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第三話 かっぱっぱ
11・たばかってやる!
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──高校三年生の秋、忍野くんは裏庭で校舎の壁にもたれて座っていた。
ただ座っているだけなのに、雑誌のグラビアのように様になっている。
わたしの足音に気づいたのか、降りていた長いまつ毛が上がった。
「プリン寄越せよ」
忍野くんに言われて、わたしはトートバッグからプリンを取り出した。
自分から要求しておいて、忍野くんは受け取ったプリンを見て鼻で笑う。
「普通の女はさあ、もうちょっと可愛くパッケージするもんじゃねぇの? ガラスカップで作るまではいいけど、アルミホイルで蓋して輪ゴムで止めるって」
「文句があるなら食べなくていいよ」
奪い返そうとすると、しゃがみ込んでいた忍野くんが立ち上がり、手を伸ばしてプリンをわたしから遠ざける。
彼は百八十センチちょっとの身長で、わたしは百五十センチ前後だ。
どんなに手を伸ばしても、彼には届かない。
いつも大人びた嘲笑を浮かべている整った顔が、わたしと同い年のイタズラな少年の笑顔になる。
「返さねぇよ、バカ。毎日俺の演技見せてやってんだから、貢物くらいしろ」
「ぐぬぬ、忍野くんめー」
睨みつけると、忍野くんはなんだか優しい表情になってわたしの額を人差し指でつついた。
「ぐぬぬってなんだよ。ほら、どんなにダサくても食ってやるからスプーン出せ」
「苦いからってカラメルソース拒否するような子ども舌のくせして偉そうに」
もう一度腰かけた彼の隣に座り、トートバッグからスプーンを取り出す。
手にしたスプーンを指先でくるりと回す仕草さえ決まっていると思うのは、ファンの欲目だろうか。……そう、ファン。わたしは役者としての忍野くんが好きだった。
「うっせぇな。俺はデリケートなんですぅ」
「はいはい。今日はバナナ入れてみたよ」
「……このバナナ変色してねぇか?」
「レモン汁に漬けるの忘れてたの。今朝食べたとき大丈夫だったから、大丈夫!」
「マジかよ。……もう放課後だぞ?」
わたしは忍野くんにトートバッグの中を見せた。
ちゃんと中にアルミが貼ってあって、保冷剤も入れてきている。
彼の体調を崩すのは、わたしの望むところではない。
「心配だったらバナナ入れてないヤツもあるよ」
「こっちでいい、もう秋で気温も低いから大丈夫だろ。お前はバナナなしの貧乏プリンを食え」
「貧乏プリンって……」
……ふふふ、まんまと騙されたな。
わたしはバナナプリンにスプーンを入れる忍野くんを見つめてほくそ笑んだ。
バナナを掬い上げた彼が、首を傾げながら口に運ぶ。
満面の笑顔でスプーンを口に入れて、次の瞬間彼は叫んだ。
「おまっ! これ変色してるんじゃなくてキャラメリゼしてるんじゃねぇか」
「騙されたな」
眉間に皺を寄せて、忍野くんはキャラメルバナナ入りのプリンをわたしに差し出した。
「お前の貧乏プリンと交換しろ」
「えー? カラメルと似たようなものだから少しは苦いと思うけど、かなり甘くしてるんだよ?」
「ヤダ。卵の味が死ぬ」
「卵好きだねえ」
言いながら、バナナの入っていないほうのプリンを渡し、彼がキャラメルバナナ入りのプリンを食べたスプーンを返す。
「そのスプーンはお前使えよ。キャラメルがついたから、俺は新しいの使う」
「……いいけど」
素直に新しいスプーンを差し出したわたしに、忍野くんが不思議そうに尋ねてくる。
「……お前、間接キスとか気にしないの?」
「あ、そうか。忍野くんの病気が移っちゃう」
「病気なんかねぇよ。ちゃんと気をつけてる」
なにをどう気をつけているのかは、聞かないことにした。
ただ座っているだけなのに、雑誌のグラビアのように様になっている。
わたしの足音に気づいたのか、降りていた長いまつ毛が上がった。
「プリン寄越せよ」
忍野くんに言われて、わたしはトートバッグからプリンを取り出した。
自分から要求しておいて、忍野くんは受け取ったプリンを見て鼻で笑う。
「普通の女はさあ、もうちょっと可愛くパッケージするもんじゃねぇの? ガラスカップで作るまではいいけど、アルミホイルで蓋して輪ゴムで止めるって」
「文句があるなら食べなくていいよ」
奪い返そうとすると、しゃがみ込んでいた忍野くんが立ち上がり、手を伸ばしてプリンをわたしから遠ざける。
彼は百八十センチちょっとの身長で、わたしは百五十センチ前後だ。
どんなに手を伸ばしても、彼には届かない。
いつも大人びた嘲笑を浮かべている整った顔が、わたしと同い年のイタズラな少年の笑顔になる。
「返さねぇよ、バカ。毎日俺の演技見せてやってんだから、貢物くらいしろ」
「ぐぬぬ、忍野くんめー」
睨みつけると、忍野くんはなんだか優しい表情になってわたしの額を人差し指でつついた。
「ぐぬぬってなんだよ。ほら、どんなにダサくても食ってやるからスプーン出せ」
「苦いからってカラメルソース拒否するような子ども舌のくせして偉そうに」
もう一度腰かけた彼の隣に座り、トートバッグからスプーンを取り出す。
手にしたスプーンを指先でくるりと回す仕草さえ決まっていると思うのは、ファンの欲目だろうか。……そう、ファン。わたしは役者としての忍野くんが好きだった。
「うっせぇな。俺はデリケートなんですぅ」
「はいはい。今日はバナナ入れてみたよ」
「……このバナナ変色してねぇか?」
「レモン汁に漬けるの忘れてたの。今朝食べたとき大丈夫だったから、大丈夫!」
「マジかよ。……もう放課後だぞ?」
わたしは忍野くんにトートバッグの中を見せた。
ちゃんと中にアルミが貼ってあって、保冷剤も入れてきている。
彼の体調を崩すのは、わたしの望むところではない。
「心配だったらバナナ入れてないヤツもあるよ」
「こっちでいい、もう秋で気温も低いから大丈夫だろ。お前はバナナなしの貧乏プリンを食え」
「貧乏プリンって……」
……ふふふ、まんまと騙されたな。
わたしはバナナプリンにスプーンを入れる忍野くんを見つめてほくそ笑んだ。
バナナを掬い上げた彼が、首を傾げながら口に運ぶ。
満面の笑顔でスプーンを口に入れて、次の瞬間彼は叫んだ。
「おまっ! これ変色してるんじゃなくてキャラメリゼしてるんじゃねぇか」
「騙されたな」
眉間に皺を寄せて、忍野くんはキャラメルバナナ入りのプリンをわたしに差し出した。
「お前の貧乏プリンと交換しろ」
「えー? カラメルと似たようなものだから少しは苦いと思うけど、かなり甘くしてるんだよ?」
「ヤダ。卵の味が死ぬ」
「卵好きだねえ」
言いながら、バナナの入っていないほうのプリンを渡し、彼がキャラメルバナナ入りのプリンを食べたスプーンを返す。
「そのスプーンはお前使えよ。キャラメルがついたから、俺は新しいの使う」
「……いいけど」
素直に新しいスプーンを差し出したわたしに、忍野くんが不思議そうに尋ねてくる。
「……お前、間接キスとか気にしないの?」
「あ、そうか。忍野くんの病気が移っちゃう」
「病気なんかねぇよ。ちゃんと気をつけてる」
なにをどう気をつけているのかは、聞かないことにした。
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