転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸

文字の大きさ
23 / 34

23・鋼と魔鍛冶師

しおりを挟む
 こういうのは難しい問題である。
 自領を守って追い払ったモンスターが他領を襲った場合の責任はどうなるのかという。
 トドめを刺して遺恨を断てれば言うことないんだけど、必ずそれができるとは限らないからなー。

 なんてことを考えながら、テールと別れた私はアッシュさんの武器屋へ向かった。
 テールと会食を楽しんだから、アッシュさんの好感度が上がって良い金属製の装備アイテムが入荷しているかもしれない。
 魔法金属製の装備アイテムは……ゲームでも二年目からだったかな?

 まあゲームじゃないから、すぐに効果が出たりはしないだろうけどね。
 アンデッドに対抗するためにも優れた装備アイテムは必要!
 うん、なんの穴もない理論だなっ!

「いらっしゃいませー」

 店の扉を開けたら聞こえてきた言葉に、私は違和感を覚えた。
 ものぐさなアッシュさんは客を歓迎したりしない。
 それに今の声は掠れていなかった。少し甘くて艶やかな──

はがねぇーっ!」

 違和感は、ふと見た棚の商品が目に入った途端にかき消えた。

 そこにあったのははがねの双剣。
 はがね、それは鉄に炭を加えた合金。
 鉄よりも粘り強く加工しやすい性質は前世も今世も変わらない。ゲーム『綺羅星のエクラ』ではそれだけでなく、特性がふたつつけられた。ちな鉄製はひとつだけだ。

 ミスリルはみっつ、アダマンタイトはよっつ、オリハルコンはいつつ。
 『綺羅星のエクラ』内には出て来なかったけど、この世界にヒヒイロカネがあったら特性むっつなんじゃないかと期待している。
 特性がむっつつけられるってことは、攻撃力・命中率プラスに追加効果、魔力属性、魔力耐性、特効が全部つけられるってことなんだよ!

 とりあえず今の私は【風属性魔力増幅(大)】付きの弓と【追加ダメージ:劇毒】付きのヴェノムラビットの角を持ってるので、それをあのはがねの双剣に移行したい。
 本当は武器には攻撃力プラスを欠かさないのが私流なんだけど、今は持ってないので仕方がない。
 ああ、でもどうせなら【風属性魔力増幅(大)】より【風属性魔力増幅(特大)】のほうが良いよねえ。

 帰りにロック鳥狩っとく?
 『大』に『大』を合成したら『特大』だけど、そう簡単に【風属性魔力増幅(大)】を持つ素材が出るとは限らないんだよなー。
 『小』いつつで『中』、『中』みっつで『大』だから、【風属性魔力増幅(小)】しか出なかったとしても十五個あれば……それはともかくはがねの双剣買っとかなきゃね。

 お金足りるかなー。
 どうしても足りなかったらヴェノムラビットの角を売る? でもアッシュさんは仕入れてくるだけで本人は魔鍛冶できないから、特性付きの素材持ってても意味ないし。
 いやいや、まずははがねの双剣に触れなくちゃ。

 私はお父様みたいな魔眼を持ってないので、素材に触れて魔鍛冶モードになることでしか素材の特性や能力値を認識できないのだ。
 ゲームでそうだったからって、今世の現実でもはがねの素材アイテムが特性ふたつとは限らない。
 でもでも特性ふたつだったら良いなあ。

 はがねの特性がゲーム通りであることを夢見ながら、私は背伸びした。
 双剣が棚の上のほうに置いてあるのに、踏み台がどこにもないのだ。
 テールもアッシュさんも背が高いからなあ。カウンターの向こうにいるときはいつも座ってたから、イベントで立ち上がったときびっくりしたよ。横幅はテールのほうが広い。

 必死で背筋を伸ばした私の耳元で──

「……お求めのものはこれかい?」

 店に入ったときに歓迎してくれた少し甘くて艶やかな声がした。
 背後から現れた長くしなやかな腕が、私の肩を擦って双剣に触れる。
 上げていた踵を降ろし、私は振り向いた。

「はい、それです。おいくらですか?」

 はがねの双剣を手にして微笑んでいるのは、風属性魔法を放つチャラ男聖騎士ラファルだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...