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48・その日のトム
「この山脈から掘り出された古代竜の骨から作り上げたドラゴンゾンビは強大だし、たとえ倒せたとしてもその身を纏う腐肉に埋まってまでヒヒイロカネ製の心臓を取り出そうというバカはいないよね。心臓に辿り着く前に腐肉に押し潰されちゃうよ」
今回の計画はこれまでとは違う。
もちろんだれもオートムヌを倒すことなどできないだろう。
それでもこの大陸のすべてを破壊して、残る思い出への未練を断ち切ることくらいはできるはずだ。
ドラゴンゾンビを作り出したのは戦略上の都合に過ぎない。
プランタン大公の願いで見守っていた聖女の娘が竜に変化することとは、なんの関係もない。
ずっと騎乗していたワイバーンが限界を迎えたので、使っていた腐肉を再利用したかっただけなのだ。もっともドラゴンゾンビを覆う腐肉のほとんどは、新しく狩ったモンスターの肉なのだが。
「……あれ? ソワレちゃんの魔力が近づいてくる。聖女エクラの魔力で隠してるつもりなのかなあ。宣戦布告もしてないのにどうしたんだろ? 前に逃げた、まだ首輪を嵌めていなかったドワーフの子どもが生き延びてたのかな? 隠し部屋の転移陣も反応し始めたみたいだし……まあ、いいや。魔王と聖女と以前の専属聖騎士と今の専属聖騎士、それから王太子くらいじゃボクには勝てない」
オートムヌは、魔王に気づかれないために魔力を潜めて尾行している四天王の存在には気づいていなかった。
というより、一度に近づいてきているものが多過ぎるのだ。
それでもオートムヌは自身の勝利を確信していた。これまでと同じように、人間も魔人もエルフもドワーフも自分より先に死んでいくのだ。
★ ★ ★ ★ ★
ルトは歩いていた。
大人達に助けられて、マタン山脈を脱出してから何日が過ぎ去ったことだろう。
高く聳える魔王城はすぐそこに見えるのに、どんなに歩いても近づけない。ドワーフ達が魔王城を造ったとき土台に結界の魔法文字を刻んだことは聞いていたが、城下町や近隣の村になら辿り着けそうなものなのに。
ルトが外部に救助を求めるための脱出者に選ばれたのは、母が人間だからだった。
魔力の少ない子どもなので、まだハイエルフに隷属の首輪を嵌められていないものの、身体は母に似て通常のドワーフよりも大きく、腕力自体は父譲りで人間よりも強かったのが決め手である。
それでも限界はあった。いつまでもニュイ魔王国に入れずに大魔林をさ迷い続けている。木の皮で飢えと渇きを満たすのも限界だ。
ふと、巨大な影がルトに差した。
ロック鳥だろうか。なぜか最近は数が減っているように感じていたのだけれど。
見上げて、ルトは息を呑んだ。
(ド、ドラゴンだ!……あ、もしかして魔王が変化するっていう竜? 竜なら言葉が通じるはず)
なにやら隠ぺいを施しているようなのも知的生物らしさを感じさせる。
隠ぺいされているのにルトが相手に気づいたのは、あまりにも近くにいるからだ。
ルトの存在に気づいて、竜は呟いた。
「前に目撃されてたアンデッド? 退治しなきゃ(使命感)!」
竜は手に籠を持っている。
しかし、それが今のルトの状況を好転させるだろうか。
大魔林を切り裂いて、ルトの悲鳴が響き渡った。
★ ★ ★ ★ ★
マタン山脈へ向かう途中で、私達はドワーフの子どもを救助した。
ドワーフの大人は隷属の首輪を嵌められていて、オートムヌに逆らえないらしい。
そう、トムはマタン山脈にいるのだ。悪事も企んでる。ヒヒイロカネ製の心臓を持つドラゴンゾンビが待ち構えているという。
ひゅー、ヒヒイロカネ―!
いや浮かれている場合ではない。
でも今のところ死者はいないんだよね。ドラゴンゾンビを覆う腐肉もモンスターのものだってルトが言ってたし。あ、ルトは救助したドワーフの子ども。
以前ニュイ魔王国で目撃されていたアンデッドは、逃げ出して疲れ切っていたルトの姿だったようだ。
そこでうちの魔人に助けを求めてくれてたら良かったんだけど、ニュイ魔王国って魔王城以外はあんまり国って感じじゃないから、ルトは自分が大魔林にいると思ってさ迷い続けたんだよね。
魔王城自体は結界があるから、許可のないものは近づけないし。
城下町や近隣の村?
そんなものはない!
いやだって野菜とか作ってないから、魔人の集まってるところに売りに来たりしないんだよ。
売買っていう概念すら、ないし……
ルトが食べ物と水を手に入れて生き延びてくれてて良かったよ。
うちの脳筋魔人はアンデッドだと思ってたから怯えて近寄らなかったみたいです。
……もし聖女エクラが転生者じゃなくて、私達がこうしてマタン山脈へ向かっていなかったら、ルトは大魔林で命を落としていたのかもしれない。
そうして、いつか聖女に見つけられて弔ってもらう代わりに魔鍛冶の技術を?
まあ考えても仕方がないし、乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』の中でのトムの計画は今とは違ったんだろうし、今のところ死者はいないっていっても十八年前はばっちり被害が出てるわけだし。
うん、トムを倒さなきゃいけないよね。
今回の計画はこれまでとは違う。
もちろんだれもオートムヌを倒すことなどできないだろう。
それでもこの大陸のすべてを破壊して、残る思い出への未練を断ち切ることくらいはできるはずだ。
ドラゴンゾンビを作り出したのは戦略上の都合に過ぎない。
プランタン大公の願いで見守っていた聖女の娘が竜に変化することとは、なんの関係もない。
ずっと騎乗していたワイバーンが限界を迎えたので、使っていた腐肉を再利用したかっただけなのだ。もっともドラゴンゾンビを覆う腐肉のほとんどは、新しく狩ったモンスターの肉なのだが。
「……あれ? ソワレちゃんの魔力が近づいてくる。聖女エクラの魔力で隠してるつもりなのかなあ。宣戦布告もしてないのにどうしたんだろ? 前に逃げた、まだ首輪を嵌めていなかったドワーフの子どもが生き延びてたのかな? 隠し部屋の転移陣も反応し始めたみたいだし……まあ、いいや。魔王と聖女と以前の専属聖騎士と今の専属聖騎士、それから王太子くらいじゃボクには勝てない」
オートムヌは、魔王に気づかれないために魔力を潜めて尾行している四天王の存在には気づいていなかった。
というより、一度に近づいてきているものが多過ぎるのだ。
それでもオートムヌは自身の勝利を確信していた。これまでと同じように、人間も魔人もエルフもドワーフも自分より先に死んでいくのだ。
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ルトは歩いていた。
大人達に助けられて、マタン山脈を脱出してから何日が過ぎ去ったことだろう。
高く聳える魔王城はすぐそこに見えるのに、どんなに歩いても近づけない。ドワーフ達が魔王城を造ったとき土台に結界の魔法文字を刻んだことは聞いていたが、城下町や近隣の村になら辿り着けそうなものなのに。
ルトが外部に救助を求めるための脱出者に選ばれたのは、母が人間だからだった。
魔力の少ない子どもなので、まだハイエルフに隷属の首輪を嵌められていないものの、身体は母に似て通常のドワーフよりも大きく、腕力自体は父譲りで人間よりも強かったのが決め手である。
それでも限界はあった。いつまでもニュイ魔王国に入れずに大魔林をさ迷い続けている。木の皮で飢えと渇きを満たすのも限界だ。
ふと、巨大な影がルトに差した。
ロック鳥だろうか。なぜか最近は数が減っているように感じていたのだけれど。
見上げて、ルトは息を呑んだ。
(ド、ドラゴンだ!……あ、もしかして魔王が変化するっていう竜? 竜なら言葉が通じるはず)
なにやら隠ぺいを施しているようなのも知的生物らしさを感じさせる。
隠ぺいされているのにルトが相手に気づいたのは、あまりにも近くにいるからだ。
ルトの存在に気づいて、竜は呟いた。
「前に目撃されてたアンデッド? 退治しなきゃ(使命感)!」
竜は手に籠を持っている。
しかし、それが今のルトの状況を好転させるだろうか。
大魔林を切り裂いて、ルトの悲鳴が響き渡った。
★ ★ ★ ★ ★
マタン山脈へ向かう途中で、私達はドワーフの子どもを救助した。
ドワーフの大人は隷属の首輪を嵌められていて、オートムヌに逆らえないらしい。
そう、トムはマタン山脈にいるのだ。悪事も企んでる。ヒヒイロカネ製の心臓を持つドラゴンゾンビが待ち構えているという。
ひゅー、ヒヒイロカネ―!
いや浮かれている場合ではない。
でも今のところ死者はいないんだよね。ドラゴンゾンビを覆う腐肉もモンスターのものだってルトが言ってたし。あ、ルトは救助したドワーフの子ども。
以前ニュイ魔王国で目撃されていたアンデッドは、逃げ出して疲れ切っていたルトの姿だったようだ。
そこでうちの魔人に助けを求めてくれてたら良かったんだけど、ニュイ魔王国って魔王城以外はあんまり国って感じじゃないから、ルトは自分が大魔林にいると思ってさ迷い続けたんだよね。
魔王城自体は結界があるから、許可のないものは近づけないし。
城下町や近隣の村?
そんなものはない!
いやだって野菜とか作ってないから、魔人の集まってるところに売りに来たりしないんだよ。
売買っていう概念すら、ないし……
ルトが食べ物と水を手に入れて生き延びてくれてて良かったよ。
うちの脳筋魔人はアンデッドだと思ってたから怯えて近寄らなかったみたいです。
……もし聖女エクラが転生者じゃなくて、私達がこうしてマタン山脈へ向かっていなかったら、ルトは大魔林で命を落としていたのかもしれない。
そうして、いつか聖女に見つけられて弔ってもらう代わりに魔鍛冶の技術を?
まあ考えても仕方がないし、乙女ゲーム『綺羅星のエクラ』の中でのトムの計画は今とは違ったんだろうし、今のところ死者はいないっていっても十八年前はばっちり被害が出てるわけだし。
うん、トムを倒さなきゃいけないよね。
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