転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

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いきなり異世界転生編

9・混沌のアリ──ダンジョンアント

 荷物を受け取ったシオン君は宿の人にチップを渡して扉を閉めた。

「……スライムでサンドイッチなら、ドラゴンはなにになるかしら」

 ベルちゃんが、とってもいい笑顔を浮かべている。
 やっぱり魔石の質に合わせて美味しいものが作れたりするのかな。
 自分の力だけど、まだまだわからないことばかりだ。

「おい、食器を避けろ」

 シオン君に言われてテーブルの上を空けると、彼が布袋を置いた。
 口を開いて中を覗き込み、溜息をつく。

「……アリだ」
「え?」

 ……アリだー!?

「これは俺の失敗だな。実はべつの案件で、冒険者ギルドのマスターにダンジョンアントの魔石を用意させていたんだ。詳しく説明しなかったから、今回もそれだと思われたらしい」
「アリかー」

 ラケルは前世で予防注射に行ったときのような顔をした。

「アリの魔石はダメなの? そういえばケルベロス様がなにか言ってたっけ」

 宿の人が帰ったので、もうしゃべってもいいよ、と言ってある。

「うん。俺、父上の代わりにダンジョンアント調べたぞ。あんまり多いんで倒すこともあったぞ。倒して魔石になったら食べないとダメなんだぞ。でも……ダンジョンアントは美味しくないんだぞ」

 普通のモンスターは、ダンジョンの中で縄張りを争い食らい合う。
 それによってダンジョンは活性化してコアが進化する。
 コアが進化するとモンスターも増えて変異種やボスクラスが生まれる。

 ダンジョンに入り戦う人間も自然の一部であり、すべてが影響し合ってこの世界は回っている、のだけれど──

「ダンジョンアントはほかのモンスターを食うが、ほかのモンスターは襲ってきたダンジョンアントを倒すことはあっても食うことはない」

 シオン君の言葉を聞いてラケルが頷いている。
 味を思い出しているのか、相変わらず苦虫を噛み潰したような顔だ。

「……『浄化』していない魔石をダンジョンに放置すると、魔力を吸って復活する」
「おまけに『浄化』していてもダンジョンアントの魔石は不味いらしく」
「不味いぞ」
「冒険者が『浄化』したダンジョンアントの魔石を落として行ったりしても」
「……お金にならないから、わざと置いていく」
「だな。『浄化』されたダンジョンアントの魔石は同じダンジョンアントしか食わない。仲間の魔石を食ったダンジョンアントは強くなり、ほかのモンスターを襲う」

 ダンジョンにはダンジョンアントだけが増えていくというわけだ。

「魔石は、元のモンスターの強さではなく含まれる魔力量でランクが決まる。A級魔石は錬金術師が魔力を注ぐことで、武器防具魔道具の材料となるミスリル銀、アダマンタイト鉱、オリハルコン結晶に変成できると聞いている」
「……B級もミスリル銀に変成できるけど、A級よりも必要な魔力が多いの」

 へー、そうなんだ。
 ふたりともよく知ってるなあ。
 わたしが感心していたら、ラケルも口を開いて教えてくれる。

「ごしゅじん、ミスリル銀はダンジョンでも採れるぞ。コアを守る王獣が強いとダンジョンの壁が変成するんだ。父上のお部屋の壁は全部そうだぞ!」
「え、そうだったの!」

 ミスリル銀はとても貴重で、魔道具に使われるときは薄く薄ーく伸ばされるらしい。
 ミスリル銀で作られた(メッキされた?)ミスリル銀貨は、一枚が金貨十枚分なんだって。

 硬貨一枚で百万円かー。
 そんな高価なものがケルベロス様の部屋一面にあったとは、さすが神獣様。
 わたしが驚いていると、シオン君が口を挟んできた。

「それは違うな、ラケル殿。行ったことのない俺が言うのもおこがましいが、偉大なる神獣様の周囲の壁はアダマンタイト鉱やオリハルコン結晶にも変成されているはずだ」

 シオン君の言葉をベルちゃんが引き継ぐ。

「……間違いない。葉菜花が持っていた黒い杖もアダマンタイト鉱製だったし」
「……そうなの?」

 アダマンタイト鉱はミスリル銀よりも貴重。
 同じランクの魔石に同じ強さの魔力を注ぎ込んでも、ミスリル銀の百分の一の大きさのアダマンタイト鉱ができれば大成功なくらい。
 オリハルコン結晶はさらに貴重で、理論上は錬金術で変成できるとされているものの、未だ実証はされていないみたいです。

「……神獣様にもらったのでしょう?」
「そうだけど、えっとね、あれはケルベロス様の爪が変化したものなの」
「魔殻だな」
「魔殻?」
「ダンジョン外ではぐれモンスターを倒したときに得られる皮や骨などの素材の総称だ。魔石ほどではないが強い魔力を含んでいる。魔石に近いものだから、神獣様の魔殻ならアダマンタイト鉱に変成していてもおかしくはない。ミスリル銀ほど知られていないから持ち歩いても危険は少ないだろうが、聖女以外のドワーフと会うときは隠しておいたほうがいいな」

 ベルちゃんがとてつもなく真剣な表情で頷いた。
 ……うん、気をつける。

「話を戻そう。B級魔石をミスリル銀などに変成するには強い魔力が必要だが、燃料魔石にするのは容易だ。燃料魔石は……」

 シオン君は部屋の照明や『浄化』の魔道具を指差した。

「魔道具を作動させるのに必要なものだ。C級D級も燃料魔石に変成できる。E級は含有魔力が少なすぎて下手に魔力を注ぐと壊れてしまうものの、属性の合う魔道具になら一時的な燃料魔石として使うこともできるので冒険者ギルドで買い取りされている。そして……」

 ダンジョンアントの魔石は唯一無二のF級魔石。

「含有魔力が少な過ぎるんだ」

 ケルベロス様もそんなこと言ってた気がする。
 ダンジョンアントが食べる魔力と遺す魔石の魔力が釣り合ってないって。

「おまけに属性は混沌。混沌は特性がはっきりしておらず対応する魔道具もない。あったとしても燃料魔石にできるほどの魔力は含んでいない」

 ランクの高い魔石は砕いてランクの低い魔石の代わりにできるが、ランクの低い魔石をどんなに集めてもランクの高い魔石の代わりにはできないという。

「もしかして冒険者ギルドでも買い取ってもらえないの?」

 あ、でもこの魔石は冒険者ギルドから持って来たんだっけ。
 わたしの質問に、シオン君が答えてくれる。

「昔はな。しかしそれではダンジョンアントを倒すものがいなくなるので、王家や領地にダンジョンを持つ貴族が冒険者ギルドを援助して買い取りさせている。今は……百個で銅貨一枚くらいかな」

 うわあ。
 ダンジョンアント見たことないけど、確か人間と同じくらいの大きさなんだよね。
 それを百匹退治してパン一個分の儲けって……。

「さすがにそれでは冒険者の生活が成り立たないので、王都周辺のダンジョンなら騎士団、貴族達の領地ならそれぞれの私兵を差し向けて退治させている。神獣様のご忠告に従ったおかげで大きな暴走スタンピードはまだ発生していない」
「……代わりに冒険者ギルドの魔石倉庫が限界になってる」
「そうなんだ。じゃあわたしが錬金術で食べ物にできたら一気に減らせそうだね」

 シオン君が首を横に振る。

「それは無理だ。貴様が魔石に注ぐ魔力は少ない。俺の『鑑定』で確認しても減ったことがわからないほどだ。元の魔石の含有魔力を利用して変成しているのならダンジョンアントの魔石では魔力が足りない」

 彼の『鑑定』ではHPとMPは数値ではなく、棒グラフみたいな形で見えるそうです。
 スキルレベル以外のステータスは大体その形だとのこと。
 わたしのHPはシオン君やベルちゃんの十分の一以下の長さしかないらしい。

 そして、MPは逆にとてもとても長い。
 前世から来た魂とこの世界の体の違いが起こす魔力反応の結果じゃないか、という。
 あと、魔術はスキルと関係なく魔術式を購入すれば、だれでも使えるんだって。

 わたしも魔術が使えるようになるのかなー。
 もっとも規格品の燃料魔石に合わせて統一された魔術式を刻む魔道具と違って、人間の魔力はひとりひとり違うから、個々に合わせた魔術式を構成するのは大変みたい。
 その分魔術式は高価なんだって。

 才能のある人は自分で魔術式を構成するとのこと。
 魔術さえ使えれば魔術師と名乗れて、ほかの人に合わせた魔術式まで構成できるのが魔道士、って感じかな。
 神聖系以外の魔術式は魔道士ギルドで購入できるけど、危険なのでひとり(ラケル含む)では絶対行かないようにと言われました。

 神聖系魔術は聖職者になることで神殿から授与してもらえるけれど、『鑑定』されて『転生した異世界人』だと知られると面倒なので、そちらにも行かないようにと言われています。

「そうか。……一個試してみていい?」
「ああ。だが無理はするな。異常があったらすぐ止めろ。さっきも言ったが、混沌属性は特性がはっきりしていないんだ。どんな反応があるかわからない」
「ごしゅじんは俺が守るぞ!」
「……私も葉菜花を守る」
「ありがとう」

 わたしはシオン君からダンジョンアントの魔石を受け取った。

 スライムの魔石よりもひと回り小さい。
 ビー玉みたいだったスライムの魔石と違って真円でもなく、いびつな形だ。
 そんなダンジョンアントの魔石に魔力を注ぎ込む。

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