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第一話 お嬢様はお亡くなりになりました。
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魔術学園の講堂で開催されていた、卒業パーティは終わりを迎えた。
今ひとつ精彩に欠けるパーティだったので、出席者も招待客も閉会に安堵している。
閉会の挨拶で壇上に上がった元生徒会長、この国の王太子であるパーヴェルが口を開く。彼の傍らには婚約者の公爵令嬢ではなく、ピンクの髪をした男爵令嬢の姿があった。
「レオンチェフ公爵令嬢ヴェロニカ! 出て来い!」
ぐるりと会場を見回して、パーヴェルは彼女がいないことに気づいた。
魔術学園に入学してピンクの髪の男爵令嬢イリュージアと出会ってからというもの、彼は夜会で婚約者のヴェロニカをエスコートしたことがなかった。
もちろん今夜もイリュージアと会場にやって来た。未来の王太子妃のために組まれた予算は、すべてイリュージアに注ぎ込んできた。
会場の片隅で、ヴェロニカの親友だった貴族令嬢達が憐れむような視線をパーヴェルに向けてくる。
彼女達はパーヴェルの側近達の婚約者だった。
パーヴェルと親しく側近達にも気に入られているイリュージアに嫉妬して苛めたことで、彼女達は五日前に婚約を破棄されていた。側近達にはそう聞いている。
そのせいか、捨てられた貴族令嬢達は華やかな卒業パーティには似つかわしくない喪服のような黒いドレスで出席していた。嫌がらせに違いない。
側近達に捨てられた彼女達をエスコートしてきたのは、それぞれの家の父兄や従者達だった。彼らは壇上のパーヴェル達に嫌悪の視線を向けている。
逆恨みも良いところだ、とパーヴェルは思った。
「いないのか、ヴェロニカ!」
もう一度叫んだとき、赤毛の男が壇の前に進み出てきた。
赤毛といっても燃え上がる炎のように激しい色ではなく、沈みゆく夕日に染まった空を思わせる淡い色だ。ただ、瞳のほうは燃え盛る真紅に彩られていた。
真紅の瞳がパーヴェルを映す。
「……失礼ながらパーヴェル王太子殿下。お嬢様の代わりに私がお答えしてもよろしいでしょうか」
「なに? たかが従者のそなたが私と直接話すというのか? 不敬にもほどが「わらわが発言を許そう」」
レオンチェフ公爵家の従者である青年へのパーヴェルの反論は、彼の実母の言葉によって打ち消された。
女王ジナイーダの夫──パーヴェルの父は五年前、王宮内での事故で亡くなっている。中庭の池に落ちて溺死したのだ。
ジナイーダは扇を動かして青年、ザハールに続きを促した。
「ありがとうございます、女王陛下。……パーヴェル王太子殿下」
「なんだ」
「お嬢様はこちらのパーティ会場にはいらしていません」
「ははっ、そうか。三日前、私の愛しいイリュージアを階段から突き落とした罪で罰せられると察して、怯えて公爵邸に閉じ籠っているのだな」
「いいえ、違います。お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」
そこで耐え切れなくなったかのように、喪服ドレスの貴族令嬢達が泣き崩れた。
女王ジナイーダの眉間に皺が刻まれる。
王太子パーヴェルは、言われたことが理解出来なかった。
「な……なにを言っている?」
今ひとつ精彩に欠けるパーティだったので、出席者も招待客も閉会に安堵している。
閉会の挨拶で壇上に上がった元生徒会長、この国の王太子であるパーヴェルが口を開く。彼の傍らには婚約者の公爵令嬢ではなく、ピンクの髪をした男爵令嬢の姿があった。
「レオンチェフ公爵令嬢ヴェロニカ! 出て来い!」
ぐるりと会場を見回して、パーヴェルは彼女がいないことに気づいた。
魔術学園に入学してピンクの髪の男爵令嬢イリュージアと出会ってからというもの、彼は夜会で婚約者のヴェロニカをエスコートしたことがなかった。
もちろん今夜もイリュージアと会場にやって来た。未来の王太子妃のために組まれた予算は、すべてイリュージアに注ぎ込んできた。
会場の片隅で、ヴェロニカの親友だった貴族令嬢達が憐れむような視線をパーヴェルに向けてくる。
彼女達はパーヴェルの側近達の婚約者だった。
パーヴェルと親しく側近達にも気に入られているイリュージアに嫉妬して苛めたことで、彼女達は五日前に婚約を破棄されていた。側近達にはそう聞いている。
そのせいか、捨てられた貴族令嬢達は華やかな卒業パーティには似つかわしくない喪服のような黒いドレスで出席していた。嫌がらせに違いない。
側近達に捨てられた彼女達をエスコートしてきたのは、それぞれの家の父兄や従者達だった。彼らは壇上のパーヴェル達に嫌悪の視線を向けている。
逆恨みも良いところだ、とパーヴェルは思った。
「いないのか、ヴェロニカ!」
もう一度叫んだとき、赤毛の男が壇の前に進み出てきた。
赤毛といっても燃え上がる炎のように激しい色ではなく、沈みゆく夕日に染まった空を思わせる淡い色だ。ただ、瞳のほうは燃え盛る真紅に彩られていた。
真紅の瞳がパーヴェルを映す。
「……失礼ながらパーヴェル王太子殿下。お嬢様の代わりに私がお答えしてもよろしいでしょうか」
「なに? たかが従者のそなたが私と直接話すというのか? 不敬にもほどが「わらわが発言を許そう」」
レオンチェフ公爵家の従者である青年へのパーヴェルの反論は、彼の実母の言葉によって打ち消された。
女王ジナイーダの夫──パーヴェルの父は五年前、王宮内での事故で亡くなっている。中庭の池に落ちて溺死したのだ。
ジナイーダは扇を動かして青年、ザハールに続きを促した。
「ありがとうございます、女王陛下。……パーヴェル王太子殿下」
「なんだ」
「お嬢様はこちらのパーティ会場にはいらしていません」
「ははっ、そうか。三日前、私の愛しいイリュージアを階段から突き落とした罪で罰せられると察して、怯えて公爵邸に閉じ籠っているのだな」
「いいえ、違います。お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」
そこで耐え切れなくなったかのように、喪服ドレスの貴族令嬢達が泣き崩れた。
女王ジナイーダの眉間に皺が刻まれる。
王太子パーヴェルは、言われたことが理解出来なかった。
「な……なにを言っている?」
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