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49・その後のトム
「キミんとこの王太子おかしいよッ!」
ジュルネ王国の尋問部屋でオートムヌは叫んだ。
オートムヌは負けたのだ。
魔王と聖女と以前の専属聖騎士と今の専属聖騎士、それから魔王四天王に押し寄せられたくらいでは負ける気はなかった。四天王には気づいていなかったので、ちょっと驚いたけれど。
だがまさか、王太子があんなにも厄介だとは思わなかった。
「普通さ、自分の家に伝わってた、守護神から与えられて神剣と崇めてた武器が壊されたら絶望しない? しかもソレ、これまでずっと自分達を苦しめてきたボクが作ったものだったんだよ? なんで武器がなくなったのに微笑んで、手首曲げて挑発までしてくるの?」
それからの王太子イヴェールは、まるで水を得た魚のようだった。
舞い踊る蝶のように動いてオートムヌの攻撃を避け、蜂の鋭い針のような拳を叩きこんできた。
オートムヌは自分を親友と呼んだプランタン大公と同じように、拳に敗れたのだ。聖女と以前の専属聖騎士と当代の専属聖騎士と魔王四天王の魔力で弱体化されていたなんて言い訳にも――いや、結構言い訳にできるだろう。まだ捜索と調査の段階だったのに、なんで精鋭が雁首揃えているのだ。
「ドラゴンゾンビも役に立たなかったしねえ」
王太子の激しい攻撃をしのぐので精いっぱいだったオートムヌは、ドワーフの首輪のアンデッド化を作動する余裕がなかった。ドワーフをアンデッド化したり、隷属の首輪で操ったりしていれば、聖女達はかく乱できたはずだ。
自動で破壊活動をするはずのドラゴンゾンビは一瞬で無効化された。
魔王ソワレの拳で。
「母親が死んでも父親が死んでも、だれにも泣きつけずに自室で泣きじゃくることしかできなかったソワレちゃんが、あんなに活躍するとはねえ」
オートムヌは溜息をつく。
ソワレは竜にまで変化せず翼だけ出した状態でドラゴンゾンビを倒し、ヒヒイロカネ製の心臓を取り出してドワーフを救ったのだ。
巨大な竜に変化することでマタン山脈を壊さないようにだろうとオートムヌは思っている。腐肉に飛び込んだのも首輪を嵌められたドワーフ達を助けるためだったに違いない。
なお、オートムヌが自室で泣きじゃくるソワレを知っていたのは、魔王城の結界程度ではハイエルフの強い魔力を妨げられないからだ。
「……人間も魔人もエルフもドワーフもボクより先に死んでいくし、ボクなんか置いて変わってっちゃうんだよね」
「ソワレたんの成長が悲しいのですか?」
「ソワレ……たん?」
オートムヌを尋問しているのはバグオジ達である。
もちろんオートムヌはそんな呼び名は知らない。
アッシュが呆れ顔でランスを見つめる。
「ランス、その名で呼ぶなって言われてなかったか?」
「この哀れな下僕は、ご本人に呼びかけなければ良いと理解しております」
マルス将軍が溜息をつき、シャルジュが愉悦の笑みを浮かべる。
バグオジなんて呼び名は知らないものの、オートムヌはいずれ敵対するかもしれないと考えて、代々の聖女専属聖騎士の名前は確認していた。
だから因縁深い『拳の聖女』マチネの専属水の聖騎士だったランスが、なんかちょっとアレな男だということも知っている。
「オートムヌ殿、あなたもこの哀れな下僕ランスめと同じようにソワレたんが推しなのですね。確かに推しの成長は嬉しくも悲しいものです。推しが自分の手の届かないところへ行ってしまったような気持ちになりますものね。でもものは考えようです。推しは最初から太陽! 月! 星! この世のすべての煌めきを集めたよりも目映い光で、この哀れな下僕どもが触れては良い存在ではないのです。……オートムヌ殿。この哀れな下僕は同担拒否族ではありませんので、あなただけが独占しているソワレたんの思い出を語ってくれても良いのですよ?」
オートムヌは周囲を見回した。
マルス将軍とアッシュは、理解不能、とでも言いたげな顔をしている。
シャルジュは心底楽しげにランスを見つめている。ランスはオートムヌを眼鏡の向こうの瞳に映している。
オートムヌは死刑になることが決まっている。
当然だ。
これまでアンデッドによって殺した人間も魔人もエルフもドワーフも、何千人では足りない。何万、何十万の域に達している。
先代『蹴撃の聖女』以前の聖女が短命だったのもオートムヌのせいだ。闇は光に弱く、光は闇に弱い。多くのアンデッドを浄化することで、これまでの聖女達は寿命を縮めてきた。
オートムヌの考えはこれからも変わらない。
みんな自分より先に死んでいくことが変わらないのだから、その死を悼む気もない。
「ソワレたんは転生者だとお聞きしていますが、幼いころからなにか特別な発言をなさったりしていましたか?」
「ん? そういえばボクのこと知ってるって言われたことあるな。ソワレちゃんってば妙な発言が多い子で。……でも知ってるって言いながら、詳しいことは覚えてないって笑ってたんだよね」
オートムヌは生まれつきハイエルフだったわけではない。
エルフとして生まれ、どこかでなにかがあって強い魔力を得てハイエルフとなったのだ。
その辺りのことは自分でも思い出せないでいる。プランタン大公との思い出や彼の願いで魔王一家を観察していたことは忘れられないのに。
「生まれ変わるときにすべての記憶を持っていくことはできないのでしょうね。それでもこの哀れな下僕はいつか転生したとしても、ソワレたんとマチネたんのことだけは覚えていたいと思うのです」
「……ふーん」
オートムヌが変わらないとわかっていても尋問は続く。
彼がハイエルフになった原因や問題点を追究することで、これからハイエルフになるかもしれないエルフへの対応を考えられる。何千年もの知識自体がなにかの役に立つかもしれない。
寿命の長短もおこないの善悪も関係なく、だれかが生きたという事実は残るのだ。
ジュルネ王国の尋問部屋でオートムヌは叫んだ。
オートムヌは負けたのだ。
魔王と聖女と以前の専属聖騎士と今の専属聖騎士、それから魔王四天王に押し寄せられたくらいでは負ける気はなかった。四天王には気づいていなかったので、ちょっと驚いたけれど。
だがまさか、王太子があんなにも厄介だとは思わなかった。
「普通さ、自分の家に伝わってた、守護神から与えられて神剣と崇めてた武器が壊されたら絶望しない? しかもソレ、これまでずっと自分達を苦しめてきたボクが作ったものだったんだよ? なんで武器がなくなったのに微笑んで、手首曲げて挑発までしてくるの?」
それからの王太子イヴェールは、まるで水を得た魚のようだった。
舞い踊る蝶のように動いてオートムヌの攻撃を避け、蜂の鋭い針のような拳を叩きこんできた。
オートムヌは自分を親友と呼んだプランタン大公と同じように、拳に敗れたのだ。聖女と以前の専属聖騎士と当代の専属聖騎士と魔王四天王の魔力で弱体化されていたなんて言い訳にも――いや、結構言い訳にできるだろう。まだ捜索と調査の段階だったのに、なんで精鋭が雁首揃えているのだ。
「ドラゴンゾンビも役に立たなかったしねえ」
王太子の激しい攻撃をしのぐので精いっぱいだったオートムヌは、ドワーフの首輪のアンデッド化を作動する余裕がなかった。ドワーフをアンデッド化したり、隷属の首輪で操ったりしていれば、聖女達はかく乱できたはずだ。
自動で破壊活動をするはずのドラゴンゾンビは一瞬で無効化された。
魔王ソワレの拳で。
「母親が死んでも父親が死んでも、だれにも泣きつけずに自室で泣きじゃくることしかできなかったソワレちゃんが、あんなに活躍するとはねえ」
オートムヌは溜息をつく。
ソワレは竜にまで変化せず翼だけ出した状態でドラゴンゾンビを倒し、ヒヒイロカネ製の心臓を取り出してドワーフを救ったのだ。
巨大な竜に変化することでマタン山脈を壊さないようにだろうとオートムヌは思っている。腐肉に飛び込んだのも首輪を嵌められたドワーフ達を助けるためだったに違いない。
なお、オートムヌが自室で泣きじゃくるソワレを知っていたのは、魔王城の結界程度ではハイエルフの強い魔力を妨げられないからだ。
「……人間も魔人もエルフもドワーフもボクより先に死んでいくし、ボクなんか置いて変わってっちゃうんだよね」
「ソワレたんの成長が悲しいのですか?」
「ソワレ……たん?」
オートムヌを尋問しているのはバグオジ達である。
もちろんオートムヌはそんな呼び名は知らない。
アッシュが呆れ顔でランスを見つめる。
「ランス、その名で呼ぶなって言われてなかったか?」
「この哀れな下僕は、ご本人に呼びかけなければ良いと理解しております」
マルス将軍が溜息をつき、シャルジュが愉悦の笑みを浮かべる。
バグオジなんて呼び名は知らないものの、オートムヌはいずれ敵対するかもしれないと考えて、代々の聖女専属聖騎士の名前は確認していた。
だから因縁深い『拳の聖女』マチネの専属水の聖騎士だったランスが、なんかちょっとアレな男だということも知っている。
「オートムヌ殿、あなたもこの哀れな下僕ランスめと同じようにソワレたんが推しなのですね。確かに推しの成長は嬉しくも悲しいものです。推しが自分の手の届かないところへ行ってしまったような気持ちになりますものね。でもものは考えようです。推しは最初から太陽! 月! 星! この世のすべての煌めきを集めたよりも目映い光で、この哀れな下僕どもが触れては良い存在ではないのです。……オートムヌ殿。この哀れな下僕は同担拒否族ではありませんので、あなただけが独占しているソワレたんの思い出を語ってくれても良いのですよ?」
オートムヌは周囲を見回した。
マルス将軍とアッシュは、理解不能、とでも言いたげな顔をしている。
シャルジュは心底楽しげにランスを見つめている。ランスはオートムヌを眼鏡の向こうの瞳に映している。
オートムヌは死刑になることが決まっている。
当然だ。
これまでアンデッドによって殺した人間も魔人もエルフもドワーフも、何千人では足りない。何万、何十万の域に達している。
先代『蹴撃の聖女』以前の聖女が短命だったのもオートムヌのせいだ。闇は光に弱く、光は闇に弱い。多くのアンデッドを浄化することで、これまでの聖女達は寿命を縮めてきた。
オートムヌの考えはこれからも変わらない。
みんな自分より先に死んでいくことが変わらないのだから、その死を悼む気もない。
「ソワレたんは転生者だとお聞きしていますが、幼いころからなにか特別な発言をなさったりしていましたか?」
「ん? そういえばボクのこと知ってるって言われたことあるな。ソワレちゃんってば妙な発言が多い子で。……でも知ってるって言いながら、詳しいことは覚えてないって笑ってたんだよね」
オートムヌは生まれつきハイエルフだったわけではない。
エルフとして生まれ、どこかでなにかがあって強い魔力を得てハイエルフとなったのだ。
その辺りのことは自分でも思い出せないでいる。プランタン大公との思い出や彼の願いで魔王一家を観察していたことは忘れられないのに。
「生まれ変わるときにすべての記憶を持っていくことはできないのでしょうね。それでもこの哀れな下僕はいつか転生したとしても、ソワレたんとマチネたんのことだけは覚えていたいと思うのです」
「……ふーん」
オートムヌが変わらないとわかっていても尋問は続く。
彼がハイエルフになった原因や問題点を追究することで、これからハイエルフになるかもしれないエルフへの対応を考えられる。何千年もの知識自体がなにかの役に立つかもしれない。
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