二度目の恋

豆狸

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最終話 二度目のデイジー・後編

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 バレット様は王都でクルエル様を殺して、ご自分も命を絶たれました。
 どうしてなのかわかりません。
 時間さえ経てば、おふたりは結ばれることが出来たのに。兄とブルーノ様も首を傾げています。ブルーノ様とクルエル様の離縁の理由がバレット様への想いだとしても、もう離縁したのですから三家の絆は守れるはずです。甘い考えでしょうか?

「……だってバレットは……」
「……クルエルの子どもの父親がアランだったからなのか?……」

 首を傾げている理由は、おふたりで違うようです。
 私はブルーノ様と婚約いたしました。
 結婚までにそれほど時間をかける予定はなかったのですが、今回の件で少々長引くかもしれません。私達の結婚を醜聞とともに記憶されてはいけませんので。

「最後まで厄介ごとを引き起こす女だよ」

 僭越ながら溜息をつくブルーノ様を嗜めます。

「一度愛した方をそのようにおっしゃってはいけませんわ」
「……そうだね。僕のデイジーは優しいな」

 ブルーノ様は顔を隠していた前髪をお切りになりました。
 火傷の痕はまだ残っているものの、少しずつ薄くなっていっています。ブルーノ様がクルエル様と離縁なさってから、私が回復力を高める魔術をおかけしているのです。クルエル様と正式に婚約なさる前にも何度かおかけしたことがありました。
 私の力が役立っているのだと思うと嬉しいです。

 最初はブルーノ様との縁談もお断りするつもりでした。
 ですが子爵家に訪ねて来られたブルーノ様とお話をしていくうちに、少しずつ心が和らいでいくのを感じたのです。忘れていた幼いころの思い出も甦っていきました。
 ブルーノ様とクルエル様の結婚式で兄が言ったように、バレット様に恋をする前の私はブルーノ様に憧れていたのです。そして今の私は、ブルーノ様に二度目の恋をしているのかもしれません。

 ブルーノ様のしなやかな指に触れられるたび、バレット様の大きな手の記憶が薄れていきます。
 いいえ、あれはもう消えてしまった未来です。看病のときに手を握った記憶さえ遠い記憶になりつつあります。
 いつか私が子どもを迎える日が来るとしたら、その子は栗色の髪をしていることでしょう。

 悲しいですけれど、バレット様はもうどこにもいらっしゃいません。
 私の耳に残っているのはもう、ブルーノ様の穏やかな声だけです。バレット様の声は思い出せません。
 ブルーノ様の穏やかな声で『僕のデイジー』と呼ばれるのが、私は幸せでならないのです。

「バレットはきっとなにかに巻き込まれたんだと思うよ」
「僕もそう思う。彼があの女と会ったのなんて、僕との結婚前の一度きりだったからね。……ごめん、デイジー。君の前でこんな話」
「いいえ、良いのです。私もおふたりにはなにか事情があったのだと思います」

 クルエル様はバレット様を想いつつも、ブルーノ様を愛していたのかもしれません。
 そもそも彼女の子どもは、どうしてバレット様の黒髪でもブルーノ様の栗色の髪でもない赤毛だったのでしょうか。彼女自身の髪の色とも違います。
 バレット様の愛した人を悪く思いたくはないですが、クルエル様は──

「せっかく君が看病してあげたのにね。でもそんなに悲しまないで、デイジー。すぐには無理だけど、いつか元通りになるよ。三家は昔からつながりが深い。我がヴィエイラ侯爵家や君とベントンのバスコンセロス子爵家の分家には、シルヴァ伯爵家の血を引くものがいる。彼らが受け継ぐよ。バレットの生きていた証、シルヴァ伯爵家は滅びない」
「はい、そうですね」

 私は微笑みました。

 恋した人を殺して後を追ったバレット様は、幸せになれたのでしょうか。
 奇跡のような恋は実ったのでしょうか。
 そうなら良いと、私は願うのです。
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