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第二話 覆された証言
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ナタリア様の問いに、ロナウド様は顔を上げ自信に満ちた表情で答えました。
「はい、ナタリア嬢。南部貴族派のみなが証言してくれました」
「……そうなの?」
振り向いたロナウド様と冷たい声でお尋ねになったナタリア様の視線を受けて、ただでさえ青くなっていた南部貴族派の方々の顔色が白くなります。
南部貴族派の中で、ロナウド様のブラガ侯爵家の次に権力を持っている伯爵家の令嬢が首を傾げました。
「どう……だったでしょうか?」
「伯爵令嬢? 私が尋ねたとき、クェアダを虐めていたのはジュリアナだと、はっきりと言ってくれたではないか」
「お、覚えておりません。よくわからなくて首を傾げたのを、ロナウド様が頷きと勘違いされたのではないですか?」
「ピント子爵子息マノエルよ、君なら証言してくれるな? クェアダの状況に、私以上に怒ってくれていたではないか」
「……は、はい」
「ほら! ちゃんと証言者がいる! ジュリアナは隠れてクェアダを虐めていたから、ピント子爵子息以外には目撃されていなかったのです!」
「なるほど」
ナタリア様は楽しそうに微笑みます。
「貴方はそれでよろしいのですね? ペリゴ男爵令嬢もジュリアナ様に虐められたということで間違いなくて?」
ナタリア様に見つめられて、ペリゴ男爵令嬢は小刻みに震え始めました。
「嘘偽りはないのね? 王太子殿下や国王陛下の前でも証言を翻すことはないと誓えるのね?」
「いいえ!」
ペリゴ男爵令嬢が叫びました。ロナウド様の緑色の瞳が驚きに見開かれます。
「クェアダ?」
「アタシ、虐めてきた方をはっきりと見ていないのです。……その……目を塞がれていて」
「なにを言っているんだ、クェアダ。これまでの虐めの犯人はジュリアナだったと、はっきり私に言ってくれたじゃないか」
「ロナウド様と親しくしているからジュリアナ様に嫉妬されているのだと思っただけで、確証はありません!」
「マノエル? 君は王太子殿下や国王陛下の御前だったとしても真実を証言してくれるよな?」
「もちろんそのときには、きちんと調査を済ませて真実を明らかにしておきますわよ」
ナタリア様の視線を受けて、ピント子爵子息は勢いよく頭を下げました。
「も、申し訳ありません! 私も確証はありません。クェアダ嬢の話を聞いて、そうではないかと思っただけです」
「そう。でも王太子殿下が卒業なさった栄えあるこの学園で虐めがおこなわれているなんて由々しき事態だわ。卒業までには真実を明らかにしましょうね」
私達は最終学年です。卒業までは残り半年を切りました。
いろいろと思うことはありましたが、卒業したらロナウド様のもとへ嫁ぐのだと認識しておりました。
これからのことを考えていた私に、ロナウド様が叫びました。
「ジュリアナ、君の仕業だな!」
「はい?」
ナタリア様がご登場なさってからは、観客のひとりになっていた私がなにか?
「君がナタリア様に泣きついて事実を捻じ曲げようとしているのだな! クェアダ、マノエル、恐れることはない。事実は事実なんだ」
ナタリア様が深い深い溜息をつきました。
「……ブラガ侯爵令息様、貴方のその発言は私とエステヴェス公爵家、それだけでなく王太子殿下と王家をも侮辱するものだとおわかりかしら? 婚約破棄の件は殿下に報告しておきますが、どうしてもジュリアナ様が虐めの犯人だとおっしゃるのなら、ちゃんとお調べになって証拠をお持ちくださいませね」
さすがにロナウド様の顔色も変わって、彼は黙りました。
東部貴族派との婚約を勝手に破棄した挙句、中央貴族派とも不仲になったのでは南部貴族派は終わりです。
海に面し、潮風のせいで食糧生産が難しい西部貴族派は、食糧供給を盾に居丈高な振る舞いをしていた南部貴族派を昔から嫌っています。北部貴族派、というのはありません。
校舎の方角から昼休みの終わり、午後の授業開始の鐘が鳴り響きます。
私達は校舎へ向けて歩き始めました。
婚約を破棄されても授業はあるのです。
「はい、ナタリア嬢。南部貴族派のみなが証言してくれました」
「……そうなの?」
振り向いたロナウド様と冷たい声でお尋ねになったナタリア様の視線を受けて、ただでさえ青くなっていた南部貴族派の方々の顔色が白くなります。
南部貴族派の中で、ロナウド様のブラガ侯爵家の次に権力を持っている伯爵家の令嬢が首を傾げました。
「どう……だったでしょうか?」
「伯爵令嬢? 私が尋ねたとき、クェアダを虐めていたのはジュリアナだと、はっきりと言ってくれたではないか」
「お、覚えておりません。よくわからなくて首を傾げたのを、ロナウド様が頷きと勘違いされたのではないですか?」
「ピント子爵子息マノエルよ、君なら証言してくれるな? クェアダの状況に、私以上に怒ってくれていたではないか」
「……は、はい」
「ほら! ちゃんと証言者がいる! ジュリアナは隠れてクェアダを虐めていたから、ピント子爵子息以外には目撃されていなかったのです!」
「なるほど」
ナタリア様は楽しそうに微笑みます。
「貴方はそれでよろしいのですね? ペリゴ男爵令嬢もジュリアナ様に虐められたということで間違いなくて?」
ナタリア様に見つめられて、ペリゴ男爵令嬢は小刻みに震え始めました。
「嘘偽りはないのね? 王太子殿下や国王陛下の前でも証言を翻すことはないと誓えるのね?」
「いいえ!」
ペリゴ男爵令嬢が叫びました。ロナウド様の緑色の瞳が驚きに見開かれます。
「クェアダ?」
「アタシ、虐めてきた方をはっきりと見ていないのです。……その……目を塞がれていて」
「なにを言っているんだ、クェアダ。これまでの虐めの犯人はジュリアナだったと、はっきり私に言ってくれたじゃないか」
「ロナウド様と親しくしているからジュリアナ様に嫉妬されているのだと思っただけで、確証はありません!」
「マノエル? 君は王太子殿下や国王陛下の御前だったとしても真実を証言してくれるよな?」
「もちろんそのときには、きちんと調査を済ませて真実を明らかにしておきますわよ」
ナタリア様の視線を受けて、ピント子爵子息は勢いよく頭を下げました。
「も、申し訳ありません! 私も確証はありません。クェアダ嬢の話を聞いて、そうではないかと思っただけです」
「そう。でも王太子殿下が卒業なさった栄えあるこの学園で虐めがおこなわれているなんて由々しき事態だわ。卒業までには真実を明らかにしましょうね」
私達は最終学年です。卒業までは残り半年を切りました。
いろいろと思うことはありましたが、卒業したらロナウド様のもとへ嫁ぐのだと認識しておりました。
これからのことを考えていた私に、ロナウド様が叫びました。
「ジュリアナ、君の仕業だな!」
「はい?」
ナタリア様がご登場なさってからは、観客のひとりになっていた私がなにか?
「君がナタリア様に泣きついて事実を捻じ曲げようとしているのだな! クェアダ、マノエル、恐れることはない。事実は事実なんだ」
ナタリア様が深い深い溜息をつきました。
「……ブラガ侯爵令息様、貴方のその発言は私とエステヴェス公爵家、それだけでなく王太子殿下と王家をも侮辱するものだとおわかりかしら? 婚約破棄の件は殿下に報告しておきますが、どうしてもジュリアナ様が虐めの犯人だとおっしゃるのなら、ちゃんとお調べになって証拠をお持ちくださいませね」
さすがにロナウド様の顔色も変わって、彼は黙りました。
東部貴族派との婚約を勝手に破棄した挙句、中央貴族派とも不仲になったのでは南部貴族派は終わりです。
海に面し、潮風のせいで食糧生産が難しい西部貴族派は、食糧供給を盾に居丈高な振る舞いをしていた南部貴族派を昔から嫌っています。北部貴族派、というのはありません。
校舎の方角から昼休みの終わり、午後の授業開始の鐘が鳴り響きます。
私達は校舎へ向けて歩き始めました。
婚約を破棄されても授業はあるのです。
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