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第一話 聖花祭
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この王国の王都では、春の終わり初夏の始まりに盛大なお祭りが開催されます。
聖花祭です。
近隣の農村地帯で農閑期に作られた花々が王都中に飾られ、商人達が花を模した装飾品を販売します。貴族や裕福な庶民は装飾品を購入し、貧しいものは飾られた花を拝借して恋人に贈るのです。王都の城壁や建物に飾られた花は、ひとりに付き一輪だけ拝借することが許されています。
聖花祭の始まりは、この王国の建国時に遡ります。
王国の建国王の恋人は、この地を守護する女神様の娘、人間と違って心臓を持たない妖精姫でした。
生きる時間も体の作りも違うふたりは幾度となく別れを考えましたが、どうしても気持ちを消すことは出来ませんでした。王は妖精姫に一輪の花を捧げ、この花が地に根付いて咲き誇る限り、寿命の短い私の体が滅んでも想いは続いているのだと彼女に告げました。その強い愛が奇跡を起こし、王の花は妖精姫の心臓となり、彼女は人間として王家の祖となったのです。
王の花がどの花だったのかはわかりません。残念ながら残っていないのです。
最初のお妃様の心臓になってしまったのだから当然ですよね。
今、聖花祭で贈られている花は心臓になったりはしません。でも恋することで人生が変わるように、愛しい人から贈られた花は世界を輝かせてくれることでしょう。
ハロルド様のくださる花はどんな花でしょうか。
ハロルド様はアラーニャ侯爵家の次男で、カバジェロ伯爵家の跡取り娘である私エヴァンジェリンの婚約者です。彼は我が家に婿入りしてくださる予定です。
父親同士が親友で領地も近いことから、共同事業計画の推進も兼ねた政略的な婚約ですけれど、私はハロルド様が好きでした。彼とは幼馴染なのです。病弱だったお母様が亡くなった十歳のときも、ハロルド様がいなければ立ち直れなかったでしょう。
『エヴァンジェリンの母上は君が泣いているのを喜ぶような方ではなかっただろう? 君が笑っていたほうが喜んでくださると思うよ』
彼がそう言ってくれたから、私は笑顔を取り戻すことが出来たのです。
領地が近いと言っても、そう簡単に領境を越えることは出来ません。
今年王都にある学園へ入学するまでは、ハロルド様とお会いできるのは年に数回だけでした。ですが学園では朝夕挨拶を交わし、同じ教室で学ぶことが出来ます。無口なハロルド様を少し冷たく感じるときもあるものの、ほかの同級生も婚約者同士だからと言って年中くっついているわけではありません。貴族の子女には礼節が必要なのです。
だから……聖花祭では、恋人達が祝福される祭典でなら、ハロルド様も態度を変えてくださるに違いありません。
いいえ、変えてくださらなくても良いのです。
それが彼の個性なのですもの。私はそんなハロルド様が好きなのですもの。彼がずっと黙っていらしても、側にいられるだけで幸せなのです。
ふたりで過ごせるだけで満足出来る聖花祭になるに違いありません。
彼はどんな花をくださるのでしょうか。装飾品でも王都に飾られた一輪でも良いのです。
ハロルド様がくださるのなら、たとえ毒花の鈴蘭でも嬉しく感じることでしょう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
聖花祭です。
近隣の農村地帯で農閑期に作られた花々が王都中に飾られ、商人達が花を模した装飾品を販売します。貴族や裕福な庶民は装飾品を購入し、貧しいものは飾られた花を拝借して恋人に贈るのです。王都の城壁や建物に飾られた花は、ひとりに付き一輪だけ拝借することが許されています。
聖花祭の始まりは、この王国の建国時に遡ります。
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生きる時間も体の作りも違うふたりは幾度となく別れを考えましたが、どうしても気持ちを消すことは出来ませんでした。王は妖精姫に一輪の花を捧げ、この花が地に根付いて咲き誇る限り、寿命の短い私の体が滅んでも想いは続いているのだと彼女に告げました。その強い愛が奇跡を起こし、王の花は妖精姫の心臓となり、彼女は人間として王家の祖となったのです。
王の花がどの花だったのかはわかりません。残念ながら残っていないのです。
最初のお妃様の心臓になってしまったのだから当然ですよね。
今、聖花祭で贈られている花は心臓になったりはしません。でも恋することで人生が変わるように、愛しい人から贈られた花は世界を輝かせてくれることでしょう。
ハロルド様のくださる花はどんな花でしょうか。
ハロルド様はアラーニャ侯爵家の次男で、カバジェロ伯爵家の跡取り娘である私エヴァンジェリンの婚約者です。彼は我が家に婿入りしてくださる予定です。
父親同士が親友で領地も近いことから、共同事業計画の推進も兼ねた政略的な婚約ですけれど、私はハロルド様が好きでした。彼とは幼馴染なのです。病弱だったお母様が亡くなった十歳のときも、ハロルド様がいなければ立ち直れなかったでしょう。
『エヴァンジェリンの母上は君が泣いているのを喜ぶような方ではなかっただろう? 君が笑っていたほうが喜んでくださると思うよ』
彼がそう言ってくれたから、私は笑顔を取り戻すことが出来たのです。
領地が近いと言っても、そう簡単に領境を越えることは出来ません。
今年王都にある学園へ入学するまでは、ハロルド様とお会いできるのは年に数回だけでした。ですが学園では朝夕挨拶を交わし、同じ教室で学ぶことが出来ます。無口なハロルド様を少し冷たく感じるときもあるものの、ほかの同級生も婚約者同士だからと言って年中くっついているわけではありません。貴族の子女には礼節が必要なのです。
だから……聖花祭では、恋人達が祝福される祭典でなら、ハロルド様も態度を変えてくださるに違いありません。
いいえ、変えてくださらなくても良いのです。
それが彼の個性なのですもの。私はそんなハロルド様が好きなのですもの。彼がずっと黙っていらしても、側にいられるだけで幸せなのです。
ふたりで過ごせるだけで満足出来る聖花祭になるに違いありません。
彼はどんな花をくださるのでしょうか。装飾品でも王都に飾られた一輪でも良いのです。
ハロルド様がくださるのなら、たとえ毒花の鈴蘭でも嬉しく感じることでしょう。
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「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
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