素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第二話 恋は空回り

13・ファンとかオタクとかクラスタとか……

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「……これからどうする?」

 当てもなく車を走らせながら、忍野くんが尋ねてくる。

「東京を出て町の映画館へ行ってもいいけど……同じ系列の映画館の商品だとしても、飲食物の持ち込みはダメよね?」
「持ち込み?」

 首を傾げる忍野くんに、助手席のわたしはバッグを持ち上げて見せた。

「さっきのコーヒーとエッグタルト、バッグに入れてるの」
「エッグタルト!……ああ、いや、大丈夫か? コーヒーホットだぞ」
「えへへ。東京の映画館まで行ったら、さすがに俳優忍野薫のファンがいるに違いないと思ってたんだ。こういうこともあろうかと、ドリンクがこぼれないよう適当な大きさの箱持って来た」
「裏川お前……なんかすげぇな」
「そう? あーでも惜しいことしちゃったな。ひとりで行ってたら、あの俳優忍野薫沼の河童の面々と友達になれたかもしれないのに」

 赤信号で車を停めて、忍野くんがぼそりと呟く。

「……悪かったな」
「あはは、冗談だよ。忍野くんがいなかったら、あの人たちが俳優忍野薫ファンだなんてわからなかったし、それに……たぶんひとりでも声かけたりできないよ」
「SNSとかやったら仲間増えるんじゃねぇの?」

 忍野くんの言うことは正しい。
 どんなマイナーな趣味でも、ネットの大海をさ迷えば仲間はいるだろう。
 青信号で走り出した車の窓からこじゃれた都会の風景を見つめて、わたしは自分なりの考えを語った。

「そうなんだけど……興奮して妙なこと口走っちゃったら、忍野くんの住所やわたしとの関係とか特定されるかもしれないでしょ? 口頭での会話なら誤魔化せるけど。だから……確認してから出せるブログ以外のネット活動は、これからもしないかな」
「ふうん……なあ裏川、河童ってなに? 今朝お前のブログ見たんだけど、いきなりデザイン変えてプロフィール画像が河童になってたけど、なんか関係あんの?」

 映画『キラーナイト』の感想はもっと観て熟考してから公開しようと思っていたが、この前のVシネから動きがないのもどうかと思ったので、昨夜遅くブログのデザインを変えてみたのだった。
 ……しかし忍野くん、朝からなに見てるんだか。
 あ、でも自分が映画観るときに、わたしの感想を参考にしようとしてくれたんだとしたら、ちょっと嬉しいかも。
 軽く推敲だけして、スマホに打ち込んだ初回の感想上げとこうかな。

「昨日茜ちゃん……えっと、同じクラスの是枝さんって覚えてる? 今は友枝さんなんだけど」

 わたしと忍野くんは高校三年間同じクラスだったのだけど、実は茜ちゃんもそうだった。
 覚えていなかったのか、忍野くんが首を傾げる。

「なにその名字、枝縛り?」
「たぶんわざとじゃないと思う。……それはともかく、高校時代からの友達と電話してたら、わたしはファンやオタクやクラスタより、俳優忍野薫沼の裏川沙英河童が一番しっくりくるなって思ったの。それでフリー素材探して変えてみた」
「変なの。なんで河童なんだよ」

 忍野くんが笑う。

「変かな?」
「変だよ。……これからどうする?」
「そうだねえ」

 ──わたしたちは結局、町に戻って忍野くんのマンションでDVDを鑑賞することにした。
 途中でわたしのアパートに寄って持ち出した、高校演劇部の文化祭公演のDVDだ。
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