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14・X年7月12日③
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映画館では、四人並んで座れる座席を選べた。
四人の中で一番仲の良い組み合わせは冴島と八木だったが、気を遣ってくれたのか、ふたりは菜乃花と佐々木を中央に座らせて、自分たちはその左右に腰かける。
一昨日の水曜日まで挨拶くらいしかしたことがなかった菜乃花と佐々木は、ぎこちない笑顔を交わし合った。
ふたつずつ買ったツードリンクとポップコーンのセットは、菜乃花と冴島、佐々木と八木の間に置かれている。嬉しいような、照れくさいような──
「全部キャラメルのほうが良かったか?」
ポップコーンは甘いキャラメル味としょっぱい黒コショウ味が入ったダブルカップだ。
佐々木と八木のほうは、甘いキャラメル味だけらしい。
菜乃花は首を横に振った。
「ううん。しょっぱいのも好きだから」
「甘いのが苦手ってわけじゃねぇよな?」
菜乃花が頷くと、冴島はホッとしたように笑みを浮かべた。
初めて話しかけられた二年生のとき以来、菜乃花は毎日のように彼に甘いお菓子をもらっている。そういえば、あちらのお礼もしなくては。
「あ、ドリンクとポップコーンのお金払うよ」
「うちも!」
菜乃花と佐々木は、それぞれの隣に言った。
込み合った売店に買いに行ってもらってから、お金の話はしていなかった。
「ここは暗いから、明るいところへ出てからでいいぞ」
「樹里ちゃんは気にしないで。俺は旭と違ってケチじゃないから」
「へいへい。貧乏人ですみませんでした」
「旭くんは悪くないよ?」
「お、おう?」
なんだかんだしている間に予告が始まった。
客席はまだざわついている。
今日の映画は海外で撮られたSFアクション映画だ。
遠い未来かどこかべつの銀河系か、宇宙を股にかけた賞金稼ぎのコンビが主役。
どちらも男性で、だれにも負けない得意分野があるものの、性格は少し抜けている。
前回は、賞金稼ぎが捕まえたケチなコソ泥が名高い女宇宙海賊の元カレだったことから事件に巻き込まれて、銀河を揺るがす危機と立ち向かうという物語だった。
今回は宇宙征服を企む悪の帝国の私掠船に船を襲撃された女宇宙海賊に依頼されて、さらわれたチンピラを助けに行くという話だ。
好きだというだけあって、早速パンフレットを買って照明が暗くなる前に読んでいた八木が、ぽつりと言った。
「女宇宙海賊、あのコソ泥と縒りを戻したんだねえ」
「前回の最後でそれっぽいシーンあっただろ」
答えたのは冴島だ。
菜乃花と佐々木越しに会話が進む。
予告が流れているだけとはいえ、ふたりとも小声である。
「主役コンビにはカノジョができてないんだねえ」
「バカふたりだし、男だけのほうが楽しいんじゃねぇの」
「えー。俺は旭とふたりきりより、女の子も一緒のほうが楽しいよー」
「わかったわかった。じゃあ今度からもう、昼休みにお菓子差し入れしてやんない」
「……あのお菓子って、八木くんへの差し入れの残りだったの」
菜乃花はつい、割り込んでしまった。
佐々木の向こうから、八木が顔を覗かせる。彼はもの言いたげな笑みを浮かべていた。
「んー、今はどっちが残りものなのかなー」
「そろそろ始まるぞ、優也黙れ」
「はーい」
予告映像が終わり、客席が静まり返る。
四人の前で、映画が始まった。
隣にいる冴島が気になって集中できないのではないかと心配していた菜乃花だが──ちゃんと内容を把握しておかないと、後で彼と話ができない──、気がつくと夢中で見入っていた。
映画はとても楽しかったけれど、主役コンビに彼女はできなかった。
四人の中で一番仲の良い組み合わせは冴島と八木だったが、気を遣ってくれたのか、ふたりは菜乃花と佐々木を中央に座らせて、自分たちはその左右に腰かける。
一昨日の水曜日まで挨拶くらいしかしたことがなかった菜乃花と佐々木は、ぎこちない笑顔を交わし合った。
ふたつずつ買ったツードリンクとポップコーンのセットは、菜乃花と冴島、佐々木と八木の間に置かれている。嬉しいような、照れくさいような──
「全部キャラメルのほうが良かったか?」
ポップコーンは甘いキャラメル味としょっぱい黒コショウ味が入ったダブルカップだ。
佐々木と八木のほうは、甘いキャラメル味だけらしい。
菜乃花は首を横に振った。
「ううん。しょっぱいのも好きだから」
「甘いのが苦手ってわけじゃねぇよな?」
菜乃花が頷くと、冴島はホッとしたように笑みを浮かべた。
初めて話しかけられた二年生のとき以来、菜乃花は毎日のように彼に甘いお菓子をもらっている。そういえば、あちらのお礼もしなくては。
「あ、ドリンクとポップコーンのお金払うよ」
「うちも!」
菜乃花と佐々木は、それぞれの隣に言った。
込み合った売店に買いに行ってもらってから、お金の話はしていなかった。
「ここは暗いから、明るいところへ出てからでいいぞ」
「樹里ちゃんは気にしないで。俺は旭と違ってケチじゃないから」
「へいへい。貧乏人ですみませんでした」
「旭くんは悪くないよ?」
「お、おう?」
なんだかんだしている間に予告が始まった。
客席はまだざわついている。
今日の映画は海外で撮られたSFアクション映画だ。
遠い未来かどこかべつの銀河系か、宇宙を股にかけた賞金稼ぎのコンビが主役。
どちらも男性で、だれにも負けない得意分野があるものの、性格は少し抜けている。
前回は、賞金稼ぎが捕まえたケチなコソ泥が名高い女宇宙海賊の元カレだったことから事件に巻き込まれて、銀河を揺るがす危機と立ち向かうという物語だった。
今回は宇宙征服を企む悪の帝国の私掠船に船を襲撃された女宇宙海賊に依頼されて、さらわれたチンピラを助けに行くという話だ。
好きだというだけあって、早速パンフレットを買って照明が暗くなる前に読んでいた八木が、ぽつりと言った。
「女宇宙海賊、あのコソ泥と縒りを戻したんだねえ」
「前回の最後でそれっぽいシーンあっただろ」
答えたのは冴島だ。
菜乃花と佐々木越しに会話が進む。
予告が流れているだけとはいえ、ふたりとも小声である。
「主役コンビにはカノジョができてないんだねえ」
「バカふたりだし、男だけのほうが楽しいんじゃねぇの」
「えー。俺は旭とふたりきりより、女の子も一緒のほうが楽しいよー」
「わかったわかった。じゃあ今度からもう、昼休みにお菓子差し入れしてやんない」
「……あのお菓子って、八木くんへの差し入れの残りだったの」
菜乃花はつい、割り込んでしまった。
佐々木の向こうから、八木が顔を覗かせる。彼はもの言いたげな笑みを浮かべていた。
「んー、今はどっちが残りものなのかなー」
「そろそろ始まるぞ、優也黙れ」
「はーい」
予告映像が終わり、客席が静まり返る。
四人の前で、映画が始まった。
隣にいる冴島が気になって集中できないのではないかと心配していた菜乃花だが──ちゃんと内容を把握しておかないと、後で彼と話ができない──、気がつくと夢中で見入っていた。
映画はとても楽しかったけれど、主役コンビに彼女はできなかった。
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