運命の恋は一度だけ

豆狸

文字の大きさ
11 / 15

第十一話 運命の恋が始まらない<二度目の王子>

 ロゼットとの婚約が絶望的だと気づいてからは、母上は私に近づかなくなった。
 学園入学の年になっても婚約者の決まっていない私を無視して、弟達の婚約者の妃教育に勤しんでいる。
 前のときは良好だと思っていた母上と弟達の婚約者の仲は、今回は険悪に見えた。弟達はいつも、厳し過ぎる、婚約者達の努力を認めてやってくれ、と母上に言っている。

 ロゼットが婚約者だったとき、私も言うべきだったのだろうか。
 婚約者同士が定例茶会でしか会えないのはおかしい、もっと妃教育の時間を減らしてふたりで過ごす時間を増やしてくれ、と。
 弟達は父王に、母上は自分達の婚約者を教育しているのではなく、甚振って心を折り支配しようとしているのだと訴えていた。

 今回も前のときも母上を御せていない父王は、実はそれほど優秀ではないのかもしれない。
 そして、そんな父王に王太子として選ばれた私も。
 私が王太子に選ばれたのは、財力のあるガレアーノ侯爵家の令嬢が婚約者だったからでしかなかったのかもしれない。

 ……考えても仕方がない。

 だれを婚約者にしていようとも、私はプロスティトゥタを選ぶのだ。
 彼女のためなら王位継承権を棄てて平民になってもかまわない。
 前のときとはまるで違う二度目の人生に押し潰されそうになりながら、私はこの国の貴族子女が通う学園に入学する日を迎えた。

 会える、やっとプロスティトゥタに会える。
 実はこっそり調べてみたこともあるのだが、男爵に囲われている平民の愛人親娘というだけでは探し当てることは出来なかった。
 もっとも見つけてもどうしようもない。彼女のほうはまだ私を知らないのだから。

 懐かしい学園、懐かしい教室、懐かしい──プロスティトゥタはどこにもいなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「俺になんのご用でしょうか、マルクス殿下」

 今のジルベルト伯爵家の次男カルロスは、プロスティトゥタの婚約者ではない。
 彼女の異母姉で男爵家の長女イザベルが存命だからだ。
 それだけのことなのに、確認するのには数日かかっていた。

 今の私の側近候補はグスマン公爵家のミゲルではない。
 彼ならば、私が知りたいと思うことはすぐ調べてくれた。聞く前に察して資料を用意してくれていることもあった。
 だが、プロスティトゥタとの関係を窘められたのが癪に触って、余計なことを言うなと怒鳴りつけてからは、言われたことを淡々とこなすだけの人間になった。今のミゲルとは、同じ教室で朝夕挨拶をするだけの仲だ。

 ふたつ年上のカルロスの教室へ来た私は、簡単に挨拶だけして、単刀直入に尋ねた。

「プロスティトゥタがどこにいるか教えてもらえるだろうか」

 これは危険な賭けだった。
 前のカルロスは、プロスティトゥタを愛するあまり自分の婚約者を殺害したのだ。それだけでなく、私と恋仲になったプロスティトゥタに婚約を解消されて、逆恨みして彼女の命を奪ったのだ。
 今、学園にプロスティトゥタの姿が見えないのもカルロスのせいかもしれない。

 だが、ほかに糸口がないのだ。
 プロスティトゥタの実父のはずの男爵は病気で、領地で療養していると聞く。
 男爵夫人や令嬢に愛人の娘について聞いても情報が得られるとは思えない。

 前のとき、常に狂気を帯びた瞳にプロスティトゥタを映していたカルロスのことだ。
 今回は異母姉を殺して男爵家に引き入れるのではなく、プロスティトゥタを攫って監禁しているのかもしれない。男爵が病気になったのは、愛しい娘が行方不明になったからなのかもしれない。
 しかし、カルロスが常軌を逸しているからこそ、上手く煽れば情報を引き出せるかもしれないと私は睨んでいた。

 監禁されたプロスティトゥタの純潔は気にしない。
 彼女のせいではないのだから。
 プロスティトゥタと私は運命の恋で結ばれている。どんな艱難辛苦があろうともふたりなら乗り越えていけると、私は信じていた。

「プロスティトゥタ? って、だれですか?……ああ、いや……」

 不思議なことに目の前のカルロスからは、あまり狂気を感じなかった。
 善良そうな青年に見える。そう演じているのだろうか。
 少し悩んだ後で、彼は言葉を続けた。

「地獄じゃないですか?」
「は?」
「俺が乗っていた馬車を襲撃した罪で処刑されたから、守護女神様が悪人を落とす地獄で罰を受けているんじゃないでしょうか」
「君はだれのことを言っているんだ?」
「殿下がお尋ねになったんじゃないですか。プロスティトゥタでしょう? 俺の婚約者のイザベルの異母妹だと偽って男爵を騙し、ならず者の実父に男爵からの金を渡して俺が乗ってた馬車を襲撃させた悪党の名前ですよ、プロスティトゥタっていうのはね。……お話はそれで終わりですか?」
「……あ、ああ。時間を取らせてすまなかった」

 嘘だと叫びたかったが、そんな気力はなかった。
 喜々として今の婚約者のもとへ帰って行くカルロスは、初めて見る幸せそうな表情を浮かべていた。
 あの瞳に煌めいているのが愛情だとしたら、前のカルロスがプロスティトゥタを愛していたことはない。

あなたにおすすめの小説

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。