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第十話 貴方が真実を知る日 後編<ヨアニス視点>
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来たときと同じように数日かけて王都へ戻ったヨアニスの耳に、サマラス子爵令嬢が自殺未遂をしたという情報が入ってきた。
プセマが死んだという情報を聞いての行動だった。
幸い近くにいた人間が、彼女が飲んだ毒をすぐに吐かせて治療をしたので、今は話が出来る状態だという。近衛騎士を行かせようかと思っていたが、ヨアニスが戻ったのならヨアニスが話を聞いてくると良い、と父王は言った。
「……ごめんなさい」
サマラス子爵令嬢は王都にある子爵邸の応接室でヨアニスを迎えた。子爵夫妻も同じ部屋にいる。
令嬢は酷くやつれている。
本当はベッドで安静にしていたほうが良いのかもしれない。しかし第一王子と話をするのだ。寝間着姿では不敬が過ぎる。彼女は無理をして起きてきたのだろう。王宮へ召喚出来る体調でないことは言うまでもない。
(せめて早めに話を終わらせよう)
思いながら、ヨアニスは単刀直入に尋ねた。
「君が謝っているのは、君がプセマを殺したからかい?」
「いいえっ! そんな、そんな恐ろしいことしていません。アタクシ……アタクシは、プセマ様に毒を渡したのです」
「……つまり、君がプセマに毒を飲ませたと?」
「違います。そうではなくて……プセマ様が毒を欲しがったのです。それでアタクシが父母に隠れて持ち出して……」
ヨアニスは息を呑んだ。
プセマは自殺だったのだろうか。
父王と弟王子達はその可能性も示唆していた。あの状況でプセマの杯に毒を入れられるのは、本人以外には不可能だと言って。
(だとしたら、なぜ? 私との結婚が嫌だったのか? 王太子妃になるのではなく伯爵家に私が婿入りすることが受け入れられなかったのか?)
ヨアニスは震える声で、再度サマラス子爵令嬢に尋ねた。
「プセマは……死ぬつもりだったのかい?」
「いいえっ! そうではなくて……あの、スクリヴァ公爵令嬢に罪を着せるつもりで、だからアタクシにあんな証言をするように命じて、その、間違えて量を飲み過ぎただけで、プセマ様本人に死ぬつもりはなかったと思います」
「リディアに罪を着せる?」
「……ごめんなさい。でもアタクシには止められなくて。ほかの人に話したら、アタクシがこの計画を考えてプセマ様にやらせようとしたのだと殿下に言うって脅されて、でもこんなことになるのなら……」
泣きじゃくるサマラス子爵令嬢を宥めながら話を続ける。
プセマはリディアに罪を着せるために毒を飲み、量を間違えて死んでしまったらしい。
最愛の恋人がそんなことを考えていたのも驚愕だったが、サマラス子爵令嬢が冤罪を着せられるのを恐れて従ったというのにも衝撃を受けた。どうやら自分は、プセマに言われればなんでも信じて言うことを聞く人間だと思われているようだ。
(ハジダキス男爵夫人達のことを考えれば当然か)
あのときの自分は運命のような再会に浮かれて、裏も取らずにハジダキス男爵のところへ直行した。それが男爵を調子づかせ、夫人と令息の人生を捻じ曲げたのだ。
「ごめんなさいごめんなさい」
謝り続けるサマラス子爵令嬢に罰を与えないわけにはいかない。
薬や毒を扱うには資格がいる。彼女は資格もないのに、人間の命を奪うような毒を勝手に持ち出したのだ。
それにリディアのことで偽証した罪もある。
「スクリヴァ公爵令嬢のことで嘘をついたのは、あのときはまだプセマ様が生きていると思っていたからで。もう死んでいるとわかれば、ちゃんと、ちゃんと本当のことを……」
言ったとはとても思えなかったが、ヨアニスはとりあえずわかったと言って彼女を下がらせた。
沈痛な面持ちのサマラス子爵夫妻に、沙汰については後で伝えると告げて、ヨアニスは帰路に就く。
馬車に揺られて王宮へと戻るヨアニスは、リディアが犯人ではないとわかって自分でも驚くほど絶望していた。スクリヴァ公爵家がサマラス子爵家に圧力をかけたとは思わない。最初の取り調べのときから子爵令嬢の証言にはおかしなことばかりだった。
(だけど……)
ヨアニスは信じたかったのだ。リディアが犯人であると。
(これじゃあ……)
受け入れなくてはいけなくなる。
リディアが自分を愛していないことを。プセマを殺してでも自分を奪い返したいと思ってくれてはいなかったことを。
彼女と婚約を破棄した後、最愛の恋人のプセマに言われた言葉を思い出す。
『ねえヨアニス。どうしてアナタはいつもあの女を見ているの?』
リディアが婚約者だったときはプセマばかり見ていたくせに、彼女が婚約者でなくなった途端、ヨアニスの瞳はリディアを追うようになった。
自分でもわからない。
愛しているのはプセマだ。そのはずだ。そうでなければならない。
(そうでなければ……)
王都へ向かう馬車の中、両手で自分の顔を覆ってヨアニスはそれを受け入れた。
自分は間違っていた。
プセマを愛した気持ち自体は真実だったかもしれないが、リディアを失ってまで手に入れたい存在ではなかった。そしてプセマは、自分が思っていたようなだれかに守られなければ生きていけない儚い女性ではなく、他人を貶めてでも自分の立場を有利にしようとする逞しくもズル賢い存在だったのだ。
プセマが死んだという情報を聞いての行動だった。
幸い近くにいた人間が、彼女が飲んだ毒をすぐに吐かせて治療をしたので、今は話が出来る状態だという。近衛騎士を行かせようかと思っていたが、ヨアニスが戻ったのならヨアニスが話を聞いてくると良い、と父王は言った。
「……ごめんなさい」
サマラス子爵令嬢は王都にある子爵邸の応接室でヨアニスを迎えた。子爵夫妻も同じ部屋にいる。
令嬢は酷くやつれている。
本当はベッドで安静にしていたほうが良いのかもしれない。しかし第一王子と話をするのだ。寝間着姿では不敬が過ぎる。彼女は無理をして起きてきたのだろう。王宮へ召喚出来る体調でないことは言うまでもない。
(せめて早めに話を終わらせよう)
思いながら、ヨアニスは単刀直入に尋ねた。
「君が謝っているのは、君がプセマを殺したからかい?」
「いいえっ! そんな、そんな恐ろしいことしていません。アタクシ……アタクシは、プセマ様に毒を渡したのです」
「……つまり、君がプセマに毒を飲ませたと?」
「違います。そうではなくて……プセマ様が毒を欲しがったのです。それでアタクシが父母に隠れて持ち出して……」
ヨアニスは息を呑んだ。
プセマは自殺だったのだろうか。
父王と弟王子達はその可能性も示唆していた。あの状況でプセマの杯に毒を入れられるのは、本人以外には不可能だと言って。
(だとしたら、なぜ? 私との結婚が嫌だったのか? 王太子妃になるのではなく伯爵家に私が婿入りすることが受け入れられなかったのか?)
ヨアニスは震える声で、再度サマラス子爵令嬢に尋ねた。
「プセマは……死ぬつもりだったのかい?」
「いいえっ! そうではなくて……あの、スクリヴァ公爵令嬢に罪を着せるつもりで、だからアタクシにあんな証言をするように命じて、その、間違えて量を飲み過ぎただけで、プセマ様本人に死ぬつもりはなかったと思います」
「リディアに罪を着せる?」
「……ごめんなさい。でもアタクシには止められなくて。ほかの人に話したら、アタクシがこの計画を考えてプセマ様にやらせようとしたのだと殿下に言うって脅されて、でもこんなことになるのなら……」
泣きじゃくるサマラス子爵令嬢を宥めながら話を続ける。
プセマはリディアに罪を着せるために毒を飲み、量を間違えて死んでしまったらしい。
最愛の恋人がそんなことを考えていたのも驚愕だったが、サマラス子爵令嬢が冤罪を着せられるのを恐れて従ったというのにも衝撃を受けた。どうやら自分は、プセマに言われればなんでも信じて言うことを聞く人間だと思われているようだ。
(ハジダキス男爵夫人達のことを考えれば当然か)
あのときの自分は運命のような再会に浮かれて、裏も取らずにハジダキス男爵のところへ直行した。それが男爵を調子づかせ、夫人と令息の人生を捻じ曲げたのだ。
「ごめんなさいごめんなさい」
謝り続けるサマラス子爵令嬢に罰を与えないわけにはいかない。
薬や毒を扱うには資格がいる。彼女は資格もないのに、人間の命を奪うような毒を勝手に持ち出したのだ。
それにリディアのことで偽証した罪もある。
「スクリヴァ公爵令嬢のことで嘘をついたのは、あのときはまだプセマ様が生きていると思っていたからで。もう死んでいるとわかれば、ちゃんと、ちゃんと本当のことを……」
言ったとはとても思えなかったが、ヨアニスはとりあえずわかったと言って彼女を下がらせた。
沈痛な面持ちのサマラス子爵夫妻に、沙汰については後で伝えると告げて、ヨアニスは帰路に就く。
馬車に揺られて王宮へと戻るヨアニスは、リディアが犯人ではないとわかって自分でも驚くほど絶望していた。スクリヴァ公爵家がサマラス子爵家に圧力をかけたとは思わない。最初の取り調べのときから子爵令嬢の証言にはおかしなことばかりだった。
(だけど……)
ヨアニスは信じたかったのだ。リディアが犯人であると。
(これじゃあ……)
受け入れなくてはいけなくなる。
リディアが自分を愛していないことを。プセマを殺してでも自分を奪い返したいと思ってくれてはいなかったことを。
彼女と婚約を破棄した後、最愛の恋人のプセマに言われた言葉を思い出す。
『ねえヨアニス。どうしてアナタはいつもあの女を見ているの?』
リディアが婚約者だったときはプセマばかり見ていたくせに、彼女が婚約者でなくなった途端、ヨアニスの瞳はリディアを追うようになった。
自分でもわからない。
愛しているのはプセマだ。そのはずだ。そうでなければならない。
(そうでなければ……)
王都へ向かう馬車の中、両手で自分の顔を覆ってヨアニスはそれを受け入れた。
自分は間違っていた。
プセマを愛した気持ち自体は真実だったかもしれないが、リディアを失ってまで手に入れたい存在ではなかった。そしてプセマは、自分が思っていたようなだれかに守られなければ生きていけない儚い女性ではなく、他人を貶めてでも自分の立場を有利にしようとする逞しくもズル賢い存在だったのだ。
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2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
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