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勝利の女神の怒り
……勝った!
左の第3指までじいんとくる中、僕の身体から、どっと力が抜けた。
会場は、はりつめた空気の中で静まり返っている。
一瞬の静寂の後、ひそひそ交わす声が聞こえた。
やがて、ぱらぱらと拍手が聞こえはじめる。
それが次第に、歓声に変わっていく。
あとは手拍子と、会場中の「ハセオ」コールが荒れ狂った。
僕はただ、脱力感と指の疼痛の中、呆然とそれを聞いているしかなかった。
だが、それを鋭く制する声が、熱狂を切り裂いて響き渡った。
「インターバルを要求します!」
こんなに厳しく澄み渡った声で、これだけの人数を黙らせることができる者はひとりしかいない。
観客たちを睨み据えて立ち尽くす白いワンピース。
……紫衣里?
我に返ったところで、僕の勝利の女神は毅然と言い放った。
「彼らには、よりよい試合のために休息が必要です。違いますか?」
佐藤が困ったように舞台に立つ。
「先ほども申し上げましたが、タイムは失格……」
それを遮る声があった。
フィービーだ。
何やらまた理屈をこねだしたので、ポケットのスマホで配信画面を確認する。
「Time’ is a Japanese-made English word.It has no official meaning in competitive rules.You cannot declare a disqualification based on a term that doesn’t exist.」
(『タイム』は日本で作られた英語よ。競技ルールとしての正式な意味は存在しないわ。存在しない用語を根拠に失格を宣告することはできない)
……女神は、もうひとりいたわけだ。
つい、頬が緩むのを感じたが、そこで便乗したフォロワーが、ヤジを飛ばし始めた。
「Let him rest!」(休ませてやれ!)
……そう、トイレはいいから、一息だけ。
僕のささやかな願いだった。
できるなら、もうちょっと静かにしてほしいとも思ったとき、騒然となった会場は冷たい一言で再び沈黙した。
「私は、平気だけど」
聞き覚えがあるのに、どうしても思い出せない、あの声だった。
超絶テクニックを持つ、女王クリームヒルトのプレイヤーだった。
今度は、さっきのオタクたちが喚きだす。
たちまち、フィービーのフォロワーとの罵りあいが始まった。
「日本語で話せバカ!」
「 I’m not listening to you!」(オマエの話なんか聞いてねえ!)
こうなると、もうフィービーでも収拾がつかない。
「Calm down. You’re not helping.」(落ち着きなさい。あなたたちは邪魔してるだけよ。)
ジークフリートが倒した王女メディアやクレルヴォの怨念に囚われたかのように、会場は混乱の渦の中に呑み込まれていく。
もっとも、復讐の女王クリームヒルトとしては、これ以上ないくらいに望ましい光景かもしれない。
僕はというと、もう諦めかけていた。
……もういいよ、ちょっと休めたから。
だが、その荒れ狂う憎しみの嵐は、紫衣里の清冽な声で断ち切られた。
「いい加減にして!」
左の第3指までじいんとくる中、僕の身体から、どっと力が抜けた。
会場は、はりつめた空気の中で静まり返っている。
一瞬の静寂の後、ひそひそ交わす声が聞こえた。
やがて、ぱらぱらと拍手が聞こえはじめる。
それが次第に、歓声に変わっていく。
あとは手拍子と、会場中の「ハセオ」コールが荒れ狂った。
僕はただ、脱力感と指の疼痛の中、呆然とそれを聞いているしかなかった。
だが、それを鋭く制する声が、熱狂を切り裂いて響き渡った。
「インターバルを要求します!」
こんなに厳しく澄み渡った声で、これだけの人数を黙らせることができる者はひとりしかいない。
観客たちを睨み据えて立ち尽くす白いワンピース。
……紫衣里?
我に返ったところで、僕の勝利の女神は毅然と言い放った。
「彼らには、よりよい試合のために休息が必要です。違いますか?」
佐藤が困ったように舞台に立つ。
「先ほども申し上げましたが、タイムは失格……」
それを遮る声があった。
フィービーだ。
何やらまた理屈をこねだしたので、ポケットのスマホで配信画面を確認する。
「Time’ is a Japanese-made English word.It has no official meaning in competitive rules.You cannot declare a disqualification based on a term that doesn’t exist.」
(『タイム』は日本で作られた英語よ。競技ルールとしての正式な意味は存在しないわ。存在しない用語を根拠に失格を宣告することはできない)
……女神は、もうひとりいたわけだ。
つい、頬が緩むのを感じたが、そこで便乗したフォロワーが、ヤジを飛ばし始めた。
「Let him rest!」(休ませてやれ!)
……そう、トイレはいいから、一息だけ。
僕のささやかな願いだった。
できるなら、もうちょっと静かにしてほしいとも思ったとき、騒然となった会場は冷たい一言で再び沈黙した。
「私は、平気だけど」
聞き覚えがあるのに、どうしても思い出せない、あの声だった。
超絶テクニックを持つ、女王クリームヒルトのプレイヤーだった。
今度は、さっきのオタクたちが喚きだす。
たちまち、フィービーのフォロワーとの罵りあいが始まった。
「日本語で話せバカ!」
「 I’m not listening to you!」(オマエの話なんか聞いてねえ!)
こうなると、もうフィービーでも収拾がつかない。
「Calm down. You’re not helping.」(落ち着きなさい。あなたたちは邪魔してるだけよ。)
ジークフリートが倒した王女メディアやクレルヴォの怨念に囚われたかのように、会場は混乱の渦の中に呑み込まれていく。
もっとも、復讐の女王クリームヒルトとしては、これ以上ないくらいに望ましい光景かもしれない。
僕はというと、もう諦めかけていた。
……もういいよ、ちょっと休めたから。
だが、その荒れ狂う憎しみの嵐は、紫衣里の清冽な声で断ち切られた。
「いい加減にして!」
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