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28・大地、踊る。
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大地の四天王リオンは獅子の性質を持つ魔人である。
リオンは獅子魔人の名門に強い魔力を持って生まれた。
幼いころから未来の四天王として期待されており、ソワレの父である先代魔王の舎弟として可愛がられて育った。
魔人は魔力が強ければ強いほど寿命が長くなるが、魔王二代に渡って四天王を務めた魔人は珍しい。
魔王は竜の性質を持つ魔人が担うことが多い。
ほとんど世襲制と言っても良いくらいだ。それは、竜魔人の魔力が強く寿命が長いからであった。四天王に選ばれた魔人がどんなに魔力が強くても、魔王には敵わなかったのである。
むしろ同じ魔王の治世に、四天王が代替わりしていったことのほうが多い。先代魔王が早逝して、四天王であるリオンのほうが長生きしたのは異例のことだ。
そしてそれには理由があった。
魔力は使う魔人の感情に影響を受けやすい。
先代魔王の早逝は、愛した人間の妃の死によって生きる力を失ったからだ。
もちろん娘のソワレのことは愛していたので、彼女の成人を見届けてからの話である。
リオンは先代魔王にソワレのことを頼まれていたし、自分自身の意思でも彼女を守ろうと決めていた。
人間の国ジュルネ王国へ行った彼女がなかなか戻らなかったときは、心配で広い大魔林を探し回った。
先日、ソワレが二回目のジュルネ王国行きを果たしたときも、先んじて帰り道と思われる場所のモンスターを退治しておいた。
行きもそうしたかったが、疲れて最短距離を取るであろう帰り道と違い、寄り道して楽しみながら進むと思われる行きの進路は想定不可能だった。
リオンの使用武器は、一般的には防具といわれる盾である。
そのまま打撃武器として使ったり、投げたものに自分の魔力を放ち、増幅された魔力を敵に浴びせたりしている。
リオンの盾には【大地属性魔力増幅(特大)】という特性がついているのだ。
四天王は全員魔王城に部屋をもらっていた。
ニュイ魔王国の一般の民には太刀打ちできないモンスターを倒すのが魔王と四天王の仕事なので、なにかあったときにすぐ集合できたほうが良いからだ。
自由な脳筋魔人なので休みは適当に取るし、与えられた部屋に家族を呼んで一緒に暮らしても良いことになっていた。先代魔王が人間の妃のために城を作る前は、四天王は魔王の咆哮が聞こえる位置で暮らすように言われていた。
最近は一般の民を脅かすほど強大なモンスターが出ていないので、四天王は毎日が日曜日状態だった。──ニュイ魔王国には日曜日という概念自体ないが。
ソワレの世話は賢い蛇魔人の水の四天王ヴィペールに任されているため、ほかの四天王は城の中庭にある修練場で鍛錬を重ねたり自室で趣味に耽ったり、外出したりしている。
ほぼ生まれたときからソワレを知っているリオンとしては彼女の世話を焼きたくて仕方がないのだが、ほぼ生まれたときから知っているだけに、自分が役に立たないこともわかっていた。
リオンは雄獅子の性質のままに狩りが下手だし、炎を苦手とする大地属性の魔力を持つがゆえに肉を焼くのに抵抗がある。
焼いた肉を食べることはできるものの、自分で焼くのは怖いのだ。
人間の血を引くソワレは、生肉を食べさせるとお腹を壊してしまう。
だから機転の利くヴィペールに託すしかなかった。
魔人のレベルは上がらないが、自分の魔力を制御し技を磨くことはできる。
リオンはときどき修練場で、ほかの四天王と模擬戦闘をして自分を鍛えていた。
ソワレのために強くならなければならない。
幼く魔力の弱かったころのソワレは、ピンク色の髪だった。
今は先代魔王と同じ黒と見紛うほど濃い赤い髪になっている。
それはそのまま彼女の魔力の強さの表れだ。竜に変化して、リオンには行けない空も飛べるようにもなった。それでもリオンにとってのソワレは、いつまでも守るべき生肉を食べられない可愛いお嬢だ。
(この前人間の国から戻ってから、お嬢部屋に籠もってんだよな。なにかあったのかな?)
思いながら、リオンは自室で踊っていた。
幼いころのソワレに教えてもらった踊りである。先代魔王と模擬戦闘をしていたとき、ソワレは負け続きだったリオンに肩入れして、踊って応援してくれたのだ。
まあ大地属性の獅子魔人リオンが、炎属性の竜魔人の先代魔王に勝てるわけがない。おまけにソワレに応援されたことを嫉妬されて、いつも以上にボロボロにされてしまった。
(ボロボロになった俺の前に飛び出して、兄貴から庇ってくれたんだよなあ)
娘大好きだった先代魔王は、最終的には嫉妬のあまり泣き出した。
そのころはまだ元気に見えた妃に慰められている姿が、リオンにはとても羨ましかった。
リオンは先代魔王の妃に憧れていたのである。指一本で殺せそうな儚い人間の女性は、男を食い殺すと言われているお肉大好きな女性魔人よりも魅力的に感じられた。
雄獅子魔人のリオンは、自分よりも遥かに強く狩りの上手い雌獅子魔人に取り囲まれて生活してきた。正直言って怖かった。
四天王に選ばれて魔王城で暮らすようになって、なんだかホッとしたのを覚えている。
女性にモテた先代魔王が人間の妃を一途に愛していなければ、母と姉妹はリオンを殺してでも自分達が四天王になろうとしたことだろう。
(お嬢に相談してもらえりゃ嬉しいんだが、俺ぁ頭の働きにゃ自信ねぇからなあ。せめてこうして、お嬢に教えてもらった踊りで応援するぜ!)
魔王城の自室でリオンは、魔力を帯びて光る棒を両手に持って振りながら踊り続けた。
リオンは獅子魔人の名門に強い魔力を持って生まれた。
幼いころから未来の四天王として期待されており、ソワレの父である先代魔王の舎弟として可愛がられて育った。
魔人は魔力が強ければ強いほど寿命が長くなるが、魔王二代に渡って四天王を務めた魔人は珍しい。
魔王は竜の性質を持つ魔人が担うことが多い。
ほとんど世襲制と言っても良いくらいだ。それは、竜魔人の魔力が強く寿命が長いからであった。四天王に選ばれた魔人がどんなに魔力が強くても、魔王には敵わなかったのである。
むしろ同じ魔王の治世に、四天王が代替わりしていったことのほうが多い。先代魔王が早逝して、四天王であるリオンのほうが長生きしたのは異例のことだ。
そしてそれには理由があった。
魔力は使う魔人の感情に影響を受けやすい。
先代魔王の早逝は、愛した人間の妃の死によって生きる力を失ったからだ。
もちろん娘のソワレのことは愛していたので、彼女の成人を見届けてからの話である。
リオンは先代魔王にソワレのことを頼まれていたし、自分自身の意思でも彼女を守ろうと決めていた。
人間の国ジュルネ王国へ行った彼女がなかなか戻らなかったときは、心配で広い大魔林を探し回った。
先日、ソワレが二回目のジュルネ王国行きを果たしたときも、先んじて帰り道と思われる場所のモンスターを退治しておいた。
行きもそうしたかったが、疲れて最短距離を取るであろう帰り道と違い、寄り道して楽しみながら進むと思われる行きの進路は想定不可能だった。
リオンの使用武器は、一般的には防具といわれる盾である。
そのまま打撃武器として使ったり、投げたものに自分の魔力を放ち、増幅された魔力を敵に浴びせたりしている。
リオンの盾には【大地属性魔力増幅(特大)】という特性がついているのだ。
四天王は全員魔王城に部屋をもらっていた。
ニュイ魔王国の一般の民には太刀打ちできないモンスターを倒すのが魔王と四天王の仕事なので、なにかあったときにすぐ集合できたほうが良いからだ。
自由な脳筋魔人なので休みは適当に取るし、与えられた部屋に家族を呼んで一緒に暮らしても良いことになっていた。先代魔王が人間の妃のために城を作る前は、四天王は魔王の咆哮が聞こえる位置で暮らすように言われていた。
最近は一般の民を脅かすほど強大なモンスターが出ていないので、四天王は毎日が日曜日状態だった。──ニュイ魔王国には日曜日という概念自体ないが。
ソワレの世話は賢い蛇魔人の水の四天王ヴィペールに任されているため、ほかの四天王は城の中庭にある修練場で鍛錬を重ねたり自室で趣味に耽ったり、外出したりしている。
ほぼ生まれたときからソワレを知っているリオンとしては彼女の世話を焼きたくて仕方がないのだが、ほぼ生まれたときから知っているだけに、自分が役に立たないこともわかっていた。
リオンは雄獅子の性質のままに狩りが下手だし、炎を苦手とする大地属性の魔力を持つがゆえに肉を焼くのに抵抗がある。
焼いた肉を食べることはできるものの、自分で焼くのは怖いのだ。
人間の血を引くソワレは、生肉を食べさせるとお腹を壊してしまう。
だから機転の利くヴィペールに託すしかなかった。
魔人のレベルは上がらないが、自分の魔力を制御し技を磨くことはできる。
リオンはときどき修練場で、ほかの四天王と模擬戦闘をして自分を鍛えていた。
ソワレのために強くならなければならない。
幼く魔力の弱かったころのソワレは、ピンク色の髪だった。
今は先代魔王と同じ黒と見紛うほど濃い赤い髪になっている。
それはそのまま彼女の魔力の強さの表れだ。竜に変化して、リオンには行けない空も飛べるようにもなった。それでもリオンにとってのソワレは、いつまでも守るべき生肉を食べられない可愛いお嬢だ。
(この前人間の国から戻ってから、お嬢部屋に籠もってんだよな。なにかあったのかな?)
思いながら、リオンは自室で踊っていた。
幼いころのソワレに教えてもらった踊りである。先代魔王と模擬戦闘をしていたとき、ソワレは負け続きだったリオンに肩入れして、踊って応援してくれたのだ。
まあ大地属性の獅子魔人リオンが、炎属性の竜魔人の先代魔王に勝てるわけがない。おまけにソワレに応援されたことを嫉妬されて、いつも以上にボロボロにされてしまった。
(ボロボロになった俺の前に飛び出して、兄貴から庇ってくれたんだよなあ)
娘大好きだった先代魔王は、最終的には嫉妬のあまり泣き出した。
そのころはまだ元気に見えた妃に慰められている姿が、リオンにはとても羨ましかった。
リオンは先代魔王の妃に憧れていたのである。指一本で殺せそうな儚い人間の女性は、男を食い殺すと言われているお肉大好きな女性魔人よりも魅力的に感じられた。
雄獅子魔人のリオンは、自分よりも遥かに強く狩りの上手い雌獅子魔人に取り囲まれて生活してきた。正直言って怖かった。
四天王に選ばれて魔王城で暮らすようになって、なんだかホッとしたのを覚えている。
女性にモテた先代魔王が人間の妃を一途に愛していなければ、母と姉妹はリオンを殺してでも自分達が四天王になろうとしたことだろう。
(お嬢に相談してもらえりゃ嬉しいんだが、俺ぁ頭の働きにゃ自信ねぇからなあ。せめてこうして、お嬢に教えてもらった踊りで応援するぜ!)
魔王城の自室でリオンは、魔力を帯びて光る棒を両手に持って振りながら踊り続けた。
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