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葉菜花、旅立ちました編
36・三日目の夜と四日目のオヤツ
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早いもので、気が付くと三日目の夜だった。
明日のこの時間には、もう港町マルテスに着いている。
今夜は往路の夕食最終日ということで、味の濃いお祭りの出店セットにしてみました。
「わふわふ」
「どうしたの、ラケルちゃん?」
食事時間以外は一緒にいるからか、ラケルとロレッタちゃんは仲良くなった。
夜もロレッタちゃんがラケルを抱いて寝るので、ちょっと寂しい。
ラケルはわたし達をどこかへ連れて行こうとしていた。
「は! もしかしたら! お父様ー」
「どうしたの、ロレッタ」
「わふ!」
「葉菜花ちゃんも一緒に来て欲しいのよ」
「わかりました」
ロレッタちゃん、ラケルのわんこしゃべりの意味がわかってたりするのかな?
……ううう、わたしがごしゅじんなのに。
ロレッタちゃんに手を引かれたわたしと旦那様がラケルに導かれたのは、幌馬車を引いてくれている馬のところでした。
ほんの数歩下がれば、夕飯を食べている『闇夜の疾風』がいます。
「わふふう!」
「なるほどね」
どういうことだろう。
「ラケル君の言うことがわかるのかい、ロレッタ」
「わかったのよ、お父様。ラケルちゃんは言っているの。ツォッコロも焼きそばを食べたがってるって。だってこんなに良い匂いなんですもの」
「わふ?……わふー……わふ!」
ラケルは思いもかけないことを言われたとでも言いたげな表情をして首を傾げたあと、まあそれでもいいや、という感じで頷いた。……えー……。
「わふわふ」
わたしは旦那様に言った。
「ラケルも食べてるし、馬が魔石ごはんを食べても大丈夫だと思いますが」
どうしましょう?
「そうですねえ。ツォッコロは大きいし力も強いから、今のようにゆっくり進んでいると逆に疲れるみたいなんですよ。ラケル君が言いたいのは、ツォッコロが疲れているから葉菜花さんの魔石ごはんで元気にしてやって、ってことじゃないかなあ」
「わふ!」
「そういうことなの」
ロレッタちゃんは旦那様の言葉を聞いて、うんうんと頷いている。
ちょっと違うこと言ってた気もするけど大筋は合ってたってことなのかな?
旦那様はツォッコロの鬣を撫でた。
「いざというときに走ってもらいたいので、おとなしいだけの馬ではダメなんですよね」
港町マルテス周辺の街道は王都の騎士団の巡回区域ではない。
町の衛兵隊や領主の私兵が巡回する回数も少ないので、盗賊がよく出るのだという。
異世界転生ものでお約束の盗賊だけど、遭わないで済むならそのほうがいいな。
「いつもはロレッタとお父様も疲れてるけど今回は元気なのよ。葉菜花ちゃんの魔石ごはんのおかげなの」
HPの回復量自体は普通の料理と変わらないんです、ごめんなさい。
ダンジョンに潜るパーティじゃないから、役に立ってる付与効果はラーメンのHP自然回復率上昇くらいかもしれない。
「葉菜花さん、追加料金を払いますのでツォッコロにもなにか作ってやってくれませんか」
「わかりました。でも……焼きそばは食べにくいと思うので、ほかのものにしますね」
とはいうものの、なににしよう。
食材そのものは作れないから、付与効果のあるリンゴやニンジンは作れないんだよね。うーん……リンゴ、か。
「わあ!」
ロレッタちゃんが歓声を上げる。
わたしはアップルパイを作ったのだ。中身のリンゴが丸ごとで、球形の。
おばあちゃんの友達がやっていたケーキ屋さんで売っていたのと同じ感じ。
シナモンとかは少なくなっている、はず。
ツォッコロは、わたしの手の中のアップルパイを美味しそうに食べてくれた。
集中力が上昇するだけで、疲労回復の役に立たない魔石ごはんでごめんね。
普通のアップルパイと同じくらいはHPが回復するはずです。
実は大きな馬が怖くてビクビクしていたのだけど、食べ終わってスリスリされたので一気に平気になった。まつ毛が長くて優しそうだしね。
「ぐるる」
自分でわたし達を呼んだのにヤキモチ妬かないの、ラケル。
……でもロレッタちゃんと仲良しなのにヤキモチ妬いてたから、そうやってわたしのことを思ってくれてるのは嬉しいよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして四日目、往路の最終日。
今日の太陽が沈むころには港町マルテスに到着です。
夕食は宿泊予定の『黄金のドラゴン亭』で食べるとのこと。
「はい。昨日の晩と同じで悪いけどオヤツだよ」
「ひひん」
「わふわふ!」
わたしが差し出したリンゴ型のアップルパイを食べるツォッコロと、なぜかドヤ顔で見守るラケル。
ダンジョンアントの魔石はまだまだあるので、ツォッコロの飼い葉桶一杯分魔石ごはんを作っても良かったんだけど、あくまでメインは飼い葉で魔石ごはんはおまけということになりました。
「ツォッコロ美味しそう」
「ロレッタちゃんの分もすぐ用意しますよ」
「わーい」
「わふう」
今日のオヤツは黄金のお茶会セットBアップルパイ(集中力上昇)+ハチミツかけバニラアイス(精神力上昇)+ホットティー(MP自然回復率上昇効果)です。
あと少しで終わりというときこそ集中力が必要だから、とシオン君が考えてくれた。
普通の三角形のアップルパイの予定だったけど、ロレッタちゃんにリンゴ型が好評だからリンゴ型で提供しようと思う。
形を変えても付与効果が変わらないことは、おにぎりの形で確認してる。
「美味しい! 普段のアップルパイよりリンゴが瑞々しい気がする」
ロレッタちゃんはリンゴ型のアップルパイを気に入ってくれた。
「むー……」
「どうしました?」
「今朝葉菜花ちゃんがツォッコロにあげていた芋ようかんと、お昼にあげていた栗ようかんももらえば良かったと思って」
本当はかぼちゃプリンとかニンジンのクッキーが作りたかったんだけど、シオン君とベルちゃんはお腹に溜まるものが好きだから……甘いもの自体は好きみたいなんだけどね。
わたしが食べたかったのとお腹に溜まりそうだということで和菓子は数種類作っていたので、ツォッコロにあげる魔石ごはんは『鑑定』済の芋ようかんと栗ようかんにしたのだ。
見た目が地味だからか、ロレッタちゃんはあまり興味を示してなかったのです。
芋ようかんと栗ようかんには周囲への支援効果がある。
どの能力への支援になるかは、食べた人によって異なる。
わたしが食べたときはHP消費量減少、シオン君は防御力上昇、ベルちゃんは攻撃力上昇の効果がついた。
ツォッコロは──
「これを食べ終わったら出発しますが、マルコスまでは速度を上げて進んでください」
旦那様の言葉に、ルイスさんとイサクさんが頷く。
「今日のツォッコロは調子がいいから日が沈むまでに着けるかもしれません」
ルイスさんは依頼主の旦那様には敬語を使う。
「……そう思う」
イサクさんは普段通りだけど、旦那様は気にしてないみたい。
ふたりはいつも元気で手際がいいので、どんな支援効果を受けているのかはわからない。
シオン君がいたらなあ。ラケルとは人前で会話できないし。
うーん。ツォッコロにはHP自然回復率上昇効果があるラーメンを食べさせたほうがいいのかなあ。
それはちょっと難しいんだよね。
飼い葉桶で作ると漏れちゃいそう。
オヤツを食べ終えて、マルコさん達が立ち上がった。
「ロレンツォさん、マルテスが近いので辺りを見回ってきます」
「それは俺の役目だぜ?」
ニコロ君はこれまで、停まった馬車を動かす前に前方を確認してくれていた。
不満げなニコロ君に旦那様が言う。
「いいんですよ、ニコロ君。みなさんは斥候というよりも、ロンバルディ商会に役立つものがないかを見に行ってくれるんです。その間になにかあったらみなさんを呼んできてもらいたいので、あなたはここに残ってください」
「……わかりました、ロレンツォの旦那」
ニコロ君は渋々、と言った表情で椅子に座った。
「魔道具デザインの参考になりそうな花でもあったらお願いします」
「……」
イサクさんが無言で頷く。
見回りに行くのはマルコさん、イサクさん、バルバラさんで、留守番組はルイスさん、ジュリアーノさん、ニコロ君だ。
ジュリアーノさんといえば『回復』魔術だけれど、杖を武器にした棒術の名手でもあるそうです。
……ベルちゃんはハンマー使いなんだったっけ。今ごろどうしてるのかなあ?
残されたニコロ君が舌打ちを漏らす。
「ちぇーっ」
わたしは食事係なので、こういうのの数には入ってません。
──バキッ。
かすかになにかが折れる音がした気がして振り返る。
ツォッコロが飼い葉を食べているだけだった。硬い葉が混じってたのかな?
ルイスさんが立ち上がってツォッコロのほうへ歩き出す。
「どうしたんだ、ルイス。賊か?」
「賊なんて来ないほうがいいんだよ、ニコロ。隊長達が帰ってきたらお世話になるから、ツォッコロの鬣に櫛でもかけておいてやろうと思っただけだ。お前は葉菜花の後片付けでも手伝ってろ」
「葉菜花ちゃん、食器に『浄化』かけてもいい?」
「わふわふ!」
「しょーがねーな。俺も手伝ってやるよ」
風が運んでくるルイスさんの鼻歌を聞きながら、わたし達は作業した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ピーヒョロロピー。
どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきたのは、イサクさんが管理しているテーブル以外のものを片付け終わったときだった。
それから少ししてマルコさん達が帰ってきたので、わたし達は出発した。
港町マルテスには夕焼けのころ、なにごともなく到着したのでした。
明日のこの時間には、もう港町マルテスに着いている。
今夜は往路の夕食最終日ということで、味の濃いお祭りの出店セットにしてみました。
「わふわふ」
「どうしたの、ラケルちゃん?」
食事時間以外は一緒にいるからか、ラケルとロレッタちゃんは仲良くなった。
夜もロレッタちゃんがラケルを抱いて寝るので、ちょっと寂しい。
ラケルはわたし達をどこかへ連れて行こうとしていた。
「は! もしかしたら! お父様ー」
「どうしたの、ロレッタ」
「わふ!」
「葉菜花ちゃんも一緒に来て欲しいのよ」
「わかりました」
ロレッタちゃん、ラケルのわんこしゃべりの意味がわかってたりするのかな?
……ううう、わたしがごしゅじんなのに。
ロレッタちゃんに手を引かれたわたしと旦那様がラケルに導かれたのは、幌馬車を引いてくれている馬のところでした。
ほんの数歩下がれば、夕飯を食べている『闇夜の疾風』がいます。
「わふふう!」
「なるほどね」
どういうことだろう。
「ラケル君の言うことがわかるのかい、ロレッタ」
「わかったのよ、お父様。ラケルちゃんは言っているの。ツォッコロも焼きそばを食べたがってるって。だってこんなに良い匂いなんですもの」
「わふ?……わふー……わふ!」
ラケルは思いもかけないことを言われたとでも言いたげな表情をして首を傾げたあと、まあそれでもいいや、という感じで頷いた。……えー……。
「わふわふ」
わたしは旦那様に言った。
「ラケルも食べてるし、馬が魔石ごはんを食べても大丈夫だと思いますが」
どうしましょう?
「そうですねえ。ツォッコロは大きいし力も強いから、今のようにゆっくり進んでいると逆に疲れるみたいなんですよ。ラケル君が言いたいのは、ツォッコロが疲れているから葉菜花さんの魔石ごはんで元気にしてやって、ってことじゃないかなあ」
「わふ!」
「そういうことなの」
ロレッタちゃんは旦那様の言葉を聞いて、うんうんと頷いている。
ちょっと違うこと言ってた気もするけど大筋は合ってたってことなのかな?
旦那様はツォッコロの鬣を撫でた。
「いざというときに走ってもらいたいので、おとなしいだけの馬ではダメなんですよね」
港町マルテス周辺の街道は王都の騎士団の巡回区域ではない。
町の衛兵隊や領主の私兵が巡回する回数も少ないので、盗賊がよく出るのだという。
異世界転生ものでお約束の盗賊だけど、遭わないで済むならそのほうがいいな。
「いつもはロレッタとお父様も疲れてるけど今回は元気なのよ。葉菜花ちゃんの魔石ごはんのおかげなの」
HPの回復量自体は普通の料理と変わらないんです、ごめんなさい。
ダンジョンに潜るパーティじゃないから、役に立ってる付与効果はラーメンのHP自然回復率上昇くらいかもしれない。
「葉菜花さん、追加料金を払いますのでツォッコロにもなにか作ってやってくれませんか」
「わかりました。でも……焼きそばは食べにくいと思うので、ほかのものにしますね」
とはいうものの、なににしよう。
食材そのものは作れないから、付与効果のあるリンゴやニンジンは作れないんだよね。うーん……リンゴ、か。
「わあ!」
ロレッタちゃんが歓声を上げる。
わたしはアップルパイを作ったのだ。中身のリンゴが丸ごとで、球形の。
おばあちゃんの友達がやっていたケーキ屋さんで売っていたのと同じ感じ。
シナモンとかは少なくなっている、はず。
ツォッコロは、わたしの手の中のアップルパイを美味しそうに食べてくれた。
集中力が上昇するだけで、疲労回復の役に立たない魔石ごはんでごめんね。
普通のアップルパイと同じくらいはHPが回復するはずです。
実は大きな馬が怖くてビクビクしていたのだけど、食べ終わってスリスリされたので一気に平気になった。まつ毛が長くて優しそうだしね。
「ぐるる」
自分でわたし達を呼んだのにヤキモチ妬かないの、ラケル。
……でもロレッタちゃんと仲良しなのにヤキモチ妬いてたから、そうやってわたしのことを思ってくれてるのは嬉しいよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして四日目、往路の最終日。
今日の太陽が沈むころには港町マルテスに到着です。
夕食は宿泊予定の『黄金のドラゴン亭』で食べるとのこと。
「はい。昨日の晩と同じで悪いけどオヤツだよ」
「ひひん」
「わふわふ!」
わたしが差し出したリンゴ型のアップルパイを食べるツォッコロと、なぜかドヤ顔で見守るラケル。
ダンジョンアントの魔石はまだまだあるので、ツォッコロの飼い葉桶一杯分魔石ごはんを作っても良かったんだけど、あくまでメインは飼い葉で魔石ごはんはおまけということになりました。
「ツォッコロ美味しそう」
「ロレッタちゃんの分もすぐ用意しますよ」
「わーい」
「わふう」
今日のオヤツは黄金のお茶会セットBアップルパイ(集中力上昇)+ハチミツかけバニラアイス(精神力上昇)+ホットティー(MP自然回復率上昇効果)です。
あと少しで終わりというときこそ集中力が必要だから、とシオン君が考えてくれた。
普通の三角形のアップルパイの予定だったけど、ロレッタちゃんにリンゴ型が好評だからリンゴ型で提供しようと思う。
形を変えても付与効果が変わらないことは、おにぎりの形で確認してる。
「美味しい! 普段のアップルパイよりリンゴが瑞々しい気がする」
ロレッタちゃんはリンゴ型のアップルパイを気に入ってくれた。
「むー……」
「どうしました?」
「今朝葉菜花ちゃんがツォッコロにあげていた芋ようかんと、お昼にあげていた栗ようかんももらえば良かったと思って」
本当はかぼちゃプリンとかニンジンのクッキーが作りたかったんだけど、シオン君とベルちゃんはお腹に溜まるものが好きだから……甘いもの自体は好きみたいなんだけどね。
わたしが食べたかったのとお腹に溜まりそうだということで和菓子は数種類作っていたので、ツォッコロにあげる魔石ごはんは『鑑定』済の芋ようかんと栗ようかんにしたのだ。
見た目が地味だからか、ロレッタちゃんはあまり興味を示してなかったのです。
芋ようかんと栗ようかんには周囲への支援効果がある。
どの能力への支援になるかは、食べた人によって異なる。
わたしが食べたときはHP消費量減少、シオン君は防御力上昇、ベルちゃんは攻撃力上昇の効果がついた。
ツォッコロは──
「これを食べ終わったら出発しますが、マルコスまでは速度を上げて進んでください」
旦那様の言葉に、ルイスさんとイサクさんが頷く。
「今日のツォッコロは調子がいいから日が沈むまでに着けるかもしれません」
ルイスさんは依頼主の旦那様には敬語を使う。
「……そう思う」
イサクさんは普段通りだけど、旦那様は気にしてないみたい。
ふたりはいつも元気で手際がいいので、どんな支援効果を受けているのかはわからない。
シオン君がいたらなあ。ラケルとは人前で会話できないし。
うーん。ツォッコロにはHP自然回復率上昇効果があるラーメンを食べさせたほうがいいのかなあ。
それはちょっと難しいんだよね。
飼い葉桶で作ると漏れちゃいそう。
オヤツを食べ終えて、マルコさん達が立ち上がった。
「ロレンツォさん、マルテスが近いので辺りを見回ってきます」
「それは俺の役目だぜ?」
ニコロ君はこれまで、停まった馬車を動かす前に前方を確認してくれていた。
不満げなニコロ君に旦那様が言う。
「いいんですよ、ニコロ君。みなさんは斥候というよりも、ロンバルディ商会に役立つものがないかを見に行ってくれるんです。その間になにかあったらみなさんを呼んできてもらいたいので、あなたはここに残ってください」
「……わかりました、ロレンツォの旦那」
ニコロ君は渋々、と言った表情で椅子に座った。
「魔道具デザインの参考になりそうな花でもあったらお願いします」
「……」
イサクさんが無言で頷く。
見回りに行くのはマルコさん、イサクさん、バルバラさんで、留守番組はルイスさん、ジュリアーノさん、ニコロ君だ。
ジュリアーノさんといえば『回復』魔術だけれど、杖を武器にした棒術の名手でもあるそうです。
……ベルちゃんはハンマー使いなんだったっけ。今ごろどうしてるのかなあ?
残されたニコロ君が舌打ちを漏らす。
「ちぇーっ」
わたしは食事係なので、こういうのの数には入ってません。
──バキッ。
かすかになにかが折れる音がした気がして振り返る。
ツォッコロが飼い葉を食べているだけだった。硬い葉が混じってたのかな?
ルイスさんが立ち上がってツォッコロのほうへ歩き出す。
「どうしたんだ、ルイス。賊か?」
「賊なんて来ないほうがいいんだよ、ニコロ。隊長達が帰ってきたらお世話になるから、ツォッコロの鬣に櫛でもかけておいてやろうと思っただけだ。お前は葉菜花の後片付けでも手伝ってろ」
「葉菜花ちゃん、食器に『浄化』かけてもいい?」
「わふわふ!」
「しょーがねーな。俺も手伝ってやるよ」
風が運んでくるルイスさんの鼻歌を聞きながら、わたし達は作業した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ピーヒョロロピー。
どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきたのは、イサクさんが管理しているテーブル以外のものを片付け終わったときだった。
それから少ししてマルコさん達が帰ってきたので、わたし達は出発した。
港町マルテスには夕焼けのころ、なにごともなく到着したのでした。
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