愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸

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第四話 老家令の告白<アマート侯爵ダミアーニ視点>

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「ダミアーニ様、寝室にいる女性はだれなのですか?」

 そう尋ねられたのは、結婚式から三日後のことだった。
 蜜月を理由にクリミナーレは寝室に閉じ籠り、信用の置ける使用人達に少しずつ事実を教えていくつもりのダミアーニだったが、忠実な老家令ニコロは思ったよりも早く彼女がヴィオレッタでないことに気づいたようだ。
 もともとニコロは、ダミアーニが婚約者ヴィオレッタ以外の平民女性と付き合っていることを認めてくれていた。ロンバルディ伯爵への対応も相談したいと思いながら、ダミアーニは答えた。

「クリミナーレだよ。君も知っているだろう?」
「はっ?」

 老家令ニコロの瞳が驚愕に見開かれた。

「なにを驚いているんだい。ヴィオレッタが僕達の愛のために身を引いてくれてね、クリミナーレが僕の花嫁になったんだよ」

 そう言えば神殿で結婚証明書にした署名はどちらの名前だったのだろう。
 今さらながらダミアーニはそのことを疑問に感じた。
 クリミナーレがヴィオレッタの名前で署名していたら詐欺になるし、本人の名前だったとしたらアマート侯爵家とロンバルディ伯爵家の結婚式だと知っていた神官が怪訝に思ったはずだ。

(ロンバルディ伯爵もご承知のことだったのか?)

 首を捻って考えるダミアーニに、これまで矍鑠かくしゃくとしていたのが幻だったかのように、一気に老け込んだ顔になったニコロが尋ねてくる。

「ダミアーニ様の恋人の平民女性とはクリミナーレだったのですか?」
「そうだよ。言ってなかったかな? 考えてみると、聞かれたことがなかったね」

 ニコロは沈痛な面持ちで俯いた。

「アマート侯爵家の財政を救うために政略結婚をなさるのですから、少々の遊びは大目に見ようと思っておりました。詳しく知ってしまえば代々侯爵家に仕える家令として苦言を呈さないわけには参りませんので。……ああ、確かに窓から覗いていたあの猫のような金色の瞳はそうだ。ダミアーニ様、どうしてご自身のご両親の仇などと……」

 老家令の呟きに、ダミアーニは眉間に皺を寄せた。

「ニコロ。確かに彼女の伯父は我が家で庭師として雇われていたにもかかわらず、父上を殺して姿を消した。母上がお亡くなりになったのも父上の死による心労からだろう。でもクリミナーレと彼女の母に罪はないんだ。あのときも思ったけれど、追い出すような真似をしなくても良かったんじゃないかな」

 ニコロが溜息を漏らす。

「……もっと早くにお教えしておけば良かったですな。あの親娘は私が追い出したのではございません。自分達で逃げ出したのです。それと、庭師はクリミナーレの伯父ではなく父親です。母親のメイドは違うのに、ふたりとも猫のような金色の瞳でございましたでしょう?」
「逃げ出した? なんで? そもそもどうして親娘なのに伯父と姪だなんて嘘をつく必要があるんだい?」
「庭師があの女……ペルデンテ様の情夫だったからですよ。情夫の妹と姪の世話ならするでしょうけれど、情夫の妻子の面倒は見たりしないでしょう?」
「情夫っ?」
「ペルデンテ様を娶ってから、我がアマート侯爵家の銀細工事業は急激に落ち込みました。もちろんフィリポ様が以前の婚約者をお棄てになったことで、大口の取引先を失ったせいもあります。ですがそれだけでなく、材料の銀を運べば賊に奪われ、用意した商品は数が足りず、挙句に粗悪な模造品に市場を荒らされるようになったからです。それらのことはみな、ペルデンテ様の実家マンデッリ男爵家の仕業でした」
「そんな……」

 庭師はペルデンテがマンデッリ男爵家へ情報を流すときの連絡役だった。
 頬に傷を持つ危険な雰囲気の男だ。
 本当ならアマート侯爵家のような高位貴族が雇う人間ではない。ペルデンテが嫁いで来たとき、男爵家に頼み込まれて雇ったのだ。男爵家は侯爵家に悪意があるというよりも、他人を利用して自分だけ利を得るのを当然と考える人間の集まりだった。

 ──ダミアーニの母ペルデンテも同じだ。
 男爵家を訴えるときの証言者にしたいと考えて、庭師が籠っていた資材小屋を訪れたダミアーニの父フィリポは、そこで庭師と睦み合う妻ペルデンテを見つけた。
 財政難だったロンバルディ伯爵家のマッテオを踏み台にしてフィリポに近づき、本来の婚約者を棄てさせた挙句に婚家の情報を実家に売り渡していた女の本命は庭師だったのだ。
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