元OLの異世界逆ハーライフ

砂城

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第一章 ハイディン編

真夏の夜の夢魔(4.5)

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                 裏のお話


「ひどいではないか、次席神官! どうして私に月姫が来たことを知らせなかった?」
「おや、これは大神官様。そのように大きな声を出されては、皆のものが驚きまする」
「大きな声も出したくなる。私も月姫に会いたかったのに、お主が一人占めとはずるいではないか」
「人聞きの悪いことをおっしゃいますな。大神官様は、朝の勤行の最中でいらっしゃいましたでしょう? お邪魔をしては申し訳ないと思いまして、わたくしが代わりにお相手させていただいただけでございますよ」
「だからと言って、すぐに帰ったわけではなかろう? 一言知らせてくれればいいものを、私の側付きのものに口止めまでしおって……」

 これは私達が神殿を出てから、少したってからの会話だ。場所は神殿の一角――詳しく言うなら、大神官用の私室だ。そしてアレフ様の前にいるのは、この部屋の主であり、ハイディンの神殿を統括する大神官、御年九十五才。神官としても一人の男性としても脂の乗り切った、やや白いものが混じり始めた黒髪のナイスミドルだ。ちなみに、アレフ様は百五十三才だったりする。
 勿論、このような会話が交わされたことも、その中身も私が知るはずのない事なんだけど――そこは、ほら……ね? 大人のお約束ってことで、スルーしてください。

「彼らとしても、大神官様までお出ましになられれば緊張いたしましょう。悩みの相談においででしたので、わたくしくらいがちょうどよかろうと思った次第でございますよ」
「そういいながら、お主の事だ。悩みの相談がてら、いろいろと探ったのであろう?」
「そのつもりでございましたが……残念ながら、くぎを刺されてしまいました」
「何? 誰にだ?」
「月姫――レイちゃんの後ろにおわしたお方でございますよ」
「レイちゃん? そ、そのような親しげな呼び方は、まさか……」
「お連れの方から、お許しをいただきました。ご本人も、そうお呼びするのを嫌がってはおられませんでしたので」
「うむむ……ま、まぁ、それはよい。いや、よくはないのだが、それよりも今、お主が申した『後ろのお方』とは何者だ?」

 うん、それは私も知りたいところだ――っていうか、ここで話されても、私には聞こえていないんだけどね。

「それなのでございますが……生憎と、わたくし如きの力では、すべてを見通すことが出来ませなんだ」
「な……父上、それは真ですかっ?」
「……大神官様、少々お言葉が乱れておいででございますよ」
「あ……こ、これは、申し訳ありませんっ」
「ですから……わたくしは次席神官でございますぞ。大神官様の部下にございます。でありますのに、その相手に敬語などをお使いになられてはなりません。ついでに申し上げますれば、わたくし奴への呼び方もお間違いになっておられまする」
「……いいではありませんか。他の場所ならばともかく、ここは私の部屋です。他の者の耳目も無いのですから」
「それでも、神殿の内部であることには変わりはございません。上に立つ者として、公と私との区別は、くれぐれも厳密にしていただくよう、あれほど……」
「わ、わかっておりま……い、いや。わかっている。私の心得違いであった」

 大神官さんが言い直すと、アレフ様が『よくできました』とでもいうように、一つ頷く。どうやらこの二人は親子であるらしい。しかも、息子の方が上司になってるみたいだ……やりにくいだろうねぇ、ちょっと同情しちゃうかも。
 しかし、話が横道にそれてしまって、肝心の『後ろのお方』については、まだ何もわかっていない状態だ。

「――ところで、先ほどの話だが。父う……いや、お主の力と言えば教団でも図抜けて、匹敵するものがおらぬ程ではないか。それを以てしても、見通せぬとは……」
「いえいえ、わたくし程度、歴史を紐解けば、いくらでも上の方がいらっしゃいます。そこまでおっしゃって頂くようなものではございませぬよ」
「……歴史に残る方々を引っ張り出してこねばならんのは、十分に凄いと思うのですけどね」
「おや? 今、何かおっしゃいましたか?」
「いえっ、なんでもあり……ない。それよりも、すべてではなくともある程度はわかったのであろう?」
「はい。まず申し上げたいのは、その御方とレイちゃんは、元々、大層近しい――恐らくは、ご家族、ご親族のような間柄であろうかと推察いたしました。更に、彼のお方はレイちゃんを大層愛おしまれ、お気にかけられてございます。現世を去られた存在になられた後も、常にその様子を見守っていらっしゃり、ここぞという時にはご助力をなさったこともある様でございました」
「ふむ……」
「とはいえ、それはあくまでも陰ながらでございます。レイちゃんご本人に、ご自分の事を知られることは避けたいと思召されているようでございました。それから、そのお力につきましてですが……確かとは申し上げ難いところではございますが、あの方も『保持者』で有られたような気配がいたしました」
「な……真かっ?」
「はい。ですが、レイちゃんから感じられる気配に比べて、かなり薄いものでございます。ですので、何らかの事情で一時的にその力を得たのでは、と推察いたします」
「そのようなことが可能なのか?」
「寡聞に致しまして、わたくしは聞いたことがございませぬが、絶対にありえぬとも申し上げられませぬ」
「ううむ……しかし、仮にそうであったとするならば、お主の力が及ばなかったのも頷ける」
「はい。わたくしの力など、所詮は人の身に備わっただけの物。神々のお力を、一時とは言え、身の内に宿された御方に及ぶはずもございませぬ」

 ……うん、なにを話しているのかわからない。すごい力を持った人が、私(レイガ)を守ってくれているってだけは察せられるが、それならば『おばあちゃんが守ってくれてる』ってのは、実際の私もうすうす気が付いていることだからね。

「……その事は、今は一先ず置いておくとして、月姫ご本人は、お主は如何見た?」
「見目形が麗しいのは大神官様もご存じのとおりでございますが、その魂の輝きも素晴らしいものでございましたよ。あれほど優しく明るい光を放つ魂は、わたくしも滅多に目にしたことはございません。ご加護を受けるのもなるほど、と得心いたしました」
「……そこまでか?」
「はい。初めて拝見した『月姫選び』でも、類まれなる輝きを放っておいででしたが、先日、お連れの方とご一緒に、神殿を訪ってくださった時は、その比ではございませんでした。神々に祈りを捧げられておられた折など、幾重にも壁を隔てていたわたくしにまでその輝きが判別できた程でございましたよ」
「そう言えば、そのようなことを申していたな……恥ずかしながら、私には感じる事が出来なかったが……」
「ご精進なされませ。それから……でございますが、その輝きが強い分、悪しきものを集める心配がございます。ご本人の資質が、あくまでも善なるものでいらっしゃいますので、なまなかなものでは悪い影響は受けますまいが……今回のようなこともございますれば、油断は大敵かと存じます」
「ふむ。では、我々としてはどうすればよいと思う?」
「神殿に入って頂くのが最善ではございましょうが、それはまず無理とみてよろしいかと。ですので、静観――で、ございましょうな」
「そうなのか?」
「ご本人には、全くそんな気はないご様子です。お連れの方と、気ままな放浪者の生活を続けていくことが、今のところは一番のお望みであると見受けられました」
「うむぅ……惜しい、惜しすぎる。我が国に三百年ぶりに現れた『保持者』だぞ?」
「それに関しましては、わたくしも同感でございますが、下手な手出しは、後ろのお方の怒りを買う可能性もございます。レイちゃんが穏やかに幸せに過ごされるのを、一番にお考えのご様子でした。ですので、あちらから助力を請うて来られるとき以外は手出し無用かと」
「……わかった。ほかならぬお主のいう事だ。とりあえずはそのように……他の神殿の大神官にもそう伝えよう」
「くれぐれも、その他の方にはお漏らしにならぬよう」
「わかっている――ああ、それから。次に月姫が来たら、必ず私にも知らせるのだぞ?」
「善処、いたします」

 その会話を最後に、大神官さんとアレフ様の密談は終了したようだ。
『保持者』って言うのが何なのか。そして、その事が神殿側に知られたことが、この後意味を持つものになるかどうか――それはまた別の話ってことで、この一幕を終わらせてもらうね。

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