素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第二話 恋は空回り

5・いつまでも沼の中

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 わたしの同担がいない(いや、どこかにはきっといるはず。俳優忍野薫は天才なんだから!)というか今は少ない理由を悟ってくれた茜ちゃんが、そういえば、と新しい推理を披露してくれる。

「去年だか一昨年だかの女優の結婚会見からすると、あのスキャンダルもジュリエット先輩のときと同じパターンだったんじゃない?」
「忍野くんの男気だったのか……」
「俳優生命捨ててまでは庇ったりしないでしょ。適当に耳触りのいいこと言われて利用されたんだと思うな」
「うん、わたしもそう思う」

 首肯したとき、茜ちゃんの背後から聞き慣れない声が響いてきた。

「ふええぇん」

 もしかして、赤ちゃん?
 産院にお祝いに行ったとき見た、真っ赤で皺くちゃで小さくて、どこか茜ちゃんと旦那さんに似た顔を思い出す。
 わたしは実家に妹がいるのだけれど、姉妹ふたりして独身エンジョイ中なので、身近で赤ちゃんを見るのはほとんど初めてのことだった。
 二歳違いの妹が赤ちゃんだったときの顔は、写真で見たのしか覚えていないのだ。
 ゲームオタクの妹とはそれなりに仲はいい。
 五年前の『ムーンドール』初日は、あの子と観に行ったのよね。
 ……俳優忍野薫沼には全然浸かってくれなかったけど。ううう、爪先くらいいいじゃない。

「あ! 沙英、悪い。葵が起きちゃった」
「ゴメンね」
「全然。いい気分転換ができたわ。この前はお祝いありがとう。今度はあたしから連絡するね」
「時間ができたらでいいよ。じゃあねー」

 電話を切って、わたしは狭いアパートの畳に横たわった。
 今の会社は週休二日で有給も取りやすい。
 入社時は給料が安かったけど、ちょっとずつ上がってきたし、しばらくVシネ『キラーナイト』のDVD以外の出費がなかったから、貯金も結構ある。
 今日は土曜日で、明日は日曜日。
 丸一日かけて『キラーナイト』を観まくる計画は完成済み。
 問題は、忍野くんも一緒なことだけど……

「友達が趣味につき合ってくれるってことよね」

 わたしは呟いて立ち上がり、眠る準備を始めた。
 やっぱり何度考えても、十三年間もつき合ってきた相手を友達じゃないなんて言ったのはわれながら酷かったと思う。
 今日も楽しかったんだし、明日からもしばらくは忍野くんに優しくしよう。
 どうせそのうちあっちのほうから、わたしを好きだなんて言ったのは気の迷いだったと報告してくるはずだ。

 ──キャットファイトの女教師ふたりに前から問題があっても、女子部員の対決に裏があっても、ジュリエット先輩に操られていたんだとしても、忍野くんの女性関係はそれで終わりじゃない。
 荒れてた時期以外にも、ナンパしたりされたりした美人とつき合っていたのを知っている。
 大学の映画研究会の女性会長ともつき合ってた。
 あの人はちょっと、映画の内容以外にも困ったところがあったのよね。
 わたしが撮影を見学に行ったときは嫌がらせもされたし。
 あのときの忍野くんは、すぐに気づいて助けてくれたんだっけ。……まあ、なにがあろうと、わたしは俳優忍野薫沼の裏川沙英河童だ。
 それだけは、きっとずっと変わらない。
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