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後編 もし私の恋心が消えていなかったら
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私は婚約者の王太子殿下を愛していました。
いいえ、残念ながら今も愛しております。
裏切られても幽閉されても、どうしても恋心が消えてくれないのです。
男爵令嬢は感情表現が豊かな可愛らしい女性でした。
殿下はそのような女性がお好きだったのです。
はい、私はそのような女性ではありませんでした。王太子の婚約者としては、そのような女性ではいられなかったのです。いつも毅然として胸を張り、冷徹と言われるほどに感情を抑えていなければいけなかったのです。
親友だと思っていた伯爵令嬢には、よく愚痴を零していました。
殿下を好きだから、愛して見つめているからこそわかる殿下の好み、でもそう振る舞うわけにはいかない苦悩を語っていました。
どうやら彼女はそれを悪用して、男爵令嬢という泥棒猫を作り上げたようです。自分自身がそう振る舞ったら、すぐに私に消されてしまうとでも思っていたのでしょう。ええ、そのときは消し去ってあげていましたとも。
殿下のお心が男爵令嬢に奪われた後も、私は伯爵令嬢を信じていました。
彼女の存在が殿下の癒しになるのなら認めるしかない、でも辛い、苦しい、憎い……そんな想いを吐露していました。
殿下の愛妾になられるのなら、と思って男爵令嬢に厳しい言葉をぶつけたこともあるものの、実際に危害を加えたことはありません。ありませんが、殺してしまいたいとはずっと思っていました。その気持ちは必死で飲み込んでいましたけどね。
あの夜、私は三人の人間を殺すつもりでした。
伯爵令嬢と、男爵令嬢と、王太子殿下です。
扇に隠していた程度の毒で心身ともに殺してしまうことは出来ません。社会的に殺すつもりだったのです。
殿下は男爵令嬢の身辺調査をなさいませんでしたが、私はしていました。
そこで伯爵令嬢の動きも悟ったのです。
とはいえ、男爵令嬢を寵愛している殿下に身辺調査の結果をお伝えしても信じていただけるとは思えませんでした。伯爵令嬢に至っては、確たる証拠がございません。男爵令嬢の部屋で彼女の書いた脅迫状を見つけ出すなんて、王命を受けた近衛騎士隊でもなければ出来ません。
王太子殿下の飲み物に毒を入れることは出来ません。
ご学友の方々に止められてしまいます。
男爵令嬢も無理です。殿下方が守っていらっしゃいますし、本人も私を危険視しているでしょう。
だから伯爵令嬢に飲ませるつもりでした。
卒業パーティではまだ親友の振りをしていると思ったからです。
それに彼女が酒に弱く、少しの量でも顔を赤らめて聞かれたことにはなんでも答えてしまうことは知っていましたので。この王国では学園入学と同時に飲酒が許されています。
でも彼女はすでに私を斬り捨てていました。
殿下があの夜に婚約破棄をする予定だったのですから当然ですね。
私はなにも出来ませんでしたが、結局彼女達は死にました。男爵令嬢は心身ともに、真実を知った殿下と真実を知られた伯爵令嬢は心が。
男爵令嬢の実家は正妻と離縁し、姉娘を絶縁していたことで跡取りがいなくなって潰れてしまいました。男爵自身も令嬢の監督不行き届きで罰を受けたのです。
伯爵令嬢の実家は我が公爵家のとりなしで、男爵位に降爵されただけで済みました。
本来なら一族郎党が処刑されてもおかしくないことを令嬢がしていたのですから、とてつもない恩情ですよね。
王太子殿下は廃太子となり、元伯爵令嬢の婿に入ります。我が公爵家が王家に望んだ償いです。
もともと男爵令嬢と結ばれたかったのですから、殿下は望みが叶って良かったですわね。
爵位以外は別人ですけれどね。
殿下と令嬢は家を降爵させられた当主に恨まれ、廃太子であっても王族を婿に迎えるのだから、と跡取りの座を奪われた令嬢の兄に恨まれ、もう少しで一族郎党で巻き込まれていた家臣と領民に恨まれながら生きて行くのです。
もちろん、ふたりがそれなりに幸せになる可能性もありますわ。
そのとき私の恋心が消えていたら祝福してあげるつもりです。たぶん、さまざまな苦労をして反省なさった末のことでしょうしね。
でも……もし私の恋心が消えていなかったら、そのときは今度こそ殺してあげようと思っています。
社会的にではなく身体的にもです。
そうしたらきっと、私の恋心は跡形もなく消え去ってくれるのだと思うのです。
いいえ、残念ながら今も愛しております。
裏切られても幽閉されても、どうしても恋心が消えてくれないのです。
男爵令嬢は感情表現が豊かな可愛らしい女性でした。
殿下はそのような女性がお好きだったのです。
はい、私はそのような女性ではありませんでした。王太子の婚約者としては、そのような女性ではいられなかったのです。いつも毅然として胸を張り、冷徹と言われるほどに感情を抑えていなければいけなかったのです。
親友だと思っていた伯爵令嬢には、よく愚痴を零していました。
殿下を好きだから、愛して見つめているからこそわかる殿下の好み、でもそう振る舞うわけにはいかない苦悩を語っていました。
どうやら彼女はそれを悪用して、男爵令嬢という泥棒猫を作り上げたようです。自分自身がそう振る舞ったら、すぐに私に消されてしまうとでも思っていたのでしょう。ええ、そのときは消し去ってあげていましたとも。
殿下のお心が男爵令嬢に奪われた後も、私は伯爵令嬢を信じていました。
彼女の存在が殿下の癒しになるのなら認めるしかない、でも辛い、苦しい、憎い……そんな想いを吐露していました。
殿下の愛妾になられるのなら、と思って男爵令嬢に厳しい言葉をぶつけたこともあるものの、実際に危害を加えたことはありません。ありませんが、殺してしまいたいとはずっと思っていました。その気持ちは必死で飲み込んでいましたけどね。
あの夜、私は三人の人間を殺すつもりでした。
伯爵令嬢と、男爵令嬢と、王太子殿下です。
扇に隠していた程度の毒で心身ともに殺してしまうことは出来ません。社会的に殺すつもりだったのです。
殿下は男爵令嬢の身辺調査をなさいませんでしたが、私はしていました。
そこで伯爵令嬢の動きも悟ったのです。
とはいえ、男爵令嬢を寵愛している殿下に身辺調査の結果をお伝えしても信じていただけるとは思えませんでした。伯爵令嬢に至っては、確たる証拠がございません。男爵令嬢の部屋で彼女の書いた脅迫状を見つけ出すなんて、王命を受けた近衛騎士隊でもなければ出来ません。
王太子殿下の飲み物に毒を入れることは出来ません。
ご学友の方々に止められてしまいます。
男爵令嬢も無理です。殿下方が守っていらっしゃいますし、本人も私を危険視しているでしょう。
だから伯爵令嬢に飲ませるつもりでした。
卒業パーティではまだ親友の振りをしていると思ったからです。
それに彼女が酒に弱く、少しの量でも顔を赤らめて聞かれたことにはなんでも答えてしまうことは知っていましたので。この王国では学園入学と同時に飲酒が許されています。
でも彼女はすでに私を斬り捨てていました。
殿下があの夜に婚約破棄をする予定だったのですから当然ですね。
私はなにも出来ませんでしたが、結局彼女達は死にました。男爵令嬢は心身ともに、真実を知った殿下と真実を知られた伯爵令嬢は心が。
男爵令嬢の実家は正妻と離縁し、姉娘を絶縁していたことで跡取りがいなくなって潰れてしまいました。男爵自身も令嬢の監督不行き届きで罰を受けたのです。
伯爵令嬢の実家は我が公爵家のとりなしで、男爵位に降爵されただけで済みました。
本来なら一族郎党が処刑されてもおかしくないことを令嬢がしていたのですから、とてつもない恩情ですよね。
王太子殿下は廃太子となり、元伯爵令嬢の婿に入ります。我が公爵家が王家に望んだ償いです。
もともと男爵令嬢と結ばれたかったのですから、殿下は望みが叶って良かったですわね。
爵位以外は別人ですけれどね。
殿下と令嬢は家を降爵させられた当主に恨まれ、廃太子であっても王族を婿に迎えるのだから、と跡取りの座を奪われた令嬢の兄に恨まれ、もう少しで一族郎党で巻き込まれていた家臣と領民に恨まれながら生きて行くのです。
もちろん、ふたりがそれなりに幸せになる可能性もありますわ。
そのとき私の恋心が消えていたら祝福してあげるつもりです。たぶん、さまざまな苦労をして反省なさった末のことでしょうしね。
でも……もし私の恋心が消えていなかったら、そのときは今度こそ殺してあげようと思っています。
社会的にではなく身体的にもです。
そうしたらきっと、私の恋心は跡形もなく消え去ってくれるのだと思うのです。
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