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2・ヤツらには手を出すな!
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漫研の部室へ向かう途中で振り向いた琴乃ちゃんが言う。
「和奏に伝えたいことがあって探してたのよ。白昼堂々のストーカー行為に驚いて忘れてたわ」
「どんなこと?」
「カラスよ、カラス!」
「カラス?」
カラスといえば思い出す、去年この学校で起こった忌まわしい惨劇。
──漫研部員連続襲撃事件。
「去年は大変だったね」
「大変だったわー。性別も学年も推しジャンルも違うのに、アイツら正確に漫研部員を襲ってきたからね」
「きっかけは部長さんだっけ」
「そ。校門を出るまで見るのを我慢できなかった部長が、鞄から出して校庭で落とした推しキャラのイメージアクセサリーがすべての元凶」
光り物の大好きなカラスは、文化部所属でいささか運動神経に欠ける部長さんの眼前からアクセサリーを奪い去った。
「校務員さんが校内のカラスの巣を撤去するんだから、そのとき回収してくれって頼めば良かったのに」
去年のことを思い出して、琴乃ちゃんが溜息をつく。
「部長さん、学校中のカラスの巣を調べたんだったっけ」
「そ。最後の巣で見つかったのはいいけれど、それまでに巣を壊し卵を割ってたものだからカラスの恨みはMAX! 関係ないアタシたちまで襲われる羽目に!」
「カラスは頭いいっていうものねえ。クルミの殻が割れないときは車に轢かせるんでしょ?」
「電車の線路に置き石したりもするんだって。怖い話よね」
「うんうん。あの後、校務員さんや先生が一気に撤去してくれたから今年は校内でカラス見かけないねえ」
良かった良かった。
とかのん気に喜んでいたら、琴乃ちゃんが真剣な表情になる。
「琴乃ちゃん?」
「学校から追い出されたカラス、今年はどこに巣を作ったと思う?」
「山じゃない?」
「ハズレ。和奏ん家の近くの公園です。ほら、あの大きな噴水があるとこ」
「ええー? そんなの全然……あ」
冬花さんが亡くなってから、しばらくスマホゲームをしていなかった。
モンスターも捕まえに行っていない。
彼女と出会った公園にも当然足を向けてはいなかった。
「そうかー。カラスたち噴水公園に来たのか……」
そろそろゲームを再開して、冬花さんに譲ってもらったモンスターを育てようと思っていたところだったのに。
「巣に手出ししなければ大丈夫だと思うよ? 和奏がそんなことするとは思わないし、でも……がっくん元気だから」
「あー……」
弟の楽は小学五年生。
わたしと琴乃ちゃんは小学一年生からの仲なので、彼女は赤ちゃん時代から楽を知っている。
「気をつけるよう言う、けど……」
楽は、スマホゲームくらいしか趣味のないぼんやりしたわたしより、文化部所属の割にアクティブな琴乃ちゃんを慕っている。
琴乃ちゃんは漫研といっても二次元より三次元担当のコスプレイヤーで、オリジナルキャラのイメージを壊さないカッコいいポーズを取るため日々の筋トレを欠かさない子。
身長はそこら辺の男子よりも高いし、六つに腹の割れた鍛えられた体で男装した姿は、本当に漫画から抜け出てきたような麗しさだ。
彼女はそのしなやかな体躯を活かし、イタズラをした楽が走って逃げようとしても一瞬で捕まえる。
我が弟は琴乃ちゃんのそんなところを尊敬しているようだ。
というか、敵わないと思っているらしい。
「厳しく言わなきゃダメだよ。カラスは怖いからね。……ホント、怖いからね……」
去年の惨劇を思い出したのか、琴乃ちゃんの声が小さくなっていく。
カラスたちは一緒にいたわたしには見向きもせず、執拗に琴乃ちゃんを襲っていたっけ。
なんだかんだで要領のいい楽はカラスに襲われても上手く逃げそうだけど、わたしは無理だろうな。
髪や服をグチャグチャにされて、お弁当やオヤツを巻き上げられちゃうかも。
漫研の惨劇から考えるに、性別や年齢が違っても矢上家の一員だと察して襲ってくるんだろうなー、怖いなー。
カラスの巣にだけは手を出さないよう、楽に言っておかなくちゃ。
情報を教えてくれた琴乃ちゃんにお礼を言って、わたしは帰路に就いた。
──校門を出たところで溜息をつく。
どう考えても、楽がわたしの言葉に従う未来が見えない。
むしろ話をしたら嬉々としてカラスにちょっかい出しに行きそう。
なにも言わないほうが良かったりして。
「和奏に伝えたいことがあって探してたのよ。白昼堂々のストーカー行為に驚いて忘れてたわ」
「どんなこと?」
「カラスよ、カラス!」
「カラス?」
カラスといえば思い出す、去年この学校で起こった忌まわしい惨劇。
──漫研部員連続襲撃事件。
「去年は大変だったね」
「大変だったわー。性別も学年も推しジャンルも違うのに、アイツら正確に漫研部員を襲ってきたからね」
「きっかけは部長さんだっけ」
「そ。校門を出るまで見るのを我慢できなかった部長が、鞄から出して校庭で落とした推しキャラのイメージアクセサリーがすべての元凶」
光り物の大好きなカラスは、文化部所属でいささか運動神経に欠ける部長さんの眼前からアクセサリーを奪い去った。
「校務員さんが校内のカラスの巣を撤去するんだから、そのとき回収してくれって頼めば良かったのに」
去年のことを思い出して、琴乃ちゃんが溜息をつく。
「部長さん、学校中のカラスの巣を調べたんだったっけ」
「そ。最後の巣で見つかったのはいいけれど、それまでに巣を壊し卵を割ってたものだからカラスの恨みはMAX! 関係ないアタシたちまで襲われる羽目に!」
「カラスは頭いいっていうものねえ。クルミの殻が割れないときは車に轢かせるんでしょ?」
「電車の線路に置き石したりもするんだって。怖い話よね」
「うんうん。あの後、校務員さんや先生が一気に撤去してくれたから今年は校内でカラス見かけないねえ」
良かった良かった。
とかのん気に喜んでいたら、琴乃ちゃんが真剣な表情になる。
「琴乃ちゃん?」
「学校から追い出されたカラス、今年はどこに巣を作ったと思う?」
「山じゃない?」
「ハズレ。和奏ん家の近くの公園です。ほら、あの大きな噴水があるとこ」
「ええー? そんなの全然……あ」
冬花さんが亡くなってから、しばらくスマホゲームをしていなかった。
モンスターも捕まえに行っていない。
彼女と出会った公園にも当然足を向けてはいなかった。
「そうかー。カラスたち噴水公園に来たのか……」
そろそろゲームを再開して、冬花さんに譲ってもらったモンスターを育てようと思っていたところだったのに。
「巣に手出ししなければ大丈夫だと思うよ? 和奏がそんなことするとは思わないし、でも……がっくん元気だから」
「あー……」
弟の楽は小学五年生。
わたしと琴乃ちゃんは小学一年生からの仲なので、彼女は赤ちゃん時代から楽を知っている。
「気をつけるよう言う、けど……」
楽は、スマホゲームくらいしか趣味のないぼんやりしたわたしより、文化部所属の割にアクティブな琴乃ちゃんを慕っている。
琴乃ちゃんは漫研といっても二次元より三次元担当のコスプレイヤーで、オリジナルキャラのイメージを壊さないカッコいいポーズを取るため日々の筋トレを欠かさない子。
身長はそこら辺の男子よりも高いし、六つに腹の割れた鍛えられた体で男装した姿は、本当に漫画から抜け出てきたような麗しさだ。
彼女はそのしなやかな体躯を活かし、イタズラをした楽が走って逃げようとしても一瞬で捕まえる。
我が弟は琴乃ちゃんのそんなところを尊敬しているようだ。
というか、敵わないと思っているらしい。
「厳しく言わなきゃダメだよ。カラスは怖いからね。……ホント、怖いからね……」
去年の惨劇を思い出したのか、琴乃ちゃんの声が小さくなっていく。
カラスたちは一緒にいたわたしには見向きもせず、執拗に琴乃ちゃんを襲っていたっけ。
なんだかんだで要領のいい楽はカラスに襲われても上手く逃げそうだけど、わたしは無理だろうな。
髪や服をグチャグチャにされて、お弁当やオヤツを巻き上げられちゃうかも。
漫研の惨劇から考えるに、性別や年齢が違っても矢上家の一員だと察して襲ってくるんだろうなー、怖いなー。
カラスの巣にだけは手を出さないよう、楽に言っておかなくちゃ。
情報を教えてくれた琴乃ちゃんにお礼を言って、わたしは帰路に就いた。
──校門を出たところで溜息をつく。
どう考えても、楽がわたしの言葉に従う未来が見えない。
むしろ話をしたら嬉々としてカラスにちょっかい出しに行きそう。
なにも言わないほうが良かったりして。
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