われてる様に。
目と鼻の先にグランゼルの剣先が伸びる、それを掻い潜るとフランさんの懐に入って容赦なく水平に振られる私の剣。
次元を切り裂くように速く、そして軽く。
一閃するその剣は下から振られたグランゼルによって防がれる。
体勢を崩した私の首筋にピタリと冷たい感触。
「まだ手加減して貰えてるのかしら? その必要はないですよ」
私の全力を軽く覆すフランさん。
『さぁ、死んでください』
冷たく言い放つフランさんの言葉に目を瞑る。
真っ暗な視界の中、声が聴こえて来た。
『お姉ちゃんを虐めるなぁ!』
キンッと乾いた音と共に冷たい感触は消える。
目を開けるとティアが私に背を向けた状態でフランさんと対峙していた。
「ティアちゃんはユリアちゃんと顔を合わせるのも嫌だったんじゃないんですか?」
ティアは仮面を取り外す。
『お姉ちゃんが居なくなるのはもっと嫌だ』
ティアの魔力が膨れ上がると白銀のオーラに虹色の光がチラつく。
フランさんはそんなティアの姿にため息を零すとグランゼルを構え直す。
グランゼルから赤い魔力を溢れ出るとフランさんの白銀の魔力と混ざり合う。
『二対一ですか……これは骨が折れそうですね』
私も剣を握り直す。
すぐさまティアが駆け出し私もそれに着いていく。
息をする間もなくフランさんとの距離を詰める。
フランさんは私達の斬撃を全て見切っているかの様に軽やかに躱す。
『運操作』
目の前の次元が歪む。
『貴方達がどんなに攻撃しようと当たらない。貴方達は凄く運が悪いんですよ、それに加えて今の私は凄く運が良い』
ティアと私の息が噛み合わなくなってくる。
踏み込んだ先がティアと重なり、私とティアの剣の切っ先が当たる。
ティアの動きが見えているのにズレが生まれる。
いつもなら目を瞑ってても出来ていた事がフランさんには通じない。
決定打に欠ける。
私がそう思った瞬間に隣にいるティアの存在感が大きくなる。
ティアと目が合うと真剣な目で私に訴えかける。
『お姉ちゃん着いて来てね』
またティアは強さの次元を超えようとしている。
こんな妹だからこそ負けられない。
『ティア……貴方が私を追うのよ!』
斬撃を速く、速く。
これだけじゃ足りない!
目の前のフランさんの力も、リリアママの力も、ユウカママの力も、私に注ぐ。
『スティールコンバート』
燃えるような熱量が私の身体の中で暴れる。
そう長くは持たない限定的な強化。
これだけの限定的な力を自分に付与してもティアと肩を並べる事が出来るようになっただけ。
ただのスタート地点。
だけど……。
運命が関与しない絶対の一撃。
『『これで終わる』』
振りかぶった一撃は幻想に消える。
『試練は終わりだよ』
傍観していた魔人がフランさんを庇うように現れる。
そして振った筈の剣が何時の間にか持っていなかった筈の左手に移動していた。
それはティアも同じなようでハテナマークを浮かべている。
「闇の精霊神はとっくに君達を認めていたみたいだけどね」
ブレスレットを見ると黒銀の光が空いていた窪みに輝いていた。
「ここも崩壊が始まるし夜も遅くなってきたから早く家に帰らないとね」
魔人は何故か私達の心配までしてきた。
「私はまだ用があります」
フランさんの魔力がまた大きくなる。
気を抜いていた私にフランさんの動きが見えるはずもなく一瞬で懐に入られる。
呆然と立ち尽くした私の頬にフランさんの暖かい手が触れる。
『運操作』
フランさんは私の耳元に顔を近づけると。
『仲直りちゃんとしなくちゃね。ユリアちゃんには運もきっと味方をしてくれますよ』
先程までの冷たい声じゃなく暖かさを乗せた声に目を見開く。
するとフランさんは顔を離し優しく微笑んだ。
「はい……ありがとうございます」
私がフランさんに感謝を伝えるとティアはその隙にそそくさと扉から出て行った。
私はティアを追いかけるように神殿を後にする。
崩壊していく神殿で。
フランの隣にいる魔人は息をふぅっと吐いて仮面を取る。
「運操作なんてしなくてもティアちゃんとユリアちゃんなら心配ないと思うけどな」
「あら? アクア様、私は運操作なんてしてませんよ」
「でもさっき」
フランはアクアに悪戯に微笑む。
「あぁ、あれは昔の恩返しですよ。私にくれた勇気のお返しです」
「恩返しね」
「はい。そしてアクア様が私を庇った時カッコよかったですよ! あの成長速度は計算に入れてなかったので受けていたら本当の意味で骨が折れましたね」
「最後の一撃をまともに食らえば骨が折れるだけじゃ済みそうにもないけどね」
魔力を全て出し切ったフランはその場にペタリと座り込む。
「ちょっと頑張りすぎたみたいです」
アクアも一緒にしゃがみこむと。
すっと両手でフランを抱えて立ち上がる。
「アクア様! これはお姫様抱っこというやつですか!」
顔を真っ赤に染めたフランはアクアに見られまいと顔を両手で隠す。
それを見てアクアはキザに微笑む。
『さぁ、お姫様。用事も済んだので僕達の城に帰りましょう』
『……はい』
消えていく二人。それを羨ましく見ていた精霊神のクロは思う。
『私もユウ様にして欲しいです』
早速クロはクレスのもとに転移した。
『ちょっ! なんで精霊神全員家に来てるの!? 何かあったのか!』
精霊界や各々の神殿でアクアとフランの姿を見ていた精霊神達が一斉にクレスのもとに行ったのは言うまでもない。
『いつも世話になってるお前達がやって欲しいって言うなら……やるしかないだろ』
精霊神達を順番にお姫様抱っこしていたクレスだったがそれを見ていたリリア、ユウカ、アリアスも何時の間にか加わっていた。
そのずっとループしていくお姫様抱っこはティアとユリアが家に帰る直前まで続いた。
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