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第四話 山賊
「今度の公開処刑もラドロ王子と側妃ブリガンテが観覧するのね?」
念のため確認するとディエゴが頷く。
この王国では王族の処刑観覧は公務だ。父王は政略結婚をした私の母を嫌い、公務にも側妃とラドロ王子を連れ歩いていた。
だからみんな側妃とラドロ王子の顔をよく知っている。
私は学園に通う以外では王宮に軟禁されているようなものなので、国民の多くは私が父王に似ていない王妃の不貞の子だと信じていることだろう。
冗談じゃない。前世と同じ目つきの悪さは父王から受け継いだものだ。
ディエゴ大公の甥王は、前世の侯爵令嬢ニコラッタの姪と結ばれたのである。どうせなら目つきの悪さは受け継がないで欲しかった。
「……女王になったら王配を選ばなくてはねえ」
今後のことを思って私が呟くと、従者ディエゴはなぜかありもしない眼鏡の位置を整えるかのように人差し指を顔の前で上下し始めた。
ちなみに彼の前世ディエゴ大公は生涯独身だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
公開処刑の日、私は侍女や従者ディエゴと町へ来ていた。
絞首台の置かれた大広場で人混みに紛れて立っている。
長年街道を荒らしていた山賊が捕縛されたと聞いて、群衆は興奮している。
義賊を気取って悪徳貴族家の馬車しか襲わない山賊だったので、そんな山賊を捕らえた王女への不満の声も聞こえてきた。
側妃の兄である宰相が噂を誘導しているのかもしれない。
新しい眼鏡の下でディエゴの瞳が剣呑な光を放つ。彼は私に対する侮辱を良しとしない。
私の母という正式な婚約者のいた父王に自分の妹を宛がって、まんまと側妃にまで駆け上らせた宰相は、実は前世の第一王子である。
自分の息子に王座を奪われた彼は王家に伝わる【転生の秘法】を実行して自ら命を絶った。
生まれ変わっても前世の記憶を維持出来る【転生の秘法】自体はそのときに失われてしまったが、私達が前世の記憶を持って転生して来たのはそのせいだろう。
転生者は転生者を知るのよね。
宰相のほうも私達に気づいて、煙たく思っているに違いない。
第一王子の側近だったアモローソと肉親の第二王子のディエゴはともかく、私と侍女まで転生している理由はわからないけれど。……私が第一王子の子孫に生まれたからかしら?
「……いよいよ山賊の頭の処刑だな」
「ありゃ本当の話なのかね? 山賊に襲われていた悪徳貴族が王女の手先で、自分の配下を襲われたのが気に入らなかったから、王女が……」
宰相に仕込まれたのであろう噂をばら撒いていた町民の大声は、引き立てられてきた山賊の頭の姿が衆目に晒された途端に消え失せた。
群衆の間にざわめきが広がる。
観覧している父王の顔が色を失い、側妃ブリガンテの美貌からは生気が消え、ラドロ王子と宰相は真っ青になっている。宰相がなにか指示を出そうとするよりも前に、山賊の頭が口を開いた。
「よお、伯爵家のご兄妹」
宰相と側妃の実家は伯爵家なのである。
「そんでもって、そちらのガキが俺の子か。これだけ似てるんだ、言い訳しようもねぇよな?」
そう、ヒゲを剃った山賊の頭はラドロ王子にそっくりだったのだ。
前世の第一王子は宰相なのだけれど、顔は違う。前世の第一王子にそっくりなのはラドロ王子だ。
山賊は、前世の第一王子が気まぐれに手を付けて捨てた女性が産んだ子どもの子孫なのかもしれない。側近の公爵令息と同類で、第一王子も浮気性だったのだ。
「今でもあのころのことを思い出すぜ。伯爵家の騎士だった俺には恋人がいた。言うことを聞かなければ恋人を殺すと脅されて、俺は伯爵令嬢のブリガンテ様と関係を持ったんだ。ところが関係を持っても俺の恋人は殺されちまった。おまけに妹のブリガンテ様をどっかのだれかさんに宛がいたかった伯爵令息様が俺を襲わせた。崖から落としたことで殺したつもりだったんだろうが残念だったな、俺は死ななかった」
そして彼は山賊になった。
「俺が襲った悪徳貴族家は全部あんたら伯爵家の息がかかった家だった。直接復讐出来なくても、少しでもあんたらの力を削ぎたかったんだ。……でも結局は家族や生活のために貴族家に仕えなくてはならない騎士や護衛の命を奪っただけだったがな」
だから彼は私達に捕縛されることを願った。
公衆の面前で自分の顔を晒し、ラドロ王子達の罪を暴くために。
まあ山賊の部下達はなにも知らなかったから彼らは抵抗して、私の従者ディエゴの眼鏡が壊れる羽目になっちゃったんだけどね。
念のため確認するとディエゴが頷く。
この王国では王族の処刑観覧は公務だ。父王は政略結婚をした私の母を嫌い、公務にも側妃とラドロ王子を連れ歩いていた。
だからみんな側妃とラドロ王子の顔をよく知っている。
私は学園に通う以外では王宮に軟禁されているようなものなので、国民の多くは私が父王に似ていない王妃の不貞の子だと信じていることだろう。
冗談じゃない。前世と同じ目つきの悪さは父王から受け継いだものだ。
ディエゴ大公の甥王は、前世の侯爵令嬢ニコラッタの姪と結ばれたのである。どうせなら目つきの悪さは受け継がないで欲しかった。
「……女王になったら王配を選ばなくてはねえ」
今後のことを思って私が呟くと、従者ディエゴはなぜかありもしない眼鏡の位置を整えるかのように人差し指を顔の前で上下し始めた。
ちなみに彼の前世ディエゴ大公は生涯独身だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
公開処刑の日、私は侍女や従者ディエゴと町へ来ていた。
絞首台の置かれた大広場で人混みに紛れて立っている。
長年街道を荒らしていた山賊が捕縛されたと聞いて、群衆は興奮している。
義賊を気取って悪徳貴族家の馬車しか襲わない山賊だったので、そんな山賊を捕らえた王女への不満の声も聞こえてきた。
側妃の兄である宰相が噂を誘導しているのかもしれない。
新しい眼鏡の下でディエゴの瞳が剣呑な光を放つ。彼は私に対する侮辱を良しとしない。
私の母という正式な婚約者のいた父王に自分の妹を宛がって、まんまと側妃にまで駆け上らせた宰相は、実は前世の第一王子である。
自分の息子に王座を奪われた彼は王家に伝わる【転生の秘法】を実行して自ら命を絶った。
生まれ変わっても前世の記憶を維持出来る【転生の秘法】自体はそのときに失われてしまったが、私達が前世の記憶を持って転生して来たのはそのせいだろう。
転生者は転生者を知るのよね。
宰相のほうも私達に気づいて、煙たく思っているに違いない。
第一王子の側近だったアモローソと肉親の第二王子のディエゴはともかく、私と侍女まで転生している理由はわからないけれど。……私が第一王子の子孫に生まれたからかしら?
「……いよいよ山賊の頭の処刑だな」
「ありゃ本当の話なのかね? 山賊に襲われていた悪徳貴族が王女の手先で、自分の配下を襲われたのが気に入らなかったから、王女が……」
宰相に仕込まれたのであろう噂をばら撒いていた町民の大声は、引き立てられてきた山賊の頭の姿が衆目に晒された途端に消え失せた。
群衆の間にざわめきが広がる。
観覧している父王の顔が色を失い、側妃ブリガンテの美貌からは生気が消え、ラドロ王子と宰相は真っ青になっている。宰相がなにか指示を出そうとするよりも前に、山賊の頭が口を開いた。
「よお、伯爵家のご兄妹」
宰相と側妃の実家は伯爵家なのである。
「そんでもって、そちらのガキが俺の子か。これだけ似てるんだ、言い訳しようもねぇよな?」
そう、ヒゲを剃った山賊の頭はラドロ王子にそっくりだったのだ。
前世の第一王子は宰相なのだけれど、顔は違う。前世の第一王子にそっくりなのはラドロ王子だ。
山賊は、前世の第一王子が気まぐれに手を付けて捨てた女性が産んだ子どもの子孫なのかもしれない。側近の公爵令息と同類で、第一王子も浮気性だったのだ。
「今でもあのころのことを思い出すぜ。伯爵家の騎士だった俺には恋人がいた。言うことを聞かなければ恋人を殺すと脅されて、俺は伯爵令嬢のブリガンテ様と関係を持ったんだ。ところが関係を持っても俺の恋人は殺されちまった。おまけに妹のブリガンテ様をどっかのだれかさんに宛がいたかった伯爵令息様が俺を襲わせた。崖から落としたことで殺したつもりだったんだろうが残念だったな、俺は死ななかった」
そして彼は山賊になった。
「俺が襲った悪徳貴族家は全部あんたら伯爵家の息がかかった家だった。直接復讐出来なくても、少しでもあんたらの力を削ぎたかったんだ。……でも結局は家族や生活のために貴族家に仕えなくてはならない騎士や護衛の命を奪っただけだったがな」
だから彼は私達に捕縛されることを願った。
公衆の面前で自分の顔を晒し、ラドロ王子達の罪を暴くために。
まあ山賊の部下達はなにも知らなかったから彼らは抵抗して、私の従者ディエゴの眼鏡が壊れる羽目になっちゃったんだけどね。
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