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第八話 馬車の会話とその数日後
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「お腹がむっつ以上に割れている人がいいです」
私が答えると、エルネスト様は真っ青になりました。
そうか、と重々しく呟かれます。
彼は私から目を逸らし、悲しそうに言いました。
「僕の腹を割って内臓を引きずり出すくらいしないと、君の怒りを鎮めることは出来ないというわけだね」
「ふぇっ? ちち、違います! お腹が割れているというのは、腹筋が盛り上がって割れて見えるということです。要するに体を鍛えているということですよ」
「そうなのか」
「はい」
「……鍛えているよ?」
「はい?」
「一応モレッティ公爵家の跡取りだからね。学園の授業で戦闘術を学んでいるし、王宮でカルロと一緒に騎士団の訓練に交じるときもある」
「そうなんですか。……ふふふ」
「どうしたんだい?」
「お話の途中でごめんなさい。ただ……私達婚約者だったのに、全然お互いのことを知らなかったのだと思ったら笑いがこぼれてしまったのです」
そうだね、とエルネスト様が頷きます。
「僕は君の気持ちも男性の好みも聞いていなかったし、君は……いや、君は悪くないのだけれど、僕が伝えないから僕の日常を知らなかったんだね」
「エルネスト様だけが悪いのではありませんわ。私ももっと歩み寄るべきでした。高位貴族の方々の中で流されないようにするだけで精いっぱいだったからといって、婚約者のあなたのことを知ろうともしなかっただなんて」
「それは君のせいではないよ。国一番の権勢を誇る我が家にロセッティ伯爵家の君が嫁ぐことがどういう意味を持つのか、周囲がどう動くのか、もっと考えるべきだったんだ」
エルネスト様の声は優しく、話し方も私を気遣ってくれているように思えます。
モレッティ公爵家令息との婚約は嫌でしたが、エルネスト様自体を嫌いなわけではありませんでした。まあ、高位貴族の方々から助けてほしいと思ったことは何回かありましたけれど。
私達の婚約が王命によるものだったという話には驚いたものの、ちゃんと婚約を破棄──正式に終わらせるのなら解消でしょうか──したら、良いお友達になれるかもしれません。
「それにしても……良かった」
「はい?」
エルネスト様は、なんだかとても幸せそうな笑顔を浮かべました。
「体を鍛えた男になら僕もなれそうだ」
「そうですね?」
婚約が解消出来なかったとしたら、それはそれでなにか方法を考えますので安心してくださいね、と私は心の中で思いました。
ロセッティ伯爵家には弟という跡取りがいますし、前世の記憶が蘇ったことで思い詰めるような気持ちはなくなりました。前は結構悩んでいたのです。
この世界が乙女ゲームかどうかは気になりますけれど、そうだとしても体験版をスキップしたことがあるだけなので対処しようがありません。そちらについてはお約束の卒業パーティに気をつけておくしかないですね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一緒に馬車で帰ってから数日後、王宮から呼び出しがあって、私はお父様と一緒に登城いたしました。
国王陛下お立会いの下、我が家からもモレッティ公爵家からも異議が出ることなく、私とエルネスト様の婚約は粛々と解消されたのでした。
もちろん、エルネスト様の出生について取り沙汰されることもなかったのです。嘘はよくありませんが、赤ん坊だったエルネスト様のせいではありませんものね。
あ、光の魔法で作った疲れきった顔の鼠は、とても弟に受けました。
もしなにかあったときは、これで食べて行こうと思います。
異世界とはいえ知財違反は怖いので、それまでになにかオリジナルのキャラクターを考えておかなくてはいけませんね。
私が答えると、エルネスト様は真っ青になりました。
そうか、と重々しく呟かれます。
彼は私から目を逸らし、悲しそうに言いました。
「僕の腹を割って内臓を引きずり出すくらいしないと、君の怒りを鎮めることは出来ないというわけだね」
「ふぇっ? ちち、違います! お腹が割れているというのは、腹筋が盛り上がって割れて見えるということです。要するに体を鍛えているということですよ」
「そうなのか」
「はい」
「……鍛えているよ?」
「はい?」
「一応モレッティ公爵家の跡取りだからね。学園の授業で戦闘術を学んでいるし、王宮でカルロと一緒に騎士団の訓練に交じるときもある」
「そうなんですか。……ふふふ」
「どうしたんだい?」
「お話の途中でごめんなさい。ただ……私達婚約者だったのに、全然お互いのことを知らなかったのだと思ったら笑いがこぼれてしまったのです」
そうだね、とエルネスト様が頷きます。
「僕は君の気持ちも男性の好みも聞いていなかったし、君は……いや、君は悪くないのだけれど、僕が伝えないから僕の日常を知らなかったんだね」
「エルネスト様だけが悪いのではありませんわ。私ももっと歩み寄るべきでした。高位貴族の方々の中で流されないようにするだけで精いっぱいだったからといって、婚約者のあなたのことを知ろうともしなかっただなんて」
「それは君のせいではないよ。国一番の権勢を誇る我が家にロセッティ伯爵家の君が嫁ぐことがどういう意味を持つのか、周囲がどう動くのか、もっと考えるべきだったんだ」
エルネスト様の声は優しく、話し方も私を気遣ってくれているように思えます。
モレッティ公爵家令息との婚約は嫌でしたが、エルネスト様自体を嫌いなわけではありませんでした。まあ、高位貴族の方々から助けてほしいと思ったことは何回かありましたけれど。
私達の婚約が王命によるものだったという話には驚いたものの、ちゃんと婚約を破棄──正式に終わらせるのなら解消でしょうか──したら、良いお友達になれるかもしれません。
「それにしても……良かった」
「はい?」
エルネスト様は、なんだかとても幸せそうな笑顔を浮かべました。
「体を鍛えた男になら僕もなれそうだ」
「そうですね?」
婚約が解消出来なかったとしたら、それはそれでなにか方法を考えますので安心してくださいね、と私は心の中で思いました。
ロセッティ伯爵家には弟という跡取りがいますし、前世の記憶が蘇ったことで思い詰めるような気持ちはなくなりました。前は結構悩んでいたのです。
この世界が乙女ゲームかどうかは気になりますけれど、そうだとしても体験版をスキップしたことがあるだけなので対処しようがありません。そちらについてはお約束の卒業パーティに気をつけておくしかないですね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一緒に馬車で帰ってから数日後、王宮から呼び出しがあって、私はお父様と一緒に登城いたしました。
国王陛下お立会いの下、我が家からもモレッティ公爵家からも異議が出ることなく、私とエルネスト様の婚約は粛々と解消されたのでした。
もちろん、エルネスト様の出生について取り沙汰されることもなかったのです。嘘はよくありませんが、赤ん坊だったエルネスト様のせいではありませんものね。
あ、光の魔法で作った疲れきった顔の鼠は、とても弟に受けました。
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