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第二話 恋は空回り
11・全方位に酷いわたし
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わたしが謝罪を口に出す前に──
「……裏川、ゴメンな」
さっきの映画館近くのパーキングを出た車の中で、忍野くんが言った。
「え、なにが?」
「変な騒ぎ起こしたりして」
「忍野くんのせいじゃない、わたしのせいだよ。連続ドラマに影響なければいいんだけど……三年前のこととか大丈夫かな」
あのときは会社帰りの喫茶店で、わたしがトイレから戻ると忍野くんがいた。
反社会勢力に属する人間風の衣装でだ。
そして、元同僚は顔を真っ青にして立ち上がり、走って逃げて行ったんだっけ。
翌日当時の会社の上司に呼び出されて、忍野くんのことを聞かれた。
俳優をやっている友達が役作りのために妙な格好をしていたのだと告げると上司は、そんなところだろうな、と苦笑していたな。
なんだかんだで退職したけれど、その件で会社に圧力をかけられるようなことはなかった。……会社には。
「あの人、忍野くんのことすごく恨んでたみたいだから」
「大丈夫だとは思うが……」
忍野くんが溜息をつく。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺、暴力なんか振るってないんだぜ? 声にドスは聞かせてたが、大したことは言ってない。……お前、さっき一緒にいた女をどう思ってる。遊びじゃねぇだろうな?……それだけだ」
「そうなの?」
わたしは目を丸くした。
「しつこく忍野くんの悪口を言ってくるから、彼本人を傷つけるような発言をしたのかと思ってた」
「んー……アイドルの生写真が入ったパスケース眺めてたとこに声かけたから、どっちかっていうと、そっちで恨まれたのかもしんねぇ。俺の気配に気づいたとき、驚いて床に落としてたし。落とした後、僕はアイドルオタクじゃないと言いながら踏みつけてたのは、なんかいい気分はしなかったな」
「トラウマがあるのかな……」
「逆だろ。ちゃんと向き合った経験がないから、ちょっとしたことまで怖いんだ。案外他人の趣味をバカにして酷い真似した後で、自分がハマったんじゃねぇの? 自分がした酷いことを他人もするかもしれないと怯えてるんだ」
どうだろうね、と言ってわたしは首を傾げた。
あの女性の話では、今もバレバレの状態で隠しているつもりらしい。
わたしが前の会社にいたころもそうだったのよね。
「……休み時間に『ムーンドール』の特集が載ってる古い芸能雑誌を見てたら、仕事中に話しかけてきたの。彼がそういう趣味なのは周知の事実だったから、正式にカミングアウトしてくれるなら友達になれるかと思って」
車を運転する忍野くんの横顔が、不機嫌そうに歪んだ。
「なんだ? 俺には結婚がどうとか言ってたじゃないか」
「そりゃわたしも二十五歳過ぎてたし、忍野くんは干されたままだったし……気が合って友達になれれば、ゆくゆくはそういう方向に行くかもな、って思ったのよ」
「ふうん。……俺は、すごく焦ったよ。これまで俺以外の男の話をしたことがないお前が、同僚の話をして結婚するかもしれないとまで言ったから」
「そういえばあの日、忍野くん昼休みに電話かけてきたのよね」
「うん。Vシネのオーディションを受けられるようになったこと話したくて、就業後会わないかって誘ったら先約があるって言われたんだよ」
「その場でオーディションのこと教えてくれてたら、あの人断って忍野くんと会ったのに」
「お前全方位に酷いな」
「……裏川、ゴメンな」
さっきの映画館近くのパーキングを出た車の中で、忍野くんが言った。
「え、なにが?」
「変な騒ぎ起こしたりして」
「忍野くんのせいじゃない、わたしのせいだよ。連続ドラマに影響なければいいんだけど……三年前のこととか大丈夫かな」
あのときは会社帰りの喫茶店で、わたしがトイレから戻ると忍野くんがいた。
反社会勢力に属する人間風の衣装でだ。
そして、元同僚は顔を真っ青にして立ち上がり、走って逃げて行ったんだっけ。
翌日当時の会社の上司に呼び出されて、忍野くんのことを聞かれた。
俳優をやっている友達が役作りのために妙な格好をしていたのだと告げると上司は、そんなところだろうな、と苦笑していたな。
なんだかんだで退職したけれど、その件で会社に圧力をかけられるようなことはなかった。……会社には。
「あの人、忍野くんのことすごく恨んでたみたいだから」
「大丈夫だとは思うが……」
忍野くんが溜息をつく。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺、暴力なんか振るってないんだぜ? 声にドスは聞かせてたが、大したことは言ってない。……お前、さっき一緒にいた女をどう思ってる。遊びじゃねぇだろうな?……それだけだ」
「そうなの?」
わたしは目を丸くした。
「しつこく忍野くんの悪口を言ってくるから、彼本人を傷つけるような発言をしたのかと思ってた」
「んー……アイドルの生写真が入ったパスケース眺めてたとこに声かけたから、どっちかっていうと、そっちで恨まれたのかもしんねぇ。俺の気配に気づいたとき、驚いて床に落としてたし。落とした後、僕はアイドルオタクじゃないと言いながら踏みつけてたのは、なんかいい気分はしなかったな」
「トラウマがあるのかな……」
「逆だろ。ちゃんと向き合った経験がないから、ちょっとしたことまで怖いんだ。案外他人の趣味をバカにして酷い真似した後で、自分がハマったんじゃねぇの? 自分がした酷いことを他人もするかもしれないと怯えてるんだ」
どうだろうね、と言ってわたしは首を傾げた。
あの女性の話では、今もバレバレの状態で隠しているつもりらしい。
わたしが前の会社にいたころもそうだったのよね。
「……休み時間に『ムーンドール』の特集が載ってる古い芸能雑誌を見てたら、仕事中に話しかけてきたの。彼がそういう趣味なのは周知の事実だったから、正式にカミングアウトしてくれるなら友達になれるかと思って」
車を運転する忍野くんの横顔が、不機嫌そうに歪んだ。
「なんだ? 俺には結婚がどうとか言ってたじゃないか」
「そりゃわたしも二十五歳過ぎてたし、忍野くんは干されたままだったし……気が合って友達になれれば、ゆくゆくはそういう方向に行くかもな、って思ったのよ」
「ふうん。……俺は、すごく焦ったよ。これまで俺以外の男の話をしたことがないお前が、同僚の話をして結婚するかもしれないとまで言ったから」
「そういえばあの日、忍野くん昼休みに電話かけてきたのよね」
「うん。Vシネのオーディションを受けられるようになったこと話したくて、就業後会わないかって誘ったら先約があるって言われたんだよ」
「その場でオーディションのこと教えてくれてたら、あの人断って忍野くんと会ったのに」
「お前全方位に酷いな」
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