たとえ番でないとしても

豆狸

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4・たとえ番でないとしても

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 王宮の明かりに照らされて煌めく黄金色の髪と黄金色の瞳は、生まれ持った強い光の魔力の証。
 戦いとなれば全身を鱗で覆い、民の苦境とあれば空高く飛び立つ巨竜へと変じる竜人族の王。普段の人の姿も美々しく端正で、見ているだけで溜息がこぼれそうでした。
 愛しい人はよく通る涼やかな声で、リナルディ王国から嫁いできた私に言いました。

「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私のつがいは彼女、サギニなのだから」

 彼の隣には、彼と同じ黄金色の髪をした美しい女性が寄り添っていました。
 王族ほど魔力が強くないのか、瞳の色は黄金色ではなく緑色です。
 魔導の才を持たないものの特徴である黒い髪に紫の瞳のせいで、生きるものを弱らせ死に至らせる邪悪な闇の魔力を持っているのだと噂されていた私とはまるで違います。

「……」
「ディアナ王女?」

 これはどうしたことでしょう。
 今眼前で広がっている光景は知っています。一年前の婚礼の夜会です。
 周囲にいるのはカサヴェテス竜王国の竜人族の貴族達。ヒト族は私ひとりきりです。

「……」

 私は竜王ニコラオス陛下を見つめました。
 お亡くなりになったという話は、私をたばかる嘘だったのでしょうか。
 いいえ、監視の近衛騎士達がわざわざそんな嘘をつく必要がありません。竜王陛下に対しても不敬なことです。

 あれは真実でした。カサヴェテス竜王国中に響き渡った弔いの鐘の音は、今も耳にこびり付いています。
 では今のこの状況は何なのでしょう。まるで時が戻ったかのようです。
 愛しい方が、私のたったひとりのつがいが目の前にいらっしゃいます。

「……返答が遅れて失礼いたしました」

 私はこみ上げてくる涙を飲み込んで、陛下とサギニ様にカーテシーをいたしました。

「わかっております。竜王ニコラオス陛下のつがいはメンダシウム男爵令嬢のサギニ様。竜人族にとって、つがいはとても大切な魂の半身と聞いております。私はただの政略の駒に過ぎません」

 はっきり口にすると、周囲が息を呑む気配がしました。

「聖なるつがいのサギニ様がお心を痛めることがないよう、ここにいらっしゃる皆様を証人にして白い結婚を誓いましょう。……竜王ニコラオス陛下と私、リナルディ王国のディアナ王女は形だけの結婚です。けして交わることなく一年を過ごした後に離縁することを精霊王様に誓います。聖なるつがいが穢されることがありませんように」

 強過ぎる魔力を疎まれて魔物の蔓延るこの土地に追いやられた竜人族は、森の奥の聖域に住まうという精霊王様に助けられて生き延びたのだと言われています。彼らにとって精霊王様は恩人で、崇め奉る信仰の対象でもあります。
 前のとき、監視の近衛騎士達が自分のつがいに会えますようにと精霊王様に祈りを捧げているのをよく耳にしました。
 私の言葉に一瞬虚を突かれていた様子の竜王陛下でしたが、すぐにこやかに頷いてくださいました。前のときは、秋の暴走を鎮めるまで見せていただけなかった表情です。

「竜人族のつがいについて理解してくれていることをありがたく思う。私も精霊王様に誓おう。リナルディ王国のディアナ王女と私、竜王ニコラオスは白い結婚だ。私は聖なるつがいであるサギニを裏切らない。一年後の離縁まで、ディアナ王女には指一本触れないことをみなに宣言する」
「ありがとうございます」

 本当はこんなこと、他国に厄介払いされた王女が勝手に決めていいことではありません。
 ですが、せっかく時が戻ったようなのに、前と同じことをして嫌われるわけにはいきません。
 私は少しでも信頼されるように努めて、冬の大暴走スタンピードで竜王陛下がお亡くなりになるのをお止めしたいと思っています。せっかくこうして生きている陛下と再会出来たのですもの。

 愚かな私は、命を失い世界が終わり、時が戻ってさえなおも、竜王陛下こそが私のつがいだと感じているのです。
 お守りしたいと願っているのです。
 そう、たとえ陛下のつがいが私でないとしても──
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