国王の情婦

豆狸

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第五話 待ち望んでいた便りのように

 十五歳の初めての夜会で一曲踊り終わった後、カンナヴァーロ陛下は私を露台に誘ってくださいました。
 大きな手に支えられて会場から離れました。
 王都の夜景を見つめながら、陛下は私にキスをしてくださいました。父と同い年なのは知っていましたが、陛下のことは少し年上の男性としか思っていませんでした。私は驚きながらも、そのキスが嬉しかったのです。

 そして陛下は──

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 三年制の学園を卒業するのはもうすぐです。
 私は婚約者である王太子エドアルド殿下へ嫁ぐことになるでしょう。
 いくら私が『国王の情婦』と呼ばれていても息子の婚約者を父親が奪ったなんて醜聞、歓迎出来るものではありません。ですが、夫の王太子を喪った哀れな妃を跡取りのいない国王が娶るというのなら……

「お嬢様」

 バンビの声に思索から我に返ります。
 神殿で許しを得たのに、私の心は安らいでいません。
 胸の中で暴れる醜い感情に翻弄されていたのです。私は愛してはいけない方を愛しているのです。間違っているとわかっていても、この気持ちを捨てられないのです。

 私は王太子エドアルド殿下の婚約者なのに。
 たとえ彼に愛されていなくても、彼を愛さなくてはいけないのに。
 必死で妃教育を重ねて来た過去の自分の努力さえ投げ捨てて、王太子妃としての輝かしい未来よりも穢れた恋情を掴もうとしているのです。

「なぁに?」

 汚らしい心が溢れ出ないように、私はぎこちなく笑みを浮かべました。
 私がどんな人間なのか、バンビにはすべて知られているとわかっているのですが、これは主人の見栄というものです。
 どんなに愚かな道を選んだとしても、彼女の忠義には応えたいと思っています。

「例のものが用意出来ました」
「あら、もう?」

 学園の卒業まではもうすぐですが、それでもまだ数ヶ月はあります。
 私が求めていたものは、予定よりも早く手に入ったようです。
 手に入ったからには、一刻も早く使わなくてはなりません。

 それの調達は、今日行った神殿の裏通りでバンビがおこなってくれていました。
 今日行った神殿は貴族街と平民街の境界にあって、表の入り口は貴族街に面していて、裏に併設された孤児院は平民街に接しているのです。
 炊き出しをすることもあるので、平民街といっても貧民窟に近い場所でした。だから、あまり大声では言えないものを手に入れることが出来たのです。

「それではグレコ公爵邸へ戻らなくてはね」
「はい。お嬢様が王宮にいらっしゃったのでは、いろいろとやり難いですからね」
「カンナヴァーロ陛下に帰宅の許可をいただいて参りましょう」

 学園で授業を終えた後、神殿に寄ってから王宮へ帰り夕食を済ませたので、今はもうかなり遅い時間です。
 でも陛下は私が頼めば会ってくださるでしょう。
 黄金の髪を揺らし、青い瞳を細めて、陛下は私のどんな我儘も叶えてくださるのです。

 ──私のベラ。

 あの夜会の日から、カンナヴァーロ陛下は私をそう呼ぶのです。
 優しい微笑みを浮かべて、甘くて低いその声で。
 まるで私を愛しているかのように。

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