素顔の俺に推し変しろよ!

豆狸

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第三話 かっぱっぱ

1・ふたたび、たばかられた!

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 招木さんに電話をしたのは、わたしのアパートまで事務所の社用車で迎えに来た忍野くんの意外な言葉を確認するためだった。

「本気ですか、招木さん」
「もちろん本気です。今日は忍野くんをお願いしますよ、裏川さん」

 土曜日の早朝だけど、招木さんは事務所にいた。
 忍野くんの仕事があるからだ。
 というか、その仕事にわたしも連れて行ってくれるという話だったのだが──

「でも……わたしがマネージャー代理だなんて」
「そうですか。じゃあ結婚発表会見でもします? いろいろな年代が観ていることも周知されてきましたが、やっぱりヒーロードラマの主な視聴者は子どもとお母さま方です。『ムーンドール』のときのスキャンダルも誤解だとわかりましたし、高校の同級生と誠実な交際を続けての結婚だと発表したら、好感度が上がると思いますよ」
「招木さん!」

 元同僚の投稿はすぐに勢いを失ったが、あのとき映画館に来ていた群衆のひとりが忍野くんを撮影して、べつのSNSに載せていた。
 運の悪いことに、そこには彼に寄り添うわたしの姿も映っていた。
 寄り添うというか……マネージャーの振りをして、立ち去ろうと声をかけただけだったんだけど。
 今の世の中、公共の場で迂闊なことはできない。
 スマホの向こうの招木さんは、いつもの温和な雰囲気そのままの口調で話す。

「冗談です。幸い現場で忍野くんが裏川さんをマネージャーだと匂わせてますし、本日の撮影には雑誌の取材も来ます。今日一日マネージャーの振りをしていただけば、SNSに拡散されたツーショットの火消しはできるでしょう。忍野くんが乗っていたのがうちの社用車だというのも、マネージャー説の裏付けになりますしね」

 運転席の忍野くんが、助手席のわたしにチラチラと視線を送ってくる。
 もしかして時間がないのかな。
 俳優忍野薫が仕事に遅刻するなんてこと、絶対にあっちゃいけない。
 女性関係でフラフラしてたときだって、撮影や練習、開幕時間に遅れたことはなかったはずだ。……とりあえず噂にはなってなかった。
 あくまで観客としての立ち位置だから、つき合いが長いわりに知らないことも多いのよね。

「……招木さん、確かにSNSにはわたしと忍野くんのツーショット写真が出回ってますけど、特に恋人がどうとか言われてませんよね。騒ぎ自体がささやかですし……このまま放置していても自然に鎮火するんじゃないですか?」

 とりあえず先送りにしたかったのだけど、スマホの向こうの招木さんは溜息をつく。

「その可能性もありますが『文具戦士ペンケースV』の放映が始まってから再燃するかもしれません。『ムーンドール』のとき、相手が既婚者だったわけでもないのに騒ぎが大きくなったのは、例の舞台監督が売名行為に違いないと決めつけたからです。当時の彼の影響力が大きかったこともありますが、女性関係で騒ぎを起こして自分を売り込む役者だというイメージが忍野くんにつくのは困ります。裏川さんはどう思いますか?」
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