この世で彼女ひとり

豆狸

文字の大きさ
2 / 4

しおりを挟む
 ──愛しいアナタ。これはアタシの最後の手紙です。

 アタシがアナタと出会ったのは、学園の入学式の前日でしたね。
 あのときはアナタが王子様だなんて気づきませんでした。
 入学式で会って、すっごくビックリしたんですよ?
 王子様だと知ってからは身を引こうと思っていましたが、アタシといるアナタはいつも王子様じゃないただの男の子で、アタシ以外の人間はアナタを王子様としてしか見ていないと言われたときの悲し気な顔が心に焼き付いて、気がついたら離れられないほど好きになっていました。
 本当に、アナタが王子様じゃないただの男の子だったら良かったのに。

 あの方には、大変申し訳ないことをしたと思っています。
 アタシを苛めた人達が言っていたから、あの方がすべての黒幕だと思っていましたが、そうではなかったのですよね?
 辺境派のあの方をアナタの婚約者の座から引きずり下ろすため、王都派の貴族があの方の仕業に見せかけてアタシを苛めていたんですよね。
 それどころか王都派の中には平民のアタシ自体を邪魔に思って命を狙っていた人達もいたんですよね。
 あの方がいなくなって思い知りました。
 アタシはアナタからあの方を引き離すための道具に過ぎなくて、味方してくれていたように見えた王都派の貴族も、あの方がいなくなった途端アタシを邪魔者扱いするようになっていたんだもの。
 アタシを養女にしてもいいと言っていた王都派の貴族も手のひらを返しましたよね。
 あの方がこっそり護衛をつけてくれていなければ、アタシは卒業前に殺されていたかもしれません。

 あの方は、アタシをアナタの愛妾として迎え入れてもいいと言ってくれましたよね。
 アナタは怒っていたけれど、アタシはそれでも良いと思っていました。
 だってアタシは王太子妃になんかなれません。
 貴族の子女が通う学園に平民枠で入学出来るくらいには勉強を頑張っていたけれど、貴族として振る舞えるかどうかはまたべつの話です。
 アタシにはなんの後ろ盾もないのです。
 それに、アタシが好きになったアナタは王子様じゃないただの男の子のアナタです。
 ただの男の子のアナタと普通の平民の夫婦になれるのなら、どんなにか幸せだったことでしょうか。

 アタシは王子様のアナタを愛せません。
 王太子のアナタも、未来の国王様になるアナタもです。
 アタシに愛せるのは、愛しているのはただの男の子のアナタだけです。
 でも、ただの男の子のアナタはいなくなってしまいました。
 ただの男の子でいられるのは学園の間だけと、アナタ自身が言っていましたものね。
 アタシは愛していたアナタを追おうと思います。
 あの方が辺境伯家に嫁いで、王都派は完全にアタシがいらなくなったらしく、前から欲しがっていた毒をやっともらうことが出来ました。
 アタシに毒をくれた人を責めないであげてくださいね。

 学園の卒業パーティのとき、この世で愛しているのはアタシひとりだと言ってくれて、とっても嬉しかったです。
 だけどアタシはいなくなります。
 どうかほかに愛せる人を見つけてください。
 ただの男の子のアナタだけではなく、王子様のアナタも王太子のアナタも、未来の国王様になるアナタも愛してくれるだれかを……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この嘘が暴かれませんように

豆狸
恋愛
身勝手な夫に一方的な離縁を申し付けられた伯爵令嬢は、復讐を胸にそれを受け入れた。 なろう様でも公開中です。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける

基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。 「王太子殿下。お初にお目にかかります」 聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。 「魅了だって?王族が…?ありえないよ」 男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。 聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。 王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。 その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。 いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。 「あの女…っ王族に魅了魔法を!」 「魅了は解けましたか?」 「ああ。感謝する」 王太子はすぐに行動にうつした。

婚約者への愛を薔薇に注ぎました

恋愛
妹と違って家族にも、婚約者にも愛されなかったメルティナ。王国一の魔法使いエミディオの力で時間を巻き戻し、彼の妻になったメルティナは今とても幸福に満ち溢れていた。 魔法薬店を営むメルティナの許に、元婚約者が現れた。 嘗て狂おしい程に愛した元婚約者を見ても、愛がすっかりと消えてしまったメルティナの心は揺れなかった。 ※なろうさんにも公開しています。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

処理中です...