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最終話 知ったこっちゃないのです。
「俺の名はラドロ! 薄汚い山賊の頭ラドロだ!」
彼の叫びに側妃ブリガンテがびくりと体を震わせた。
彼女は彼女なりに彼を愛していたのだろう。恋敵を殺すことも厭わないほどに。
……もしかして前世の侯爵令嬢刺殺犯だったりして。
だけど好きな相手の心を思わない愛など暴力と変わらない。
息子に愛した男と同じ名前を付けたのも彼女の自己満足に過ぎない。
兄に言われて私の父王の側妃になるにしても、お腹の子の父親が国王ではないことくらいは伝えておくべきだった。
「国王様とはなんの関係もない山賊の息子を王位に就けようとしてたんだ、伯爵令嬢様も伯爵令息様も国家反逆罪だよなあ? あーっははっは!」
山賊ラドロの笑い声が大広場に響き渡った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんなわけで、前世第一王子で今世宰相の野望は今世でも潰えた。
私達に前世の記憶があったのは、彼を止めるためだったのかもしれない。
【転生の秘法】はもうないし、そもそも王家に伝わっていたものなので今世の彼にはどうにも出来なかった。
宰相と側妃と王子ではなかったラドロは処刑された。
山賊のラドロもあの日に予定通り絞首刑になっている。
彼自身が処刑を望んだし、一度綻びが生じると宰相達の悪行は穴だらけになったので、山賊ラドロの証言があれだけでも証拠は後からいくらでも見つけ出せた。
父王が寝込んだため、今は私と母である王妃が公務を代行している。
私の目つきの悪さを確認して、民は私が間違いなく父王の子どもだと確信したようだ。
まあ王宮で働いていて私の顔を知っていたにもかかわらず、宰相に与して私の悪評拡散に加担していたような類の人間は一掃したしね。学園長は私に言われてすぐにジョルジャ王子の世話役を男性に変えたので、しばらく様子見をしてから対処を決めようと思う。
「というわけで、女王となる私には王配が必要なのよ」
「そうですね」
「さようでございますね」
自分の執務室で言った私に、侍女と従者ディエゴが頷く。
「政略的なことも考えなくてはいけないけれど、どうせなら私を少しでも好きでいてくれる方を婿に迎えたいと思っているの」
「……」
「……」
侍女に視線を向けられて、従者ディエゴが俯いた。
「そういえば私が学園の中庭解放に尽力したのはね、前世でアモローソと散策していたからではないの」
中庭には人目があり、学園の校舎の窓からも丸見えだ。
前世のアモローソが中庭を私とだけ過ごす場所と決めていたのは、単に私が彼の正式な婚約者だったからだ。
浮気相手との密会は人目を忍んで隠れた場所でやっていた。そういう小ズルい男だったのだ。
「ときどきね、あの場所で第二王子のディエゴ殿下とお会いしていたからなのよ」
もちろん私達は婚約者同士ではなかったので、他愛のない会話を交わしただけだった。
たまに彼が眼鏡を激しく上下し始めると、機嫌を損ねたのではないかと思って怯えたものだわ。
実際は感情が高ぶると眼鏡を上下させる癖があったのね、今世の従者ディエゴと一緒で。
「グレータ王女殿下、私は、前世の第二王子ディエゴだったときからずっと、ずっと貴女が……正式に従者になったときに言ったことは、その、貴女の重荷になりたくなくてで……」
王女の従者なのだから、ディエゴはそれなりに高位の貴族家の令息だ。
ただ次男なので継ぐ家がないだけ。
有能だし、女王の王配になるのになんの問題もないだろう。
そんなわけで、隣国から届いたジョルジャ王子との正式な婚約の申し込みなんて知ったこっちゃないのです。
というか、いくら隣国王お気に入りの美貌の愛妾の息子だからって、故郷の貴族家令嬢に婚約を解消されたような王子を未来の女王の王配として勧めてくるなんて、隣国は私のこと舐めてるんじゃない?
隣国にどんな落とし前をつけさせるかも話し合いたいから、ディエゴは早く落ち着いてくれないかしら。眼鏡の下の目の周りが真っ赤になっているのは、とてもとても可愛いのだけれど。
彼の叫びに側妃ブリガンテがびくりと体を震わせた。
彼女は彼女なりに彼を愛していたのだろう。恋敵を殺すことも厭わないほどに。
……もしかして前世の侯爵令嬢刺殺犯だったりして。
だけど好きな相手の心を思わない愛など暴力と変わらない。
息子に愛した男と同じ名前を付けたのも彼女の自己満足に過ぎない。
兄に言われて私の父王の側妃になるにしても、お腹の子の父親が国王ではないことくらいは伝えておくべきだった。
「国王様とはなんの関係もない山賊の息子を王位に就けようとしてたんだ、伯爵令嬢様も伯爵令息様も国家反逆罪だよなあ? あーっははっは!」
山賊ラドロの笑い声が大広場に響き渡った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんなわけで、前世第一王子で今世宰相の野望は今世でも潰えた。
私達に前世の記憶があったのは、彼を止めるためだったのかもしれない。
【転生の秘法】はもうないし、そもそも王家に伝わっていたものなので今世の彼にはどうにも出来なかった。
宰相と側妃と王子ではなかったラドロは処刑された。
山賊のラドロもあの日に予定通り絞首刑になっている。
彼自身が処刑を望んだし、一度綻びが生じると宰相達の悪行は穴だらけになったので、山賊ラドロの証言があれだけでも証拠は後からいくらでも見つけ出せた。
父王が寝込んだため、今は私と母である王妃が公務を代行している。
私の目つきの悪さを確認して、民は私が間違いなく父王の子どもだと確信したようだ。
まあ王宮で働いていて私の顔を知っていたにもかかわらず、宰相に与して私の悪評拡散に加担していたような類の人間は一掃したしね。学園長は私に言われてすぐにジョルジャ王子の世話役を男性に変えたので、しばらく様子見をしてから対処を決めようと思う。
「というわけで、女王となる私には王配が必要なのよ」
「そうですね」
「さようでございますね」
自分の執務室で言った私に、侍女と従者ディエゴが頷く。
「政略的なことも考えなくてはいけないけれど、どうせなら私を少しでも好きでいてくれる方を婿に迎えたいと思っているの」
「……」
「……」
侍女に視線を向けられて、従者ディエゴが俯いた。
「そういえば私が学園の中庭解放に尽力したのはね、前世でアモローソと散策していたからではないの」
中庭には人目があり、学園の校舎の窓からも丸見えだ。
前世のアモローソが中庭を私とだけ過ごす場所と決めていたのは、単に私が彼の正式な婚約者だったからだ。
浮気相手との密会は人目を忍んで隠れた場所でやっていた。そういう小ズルい男だったのだ。
「ときどきね、あの場所で第二王子のディエゴ殿下とお会いしていたからなのよ」
もちろん私達は婚約者同士ではなかったので、他愛のない会話を交わしただけだった。
たまに彼が眼鏡を激しく上下し始めると、機嫌を損ねたのではないかと思って怯えたものだわ。
実際は感情が高ぶると眼鏡を上下させる癖があったのね、今世の従者ディエゴと一緒で。
「グレータ王女殿下、私は、前世の第二王子ディエゴだったときからずっと、ずっと貴女が……正式に従者になったときに言ったことは、その、貴女の重荷になりたくなくてで……」
王女の従者なのだから、ディエゴはそれなりに高位の貴族家の令息だ。
ただ次男なので継ぐ家がないだけ。
有能だし、女王の王配になるのになんの問題もないだろう。
そんなわけで、隣国から届いたジョルジャ王子との正式な婚約の申し込みなんて知ったこっちゃないのです。
というか、いくら隣国王お気に入りの美貌の愛妾の息子だからって、故郷の貴族家令嬢に婚約を解消されたような王子を未来の女王の王配として勧めてくるなんて、隣国は私のこと舐めてるんじゃない?
隣国にどんな落とし前をつけさせるかも話し合いたいから、ディエゴは早く落ち着いてくれないかしら。眼鏡の下の目の周りが真っ赤になっているのは、とてもとても可愛いのだけれど。
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