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第二話 恋は空回り
6・田舎者の証明
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茜ちゃんに電話した翌日、日曜日。
わたしと忍野くんは地元の駅前で待ち合わせをしていた。
一緒に東京の映画館で『キラーナイト』を観るのだ。
近郊に暮らす田舎育ちの人間にとって、二十三区どこへ行っても東京は東京だった。
人込みの中、オールバックに瓶底メガネ、地味な灰色のスーツを着た男性に駆け寄る。
その顔を見上げて尋ねた。
「忍野くんって近視だったっけ。あ、度なしメガネだ。なにかの役作り?」
わたしの言葉に、忍野くんが微笑む。
軽くメガネを上げて、彼は眩しそうにわたしを見た。
「……俺がどんな格好してても、お前ひと目でわかるのな」
「そりゃそうでしょ。あ、でもそれはわたしが俳優忍野薫のファンだからで、ほかの人から見たら別人だと思うよ」
今の忍野くんは、どこにでもいる地味なサラリーマンに見える。
口調はいつも通りだけど、すれ違う人たちが振り向くこともなかった。
普段なら俳優忍野薫を知らない人でも、イケメン振りに二度見していくのに。
「そっか。じゃあ行くぞ。近くのパーキングに車停めてある」
「電車で行くんじゃないんだ」
「アパートまで車で迎えに行っても良かったんだが……その、待ち合わせしたほうがデートっぽいだろ?」
「デートなの?」
目を丸くして聞くと、忍野くんは頬を染めて顔を背けた。
「『恋人になるかもしれない』友達なんだから、今日はお試しデートってことでいいんじゃねぇの?」
「……いいよ」
それくらいは許してあげよう。
自分の行いを反省しているので、しばらくは忍野くんに優しくするつもりのわたしである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーキングに停められていた車は、先日アパートまで迎えに来てくれたときの新車ではなかった。
この前の車は派手で、テレビのCMかなんかで見た気がしたけど、今日の車は地味で小さい。
でも、どこかで……あ、招木さんの事務所の社用車!
目立たないように借りてきた、ってことなのかな?
助手席に座って、わたしは運転席の彼を見た。
「東京まで出るから変装?」
「そ。俺の認知度なんて底辺だし、人気芸能人が素顔でも気づかれないっていうから自意識過剰だとは思うけど、連ドラ控えてるし女連れだから念のため、な」
……わたしが東京の映画館へ行きたいとか言ったから、無理させちゃってるかな。
本当は『キラーナイト』さえ観られれば、どこの映画館でもいい。
ただ東京の映画館でなら、お仲間が見つかるかと思っただけだ。
町の映画館でもいいよ、と言おうとしたら、忍野くんが先に口を開いた。
「楽しみだな、東京。高校の修学旅行のときは一緒に歩いたりしなかったし、こっち来てからもふたりで東京まで行ったことなかったから、すげぇ楽しみ」
忍野くんも東京は東京なんだ。
彼が楽しそうなので、わたしはこのまま東京へ向かうことにした。
「ところで連続ドラマの放映いつから? もう撮影始まってるの?」
「正義側はとっくの昔にクランクインしてる。俺の顔出し撮影は来週の土曜日から。これまではガワだけだったから、こないだアフレコしに行った」
「ガワ……えっと、スーツアクターさんが怪人姿を演じてくれてたってことね」
「詳しいな」
「えへへ、俳優忍野薫が出るって聞いてから、毎日ほぼ徹夜でヒーロードラマについて調べてるの。制作会社の公式ネットチャンネルに登録して旧作もチェックしたよ」
進行方向からは視線を外さず、忍野くんが眉間に皺を寄せる。
わたしを心配してくれているらしい。
「……お前、そんな状態で映画観に行って大丈夫なのか? 俺なんか、昨日続けて観ただけで結構疲れたぞ」
「イヤだったら、ひとりで行くよ。友達に無理はさせられない」
映画を観るのは結構疲れる。
俳優忍野薫への愛でハイになってるわたしと違って、忍野くんは観客の反応を気にしたり自分の演技の反省もしながら観てるから、余計疲れるんだろうな。
わたしも心配して言ったのに、忍野くんは慌てて首を横に振る。
運転中に、危ない危ない。
「……イヤじゃねぇし。裏川と一緒に過ごせるんなら、なんでもいい」
その頬は、ほのかに赤く染まっていた。
わたしと忍野くんは地元の駅前で待ち合わせをしていた。
一緒に東京の映画館で『キラーナイト』を観るのだ。
近郊に暮らす田舎育ちの人間にとって、二十三区どこへ行っても東京は東京だった。
人込みの中、オールバックに瓶底メガネ、地味な灰色のスーツを着た男性に駆け寄る。
その顔を見上げて尋ねた。
「忍野くんって近視だったっけ。あ、度なしメガネだ。なにかの役作り?」
わたしの言葉に、忍野くんが微笑む。
軽くメガネを上げて、彼は眩しそうにわたしを見た。
「……俺がどんな格好してても、お前ひと目でわかるのな」
「そりゃそうでしょ。あ、でもそれはわたしが俳優忍野薫のファンだからで、ほかの人から見たら別人だと思うよ」
今の忍野くんは、どこにでもいる地味なサラリーマンに見える。
口調はいつも通りだけど、すれ違う人たちが振り向くこともなかった。
普段なら俳優忍野薫を知らない人でも、イケメン振りに二度見していくのに。
「そっか。じゃあ行くぞ。近くのパーキングに車停めてある」
「電車で行くんじゃないんだ」
「アパートまで車で迎えに行っても良かったんだが……その、待ち合わせしたほうがデートっぽいだろ?」
「デートなの?」
目を丸くして聞くと、忍野くんは頬を染めて顔を背けた。
「『恋人になるかもしれない』友達なんだから、今日はお試しデートってことでいいんじゃねぇの?」
「……いいよ」
それくらいは許してあげよう。
自分の行いを反省しているので、しばらくは忍野くんに優しくするつもりのわたしである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーキングに停められていた車は、先日アパートまで迎えに来てくれたときの新車ではなかった。
この前の車は派手で、テレビのCMかなんかで見た気がしたけど、今日の車は地味で小さい。
でも、どこかで……あ、招木さんの事務所の社用車!
目立たないように借りてきた、ってことなのかな?
助手席に座って、わたしは運転席の彼を見た。
「東京まで出るから変装?」
「そ。俺の認知度なんて底辺だし、人気芸能人が素顔でも気づかれないっていうから自意識過剰だとは思うけど、連ドラ控えてるし女連れだから念のため、な」
……わたしが東京の映画館へ行きたいとか言ったから、無理させちゃってるかな。
本当は『キラーナイト』さえ観られれば、どこの映画館でもいい。
ただ東京の映画館でなら、お仲間が見つかるかと思っただけだ。
町の映画館でもいいよ、と言おうとしたら、忍野くんが先に口を開いた。
「楽しみだな、東京。高校の修学旅行のときは一緒に歩いたりしなかったし、こっち来てからもふたりで東京まで行ったことなかったから、すげぇ楽しみ」
忍野くんも東京は東京なんだ。
彼が楽しそうなので、わたしはこのまま東京へ向かうことにした。
「ところで連続ドラマの放映いつから? もう撮影始まってるの?」
「正義側はとっくの昔にクランクインしてる。俺の顔出し撮影は来週の土曜日から。これまではガワだけだったから、こないだアフレコしに行った」
「ガワ……えっと、スーツアクターさんが怪人姿を演じてくれてたってことね」
「詳しいな」
「えへへ、俳優忍野薫が出るって聞いてから、毎日ほぼ徹夜でヒーロードラマについて調べてるの。制作会社の公式ネットチャンネルに登録して旧作もチェックしたよ」
進行方向からは視線を外さず、忍野くんが眉間に皺を寄せる。
わたしを心配してくれているらしい。
「……お前、そんな状態で映画観に行って大丈夫なのか? 俺なんか、昨日続けて観ただけで結構疲れたぞ」
「イヤだったら、ひとりで行くよ。友達に無理はさせられない」
映画を観るのは結構疲れる。
俳優忍野薫への愛でハイになってるわたしと違って、忍野くんは観客の反応を気にしたり自分の演技の反省もしながら観てるから、余計疲れるんだろうな。
わたしも心配して言ったのに、忍野くんは慌てて首を横に振る。
運転中に、危ない危ない。
「……イヤじゃねぇし。裏川と一緒に過ごせるんなら、なんでもいい」
その頬は、ほのかに赤く染まっていた。
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