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死闘の行方
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決闘場に、どよめきが広がる。
ヨファの大剣が、決闘場の地面に深々とめり込んだのだ。
だが、そこにナレイの姿はない。
「あれ……僕は……」
呆然とつぶやく声は、ヨファの背後から聞こえた。
その手には、半分に斬られた杖の片割れが握られている。
これが、頭上から降り下ろされる大剣を受け流したのだ。
「いつの間に!」
ヨファの目が血走り、眦が裂けた。
怒声と共に、振り返りざまの大剣が放たれる。
横薙ぎに閃く刃は、ナレイの身体を上下に両断するかに見えた。
だが、その一撃は空を切る。
わずかに後ずさったナレイに、紙一重の差でかわされていたのだ。
ヨファは唖然とする。
だが、いちばん驚いていたのはナレイ本人であった。
「こんなことが、僕に?」
その喉元に、大剣の切っ先が迫る。
だが、ナレイは大股に一歩下がっただけで、それが届く距離から外れていた。
ヨファは更に、一歩、また一歩と踏み込んでくる。
その度に、剣さばきはより複雑になり、そして速さを増していった。
それでもナレイは、そのひとつひとつをかわし続ける。
やがて、大剣を操るヨファのほうに疲労の色が見えてきた。
ナレイは、それを見逃さない。
「……遅い!」
一瞬の隙をついて、ナレイはヨファの懐に飛び込む。
攻守は逆転した。
鳩尾を突きにかかる短い棒きれを、ヨファはようやくのことでかわした。
「この私が、こんなことを!」
大剣を振り上げるが、その腕は、ナレイの突き出した棒きれ一本で封じられた。
ヨファは大剣を振り下ろすのをやめて、斜め下から斬り上げようとする。
だが、その動きを読んでいたかのように、ナレイも動く。
短い棒の先を腕と腕の間に差し込まれたヨファは、それ以上、動けなくなっていた。
国王が立ち上がって、バルコニーの端まで歩み寄った。
「勝負の終わりを姫が決めておる以上、口を挟む気はない。だが、もうよいのではないか、ヨフアハンよ」
ヨファは、呻くように答えた。
「まだです。まだ、終わってはおりません」
片手を放して大剣を構え直そうとするが、棒きれが先回りする。
国王は、静かにヨファをなだめた。
「シャハローミの前で、お前は充分な武勇を示した。余も深く、これを嘉しておる。自ら汚すことはあるまい」
だが、ヨファは納得しない。
「陛下からそのような言葉を頂戴するとは思っておりませんでした。私とのお約束をお忘れでございますか」
国王は、怪訝そうに聞き返す。
「どのようなことだ? 約束とは」
ヨファはなおも、足を引き、姿勢を変えては大剣を振るう機会をうかがう。
だが、何をしようと、ナレイはヨファの身体の要所要所を押さえて、それを許さない。
それだけに、姫の婚約者だった騎士の言葉は苛立ちを増した。
「親衛隊の訓練生になったばかりの頃です。ある舞踏会の護衛に立つ事ができた私は、シャハローミ様の美しい姿を初めて拝することができました。代々、隊長を出してきたとはいえ、貴族の中での家柄は高くはありません。財があるかといえば、街の商人のほうが裕福だったといえるでしょう。それでも私は、心に固く誓いました。命を懸けても、シャハローミ様に求婚できる立場になろうと」
国王は、悲しげに微笑んだ。
「だから、先の戦であのようなことを申したのだな? 最前線を崩したら、シャハローミ様と結婚させてほしいと」
ナレイの隙を探すヨファは、その側面を、そして背後を取ろうとする。
棒きれ一本で巧みに先を取るナレイと、互いに牽制しあってぐるぐる回る。
それは、蛇が互いに相手の尾をくわえて呑み込もうとするのにも似ていた。
ヨファの恨み言は終わらない。
「若造の戯言とお思いであったでしょう。しかし、私はひとりで敵陣に斬り込んで、先鋒を蹴散らしてご覧に入れました。功を挙げて帰った私をご覧になったときの陛下の愕然としたお顔、まだ覚えております。しかし、国王に二言なしと、陛下はシャハローミ様との婚約をお許しになり、この戦では騎士団まで預けてくださった。ならば……」
突然、ヨファは身体を丸めてナレイに突進した。
不意を突かれてふらついたところを、足蹴にする。
地面に転がったところで、大剣を逆さに突きつけた。
とどめの一撃と共に、絶叫する。
「騎士の誇りも意地も捨てた戦い、お見届けください!」
「ナレイ!」
シャハロの悲鳴が上がる。
だが、渾身の力をこめた大剣は、柄まで地面へとめり込んだばかりである。
ヨファは、それを引き抜こうとうろたえる。
その頭上から、ナレイの声が響き渡った。
「最初から、その気持ちで勝負すればよかったんです! 下手な小細工は抜きで!」
高々と跳躍したナレイが、棒きれを振りかぶって降ってくる。
大剣を失ったヨファは、ただ、それを見上げるより他はない。
その額を、ナレイはしたたかに……打ち据えなかった。
ふわりと地面に降り立つと、愕然と見開かれたヨファの目を見つめ返す。
穏やかな声で、囁くように告げた。
「負けを認めて下さい……シャハロに、人が死ぬのを見せたくありません」
ヨファの大剣が、決闘場の地面に深々とめり込んだのだ。
だが、そこにナレイの姿はない。
「あれ……僕は……」
呆然とつぶやく声は、ヨファの背後から聞こえた。
その手には、半分に斬られた杖の片割れが握られている。
これが、頭上から降り下ろされる大剣を受け流したのだ。
「いつの間に!」
ヨファの目が血走り、眦が裂けた。
怒声と共に、振り返りざまの大剣が放たれる。
横薙ぎに閃く刃は、ナレイの身体を上下に両断するかに見えた。
だが、その一撃は空を切る。
わずかに後ずさったナレイに、紙一重の差でかわされていたのだ。
ヨファは唖然とする。
だが、いちばん驚いていたのはナレイ本人であった。
「こんなことが、僕に?」
その喉元に、大剣の切っ先が迫る。
だが、ナレイは大股に一歩下がっただけで、それが届く距離から外れていた。
ヨファは更に、一歩、また一歩と踏み込んでくる。
その度に、剣さばきはより複雑になり、そして速さを増していった。
それでもナレイは、そのひとつひとつをかわし続ける。
やがて、大剣を操るヨファのほうに疲労の色が見えてきた。
ナレイは、それを見逃さない。
「……遅い!」
一瞬の隙をついて、ナレイはヨファの懐に飛び込む。
攻守は逆転した。
鳩尾を突きにかかる短い棒きれを、ヨファはようやくのことでかわした。
「この私が、こんなことを!」
大剣を振り上げるが、その腕は、ナレイの突き出した棒きれ一本で封じられた。
ヨファは大剣を振り下ろすのをやめて、斜め下から斬り上げようとする。
だが、その動きを読んでいたかのように、ナレイも動く。
短い棒の先を腕と腕の間に差し込まれたヨファは、それ以上、動けなくなっていた。
国王が立ち上がって、バルコニーの端まで歩み寄った。
「勝負の終わりを姫が決めておる以上、口を挟む気はない。だが、もうよいのではないか、ヨフアハンよ」
ヨファは、呻くように答えた。
「まだです。まだ、終わってはおりません」
片手を放して大剣を構え直そうとするが、棒きれが先回りする。
国王は、静かにヨファをなだめた。
「シャハローミの前で、お前は充分な武勇を示した。余も深く、これを嘉しておる。自ら汚すことはあるまい」
だが、ヨファは納得しない。
「陛下からそのような言葉を頂戴するとは思っておりませんでした。私とのお約束をお忘れでございますか」
国王は、怪訝そうに聞き返す。
「どのようなことだ? 約束とは」
ヨファはなおも、足を引き、姿勢を変えては大剣を振るう機会をうかがう。
だが、何をしようと、ナレイはヨファの身体の要所要所を押さえて、それを許さない。
それだけに、姫の婚約者だった騎士の言葉は苛立ちを増した。
「親衛隊の訓練生になったばかりの頃です。ある舞踏会の護衛に立つ事ができた私は、シャハローミ様の美しい姿を初めて拝することができました。代々、隊長を出してきたとはいえ、貴族の中での家柄は高くはありません。財があるかといえば、街の商人のほうが裕福だったといえるでしょう。それでも私は、心に固く誓いました。命を懸けても、シャハローミ様に求婚できる立場になろうと」
国王は、悲しげに微笑んだ。
「だから、先の戦であのようなことを申したのだな? 最前線を崩したら、シャハローミ様と結婚させてほしいと」
ナレイの隙を探すヨファは、その側面を、そして背後を取ろうとする。
棒きれ一本で巧みに先を取るナレイと、互いに牽制しあってぐるぐる回る。
それは、蛇が互いに相手の尾をくわえて呑み込もうとするのにも似ていた。
ヨファの恨み言は終わらない。
「若造の戯言とお思いであったでしょう。しかし、私はひとりで敵陣に斬り込んで、先鋒を蹴散らしてご覧に入れました。功を挙げて帰った私をご覧になったときの陛下の愕然としたお顔、まだ覚えております。しかし、国王に二言なしと、陛下はシャハローミ様との婚約をお許しになり、この戦では騎士団まで預けてくださった。ならば……」
突然、ヨファは身体を丸めてナレイに突進した。
不意を突かれてふらついたところを、足蹴にする。
地面に転がったところで、大剣を逆さに突きつけた。
とどめの一撃と共に、絶叫する。
「騎士の誇りも意地も捨てた戦い、お見届けください!」
「ナレイ!」
シャハロの悲鳴が上がる。
だが、渾身の力をこめた大剣は、柄まで地面へとめり込んだばかりである。
ヨファは、それを引き抜こうとうろたえる。
その頭上から、ナレイの声が響き渡った。
「最初から、その気持ちで勝負すればよかったんです! 下手な小細工は抜きで!」
高々と跳躍したナレイが、棒きれを振りかぶって降ってくる。
大剣を失ったヨファは、ただ、それを見上げるより他はない。
その額を、ナレイはしたたかに……打ち据えなかった。
ふわりと地面に降り立つと、愕然と見開かれたヨファの目を見つめ返す。
穏やかな声で、囁くように告げた。
「負けを認めて下さい……シャハロに、人が死ぬのを見せたくありません」
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