素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第二話 恋は空回り

14・大丈夫かコイツ

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 高校一年二年と観ていって、三年のときの演劇部文化祭公演を観る前に、わたしは夕食の用意をすることにした。
 忍野くんをリビングに残してキッチンでカルボナーラを作りながら、念のためSNSを覗いてみる。
 映画館のことで妙な噂が流れていないか心配だったのだ。
 案の定『俳優忍野薫は反社会勢力に属している』という投稿があった。
 おそらく元同僚だろう。
 ほかには投稿のない作ったばかりのアカウントだった。
 その投稿には、次々と称賛が浴びせられた。
 どういうことかというと──

『その通り! キラーナイトマジリアル』
『演技とは思えないよね!』
『俳優忍野薫天才!』
『現実を隠し撮りしてるって言われても信じる』
『その通り、キラーナイトはキラーですよ』

 などという言葉が寄せられていたのだ。
 わたしが思っている以上に、この世界には河童がいる。
 俳優忍野薫沼の地下水脈を辿って会いに行きたい。
 ……妙な方向に話が行かないよう、招木さんが捨てアカ? とかを使って上手く誘導したのかもしれないけど。
 わたしはホッとして、スマホをポケットに仕舞った。
 このまま話題が盛り上がって『キラーナイト』の映画に人が集まるといいのになあ。
 妙な噂流されて炎上しなかっただけでも良かったのに、ついついそれ以上を望んでしまう。人間は、いやさ河童は欲深い生き物だ。……かぱぱー。

「なんか手伝う?」

 美味しい匂いに釣られたのか、忍野くんがキッチンを覗き込んでくる。

「んー。もうすぐできるから、テーブルだけ片づけといて」
「わかった。……裏川」
「なあに?」
「今日はゴメンな、映画観られなくて」
「いいってば。むしろわたしのせいでしょ」
「……俺さ、本当は外出取りやめになって嬉しかったんだ。だって今日の裏川可愛すぎるからヨソの男の目に触れさせたくなくて。でも裏川は映画観たかったんだよな」
「えっと……」

 正直なところ、大丈夫かコイツ、そう思わずにはいられなかった。
 確かに今日のわたしは、いつも忍野くんと会うときとは比べものにならないほどしゃれこんでいる。三倍増しの気合いを入れている。
 でもそれは、俳優忍野薫の出演作を観るときの当たり前だ。
 というかそもそも、俳優忍野薫の出演作鑑賞と新しい服を買うのがセットになっている。
 高校の同級生の忍野くんと会うときの服は自然それより落ちるものになるので、忍野くんが今日のわたしの姿に驚くのは当然だった。
 ……DVDの中や舞台の上の俳優忍野薫に観ているわたしの格好がわかるはずないしね。
 なんて考えていたら、忍野くんが言葉を続けた。

「役者としての俺を観に来てくれるときは、いつも気合い入れてくれてただろ? お前を好きだって自覚する前から目が離せなかったんだけど、雰囲気探るわけでもないのに観客席ばっか見てたら怒られるから、じっくり見られるのは今日が初めてだ」
「お、おう」

 忍野くんは満面に笑みを浮かべて、眩しそうにわたしを見る。
 ……本当に、大丈夫かコイツ。

「お前練習や楽屋には来てくれなかったし」
「部外者が入って邪魔するのがイヤだったからだよ」
「大学のとき、せっかく見学に来てくれたのに映研の会長に嫌がらせさせちまったもんな。自分から誘っておいてイヤな思いさせて悪かった。……ゴメン」
「忍野くんがすぐ助けてくれたから大丈夫だったよ」
「だったらいいけど」

 忍野くんの視線が、わたしから離れない。

「……忍野くん、エッグタルト美味しかった?」
「うん。裏川がバッグに入れておいてくれて良かったよ。トロっとしてて美味かった」
「カルボナーラも美味しいよ。できたて食べよう」

 彼の視線がわたしから、皿に盛りつけたカルボナーラへ移った。
 なにかほかに悩みがあって、それから逃げるためにわたしを好きだと言っている、のだと思っているんだけど、こうして昔のちょっとしたことを覚えているのを見せられると、なんだか勘違いしそうになる。
 映画館で元同僚から助けてくれたときも、ちょっとときめいてしまった。
 俳優忍野薫からの推し変はありえないものの、高校の同級生の忍野くんに対する評価は、ちょっとだけ上がっているのかも。

 とはいえ──わたしの位置に可愛い女優さんがいて、本物のわたしは観客席で眺めていたほうがトキメキ爆発だったと思うんだけどね。
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