お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸

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第二話 お嬢様の葬儀はもう終わっています。

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「そんなことがあるはずない! 十日前に亡くなった人間が、どうして三日前にイリュージアを階段から突き落とせる!」

 王太子パーヴェルの質問に、レオンチェフ公爵家の従者ザハールが答える。

「ほかの方が犯人なのではないでしょうか。早く捜査を開始なさったほうがよろしいのではないですか? 階段から突き落とされたという事件自体が、そちらのご令嬢の嘘ではない限り、どこかに犯人がいるということでございましょう?」
「くっ。それは……それは調べる! だが、ヴェロニカが死んだというのは真実なのか? もし真実ならば、婚約者である私に知らせが来ないはずがないだろう!」

「……もう婚約者ではない……」

 ぼそりと呟かれた言葉に、会場中の人間がパーヴェルの母である女王ジナイーダに注目した。

「どういうことですか、母上!」
「十日前ヴェロニカの訃報を公爵から知らされたとき、わらわがそなた達の婚約解消を認めた。そなたとヴェロニカは赤の他人だ」

 レオンチェフ公爵家は王家の傍系だが、血縁関係の話ではないのだろう。
 パーヴェルは青い瞳を見開いた。

「そんな……」
「なにを驚く? もっと喜べばよかろう。どちらにしろこの席で、ヴェロニカとの婚約を破棄するつもりであったのだろう?」
「なぜ母上がご存じなのです?」
「一昨日の朝、囚人に呼び出されて、そなた達の計画を教えてもらった」
「どうして女王である母上が囚人などと……あ!」

 母親の発言に思い当る記憶が蘇り、パーヴェルの全身から血の気が引いた。

「みなの者、魔術学園の卒業パーティはこれで終わりだ。帰路に就くと良い」

 ジナイーダの宣言で、出席者も招待客も会場から出て行く。
 喪服のドレスを着た貴族令嬢達も家族に支えられて去っていった。彼女達の涙は止まることを知らず流れ続けている。
 公爵家の従者ザハールが見事なお辞儀をパーヴェルに見せた。

「それでは私もこれで」
「ま、待て! ヴェロニカの葬儀はいつおこなうのだ!」

 出入口へ向かいかけていたザハールは赤い髪をなびかせて振り向き、パーヴェルを一瞥した。

「五日前に終わっております。聖王猊下と女王陛下をお招きして、王都の公爵邸でひっそりと執り行われました」
「い、五日前? しかも神殿ではなく公爵邸でだと?」
「レオンチェフ公爵家の従者よ、パーヴェルに付き合うことはない。そなたもく帰れ」

 ザハールに帰宅を許し、ジナイーダが息子の前に立った。
 彼女を護衛していた近衛騎士達が、壇上のパーヴェル達元生徒会役員達を取り囲む。
 元生徒会役員達──在学中、魔術学園の生徒達に『男爵令嬢イリュージアのお気に入り』と揶揄されていた面々だ。

「ヴェロニカの葬儀が公爵邸での密葬となったのは彼女の意思だ。手紙が遺されていた」
「じ……自害だったのですか? 私がイリュージアを選んだから?」

 パーヴェルは自分に寄り添っていたはずのイリュージアに視線を送ろうとしたが、彼女はパーヴェルから離れ、ほかのお気に入りに縋りついていた。
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