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第四話 女神の試練
「待って!」
私を抱いて踊り始めたジオゴに、デホタが叫ぶ。
彼女の瞳からは真珠のような涙がこぼれ落ちていた。
「なんでそんな女と踊るの? さっき視線が合ったときわかったわ。アナタはアタシの運命の人だって。アナタだってそうでしょう? その女に遠慮しているの?」
「君の恋人は壇上で間抜けな顔して呆けているこの国の王子様だろ?」
「あんなヤツ! 貢いでくれるから付き合ってあげてただけよ。澄ました顔の貴族令嬢から奪い取るのも楽しかったし。でも、でもアナタは違う。生まれて初めての本当の恋なの。アナタはアタシの運命の人なの!」
「ふうん。でも俺の運命の人は君じゃないな」
運命の人は、ときとして一方通行だった。
だから私は期待したのだ。
カルロス王太子殿下の運命の人が現れても、向こうにとっては殿下が運命の人ではないのではないかって。殿下を選ばないのではないかって。だからデホタの運命の人が殿下でないとわかってからは、しばらくあがいてしまったのだ。
デホタの運命の人ではない殿下は壇上で膝をついていた。彼女の発言に衝撃を受けたのだろう。
「なんでよっ!」
いきなり会場に怒声を響かせたのはデホタではなく、王妃だった。
「なんでカルロスはこの場で婚約破棄をしなかったの? なんでその小娘のほうから婚約解消を言い出したのよ! なんであの泥棒女の子どもがここにっ!」
壇上から駆け下りようとした王妃を国王陛下が後ろから羽交い絞めにする。
彼の運命の人は彼女だけれど、彼女の運命の人は彼ではない。
もしかしたら運命の人とは女神の試練なのかもしれない。運命の人への熱い想いを感じても求めるだけでなく相手のことを思いやれるのか、運命の人ではない相手にも誠意をもって接することが出来るのか──
暴れる王妃を押さえて切なげにジオゴを見る国王陛下に、彼は言った。
「あ、うちの母はドミンゲス公爵夫人として幸せに暮らしてますから。母が産んだ俺の弟妹六人もいるし、俺の父親はドミンゲス公爵だけですし」
ジオゴはドミンゲス公爵の実子として届けられている。
この卒業パーティへの出席許可を出した陛下は、彼が息子であることを知らなかった。
帝国の貴人(ドミンゲス公爵は皇帝の従弟だ)がお忍びで行くから詮索するなと、皇帝が直々に親書を送ってくれたのだと聞いている。もちろん問題を起こしたときは補償するとの約束と引き換えに。
ジオゴに拒絶された陛下は、苦しげな顔で唇を噛んだ。
最初に運命の人を選んで婚約者を拒絶したのはご自分なのに。
国王陛下の視線を受けて、カルロス王太子殿下が床に転がって泣きじゃくるデホタを迎えに壇上から降りた。
ジオゴの腕の中で踊りながら、私は思う。
帝国で王妃の運命の人も見つけて連れてきてる、というかジオゴの護衛騎士だったから一緒に来ているのだけど、彼まで投入しないほうがいいわよね。デホタ以上に激しい行動をしそうだもの。
彼の運命の人は王妃ではない。
「ねえエマ、俺を見てる?」
ジオゴに囁かれた。
彼の髪は銀、瞳は青。
どちらも王太子殿下や国王陛下と同じだが、色が濃いので黒髪黒目に見える。
「あなたを見てるわ」
「そうか、良かった」
彼は私が自分とカルロス王太子殿下を重ねているのではないかと気にしている。
でも出生の秘密を打ち明けてもらうまで、私は彼と殿下が似ているだなんて思ったことはなかった。
初めて会ったときから、私はずっと彼を見ている。殿下を諦めたとき胸にぽっかり開いた穴は、気がつくとすっかり塞がっていた。
光り輝くまばゆい存在だったカルロス王太子殿下と違って、ジオゴは素敵な男性にしか見えない。
恋人同士ではないけれど、私はジオゴに恋していた。
互いが互いの運命の人ではないものの、その代わり自分達で運命を築いていけたら良いと思っている。
会場は舞踊曲と楽し気な会話に満ちている。いつしかカルロス王太子殿下とデホタ、そして国王陛下ご夫妻の姿は消えていた。
騒ぎを起こしてしまったのは申し訳なかったけれど、卒業パーティは終わらないようだ。
今夜は素敵な夜になるに違いない。
私を抱いて踊り始めたジオゴに、デホタが叫ぶ。
彼女の瞳からは真珠のような涙がこぼれ落ちていた。
「なんでそんな女と踊るの? さっき視線が合ったときわかったわ。アナタはアタシの運命の人だって。アナタだってそうでしょう? その女に遠慮しているの?」
「君の恋人は壇上で間抜けな顔して呆けているこの国の王子様だろ?」
「あんなヤツ! 貢いでくれるから付き合ってあげてただけよ。澄ました顔の貴族令嬢から奪い取るのも楽しかったし。でも、でもアナタは違う。生まれて初めての本当の恋なの。アナタはアタシの運命の人なの!」
「ふうん。でも俺の運命の人は君じゃないな」
運命の人は、ときとして一方通行だった。
だから私は期待したのだ。
カルロス王太子殿下の運命の人が現れても、向こうにとっては殿下が運命の人ではないのではないかって。殿下を選ばないのではないかって。だからデホタの運命の人が殿下でないとわかってからは、しばらくあがいてしまったのだ。
デホタの運命の人ではない殿下は壇上で膝をついていた。彼女の発言に衝撃を受けたのだろう。
「なんでよっ!」
いきなり会場に怒声を響かせたのはデホタではなく、王妃だった。
「なんでカルロスはこの場で婚約破棄をしなかったの? なんでその小娘のほうから婚約解消を言い出したのよ! なんであの泥棒女の子どもがここにっ!」
壇上から駆け下りようとした王妃を国王陛下が後ろから羽交い絞めにする。
彼の運命の人は彼女だけれど、彼女の運命の人は彼ではない。
もしかしたら運命の人とは女神の試練なのかもしれない。運命の人への熱い想いを感じても求めるだけでなく相手のことを思いやれるのか、運命の人ではない相手にも誠意をもって接することが出来るのか──
暴れる王妃を押さえて切なげにジオゴを見る国王陛下に、彼は言った。
「あ、うちの母はドミンゲス公爵夫人として幸せに暮らしてますから。母が産んだ俺の弟妹六人もいるし、俺の父親はドミンゲス公爵だけですし」
ジオゴはドミンゲス公爵の実子として届けられている。
この卒業パーティへの出席許可を出した陛下は、彼が息子であることを知らなかった。
帝国の貴人(ドミンゲス公爵は皇帝の従弟だ)がお忍びで行くから詮索するなと、皇帝が直々に親書を送ってくれたのだと聞いている。もちろん問題を起こしたときは補償するとの約束と引き換えに。
ジオゴに拒絶された陛下は、苦しげな顔で唇を噛んだ。
最初に運命の人を選んで婚約者を拒絶したのはご自分なのに。
国王陛下の視線を受けて、カルロス王太子殿下が床に転がって泣きじゃくるデホタを迎えに壇上から降りた。
ジオゴの腕の中で踊りながら、私は思う。
帝国で王妃の運命の人も見つけて連れてきてる、というかジオゴの護衛騎士だったから一緒に来ているのだけど、彼まで投入しないほうがいいわよね。デホタ以上に激しい行動をしそうだもの。
彼の運命の人は王妃ではない。
「ねえエマ、俺を見てる?」
ジオゴに囁かれた。
彼の髪は銀、瞳は青。
どちらも王太子殿下や国王陛下と同じだが、色が濃いので黒髪黒目に見える。
「あなたを見てるわ」
「そうか、良かった」
彼は私が自分とカルロス王太子殿下を重ねているのではないかと気にしている。
でも出生の秘密を打ち明けてもらうまで、私は彼と殿下が似ているだなんて思ったことはなかった。
初めて会ったときから、私はずっと彼を見ている。殿下を諦めたとき胸にぽっかり開いた穴は、気がつくとすっかり塞がっていた。
光り輝くまばゆい存在だったカルロス王太子殿下と違って、ジオゴは素敵な男性にしか見えない。
恋人同士ではないけれど、私はジオゴに恋していた。
互いが互いの運命の人ではないものの、その代わり自分達で運命を築いていけたら良いと思っている。
会場は舞踊曲と楽し気な会話に満ちている。いつしかカルロス王太子殿下とデホタ、そして国王陛下ご夫妻の姿は消えていた。
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今夜は素敵な夜になるに違いない。
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