この世で彼女ひとり

豆狸

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 ──愛しいアナタ。これはアタシの最後の手紙です。

 アタシがアナタと出会ったのは、学園の入学式の前日でしたね。
 あのときはアナタが王子様だなんて気づきませんでした。
 入学式で会って、すっごくビックリしたんですよ?
 王子様だと知ってからは身を引こうと思っていましたが、アタシといるアナタはいつも王子様じゃないただの男の子で、アタシ以外の人間はアナタを王子様としてしか見ていないと言われたときの悲し気な顔が心に焼き付いて、気がついたら離れられないほど好きになっていました。
 本当に、アナタが王子様じゃないただの男の子だったら良かったのに。

 あの方には、大変申し訳ないことをしたと思っています。
 アタシを苛めた人達が言っていたから、あの方がすべての黒幕だと思っていましたが、そうではなかったのですよね?
 辺境派のあの方をアナタの婚約者の座から引きずり下ろすため、王都派の貴族があの方の仕業に見せかけてアタシを苛めていたんですよね。
 それどころか王都派の中には平民のアタシ自体を邪魔に思って命を狙っていた人達もいたんですよね。
 あの方がいなくなって思い知りました。
 アタシはアナタからあの方を引き離すための道具に過ぎなくて、味方してくれていたように見えた王都派の貴族も、あの方がいなくなった途端アタシを邪魔者扱いするようになっていたんだもの。
 アタシを養女にしてもいいと言っていた王都派の貴族も手のひらを返しましたよね。
 あの方がこっそり護衛をつけてくれていなければ、アタシは卒業前に殺されていたかもしれません。

 あの方は、アタシをアナタの愛妾として迎え入れてもいいと言ってくれましたよね。
 アナタは怒っていたけれど、アタシはそれでも良いと思っていました。
 だってアタシは王太子妃になんかなれません。
 貴族の子女が通う学園に平民枠で入学出来るくらいには勉強を頑張っていたけれど、貴族として振る舞えるかどうかはまたべつの話です。
 アタシにはなんの後ろ盾もないのです。
 それに、アタシが好きになったアナタは王子様じゃないただの男の子のアナタです。
 ただの男の子のアナタと普通の平民の夫婦になれるのなら、どんなにか幸せだったことでしょうか。

 アタシは王子様のアナタを愛せません。
 王太子のアナタも、未来の国王様になるアナタもです。
 アタシに愛せるのは、愛しているのはただの男の子のアナタだけです。
 でも、ただの男の子のアナタはいなくなってしまいました。
 ただの男の子でいられるのは学園の間だけと、アナタ自身が言っていましたものね。
 アタシは愛していたアナタを追おうと思います。
 あの方が辺境伯家に嫁いで、王都派は完全にアタシがいらなくなったらしく、前から欲しがっていた毒をやっともらうことが出来ました。
 アタシに毒をくれた人を責めないであげてくださいね。

 学園の卒業パーティのとき、この世で愛しているのはアタシひとりだと言ってくれて、とっても嬉しかったです。
 だけどアタシはいなくなります。
 どうかほかに愛せる人を見つけてください。
 ただの男の子のアナタだけではなく、王子様のアナタも王太子のアナタも、未来の国王様になるアナタも愛してくれるだれかを……
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