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第十一話 運命の恋が始まらない<二度目の王子>
ロゼットとの婚約が絶望的だと気づいてからは、母上は私に近づかなくなった。
学園入学の年になっても婚約者の決まっていない私を無視して、弟達の婚約者の妃教育に勤しんでいる。
前のときは良好だと思っていた母上と弟達の婚約者の仲は、今回は険悪に見えた。弟達はいつも、厳し過ぎる、婚約者達の努力を認めてやってくれ、と母上に言っている。
ロゼットが婚約者だったとき、私も言うべきだったのだろうか。
婚約者同士が定例茶会でしか会えないのはおかしい、もっと妃教育の時間を減らしてふたりで過ごす時間を増やしてくれ、と。
弟達は父王に、母上は自分達の婚約者を教育しているのではなく、甚振って心を折り支配しようとしているのだと訴えていた。
今回も前のときも母上を御せていない父王は、実はそれほど優秀ではないのかもしれない。
そして、そんな父王に王太子として選ばれた私も。
私が王太子に選ばれたのは、財力のあるガレアーノ侯爵家の令嬢が婚約者だったからでしかなかったのかもしれない。
……考えても仕方がない。
だれを婚約者にしていようとも、私はプロスティトゥタを選ぶのだ。
彼女のためなら王位継承権を棄てて平民になってもかまわない。
前のときとはまるで違う二度目の人生に押し潰されそうになりながら、私はこの国の貴族子女が通う学園に入学する日を迎えた。
会える、やっとプロスティトゥタに会える。
実はこっそり調べてみたこともあるのだが、男爵に囲われている平民の愛人親娘というだけでは探し当てることは出来なかった。
もっとも見つけてもどうしようもない。彼女のほうはまだ私を知らないのだから。
懐かしい学園、懐かしい教室、懐かしい──プロスティトゥタはどこにもいなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「俺になんのご用でしょうか、マルクス殿下」
今のジルベルト伯爵家の次男カルロスは、プロスティトゥタの婚約者ではない。
彼女の異母姉で男爵家の長女イザベルが存命だからだ。
それだけのことなのに、確認するのには数日かかっていた。
今の私の側近候補はグスマン公爵家のミゲルではない。
彼ならば、私が知りたいと思うことはすぐ調べてくれた。聞く前に察して資料を用意してくれていることもあった。
だが、プロスティトゥタとの関係を窘められたのが癪に触って、余計なことを言うなと怒鳴りつけてからは、言われたことを淡々とこなすだけの人間になった。今のミゲルとは、同じ教室で朝夕挨拶をするだけの仲だ。
ふたつ年上のカルロスの教室へ来た私は、簡単に挨拶だけして、単刀直入に尋ねた。
「プロスティトゥタがどこにいるか教えてもらえるだろうか」
これは危険な賭けだった。
前のカルロスは、プロスティトゥタを愛するあまり自分の婚約者を殺害したのだ。それだけでなく、私と恋仲になったプロスティトゥタに婚約を解消されて、逆恨みして彼女の命を奪ったのだ。
今、学園にプロスティトゥタの姿が見えないのもカルロスのせいかもしれない。
だが、ほかに糸口がないのだ。
プロスティトゥタの実父のはずの男爵は病気で、領地で療養していると聞く。
男爵夫人や令嬢に愛人の娘について聞いても情報が得られるとは思えない。
前のとき、常に狂気を帯びた瞳にプロスティトゥタを映していたカルロスのことだ。
今回は異母姉を殺して男爵家に引き入れるのではなく、プロスティトゥタを攫って監禁しているのかもしれない。男爵が病気になったのは、愛しい娘が行方不明になったからなのかもしれない。
しかし、カルロスが常軌を逸しているからこそ、上手く煽れば情報を引き出せるかもしれないと私は睨んでいた。
監禁されたプロスティトゥタの純潔は気にしない。
彼女のせいではないのだから。
プロスティトゥタと私は運命の恋で結ばれている。どんな艱難辛苦があろうともふたりなら乗り越えていけると、私は信じていた。
「プロスティトゥタ? って、だれですか?……ああ、いや……」
不思議なことに目の前のカルロスからは、あまり狂気を感じなかった。
善良そうな青年に見える。そう演じているのだろうか。
少し悩んだ後で、彼は言葉を続けた。
「地獄じゃないですか?」
「は?」
「俺が乗っていた馬車を襲撃した罪で処刑されたから、守護女神様が悪人を落とす地獄で罰を受けているんじゃないでしょうか」
「君はだれのことを言っているんだ?」
「殿下がお尋ねになったんじゃないですか。プロスティトゥタでしょう? 俺の婚約者のイザベルの異母妹だと偽って男爵を騙し、ならず者の実父に男爵からの金を渡して俺が乗ってた馬車を襲撃させた悪党の名前ですよ、プロスティトゥタっていうのはね。……お話はそれで終わりですか?」
「……あ、ああ。時間を取らせてすまなかった」
嘘だと叫びたかったが、そんな気力はなかった。
喜々として今の婚約者のもとへ帰って行くカルロスは、初めて見る幸せそうな表情を浮かべていた。
あの瞳に煌めいているのが愛情だとしたら、前のカルロスがプロスティトゥタを愛していたことはない。
学園入学の年になっても婚約者の決まっていない私を無視して、弟達の婚約者の妃教育に勤しんでいる。
前のときは良好だと思っていた母上と弟達の婚約者の仲は、今回は険悪に見えた。弟達はいつも、厳し過ぎる、婚約者達の努力を認めてやってくれ、と母上に言っている。
ロゼットが婚約者だったとき、私も言うべきだったのだろうか。
婚約者同士が定例茶会でしか会えないのはおかしい、もっと妃教育の時間を減らしてふたりで過ごす時間を増やしてくれ、と。
弟達は父王に、母上は自分達の婚約者を教育しているのではなく、甚振って心を折り支配しようとしているのだと訴えていた。
今回も前のときも母上を御せていない父王は、実はそれほど優秀ではないのかもしれない。
そして、そんな父王に王太子として選ばれた私も。
私が王太子に選ばれたのは、財力のあるガレアーノ侯爵家の令嬢が婚約者だったからでしかなかったのかもしれない。
……考えても仕方がない。
だれを婚約者にしていようとも、私はプロスティトゥタを選ぶのだ。
彼女のためなら王位継承権を棄てて平民になってもかまわない。
前のときとはまるで違う二度目の人生に押し潰されそうになりながら、私はこの国の貴族子女が通う学園に入学する日を迎えた。
会える、やっとプロスティトゥタに会える。
実はこっそり調べてみたこともあるのだが、男爵に囲われている平民の愛人親娘というだけでは探し当てることは出来なかった。
もっとも見つけてもどうしようもない。彼女のほうはまだ私を知らないのだから。
懐かしい学園、懐かしい教室、懐かしい──プロスティトゥタはどこにもいなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「俺になんのご用でしょうか、マルクス殿下」
今のジルベルト伯爵家の次男カルロスは、プロスティトゥタの婚約者ではない。
彼女の異母姉で男爵家の長女イザベルが存命だからだ。
それだけのことなのに、確認するのには数日かかっていた。
今の私の側近候補はグスマン公爵家のミゲルではない。
彼ならば、私が知りたいと思うことはすぐ調べてくれた。聞く前に察して資料を用意してくれていることもあった。
だが、プロスティトゥタとの関係を窘められたのが癪に触って、余計なことを言うなと怒鳴りつけてからは、言われたことを淡々とこなすだけの人間になった。今のミゲルとは、同じ教室で朝夕挨拶をするだけの仲だ。
ふたつ年上のカルロスの教室へ来た私は、簡単に挨拶だけして、単刀直入に尋ねた。
「プロスティトゥタがどこにいるか教えてもらえるだろうか」
これは危険な賭けだった。
前のカルロスは、プロスティトゥタを愛するあまり自分の婚約者を殺害したのだ。それだけでなく、私と恋仲になったプロスティトゥタに婚約を解消されて、逆恨みして彼女の命を奪ったのだ。
今、学園にプロスティトゥタの姿が見えないのもカルロスのせいかもしれない。
だが、ほかに糸口がないのだ。
プロスティトゥタの実父のはずの男爵は病気で、領地で療養していると聞く。
男爵夫人や令嬢に愛人の娘について聞いても情報が得られるとは思えない。
前のとき、常に狂気を帯びた瞳にプロスティトゥタを映していたカルロスのことだ。
今回は異母姉を殺して男爵家に引き入れるのではなく、プロスティトゥタを攫って監禁しているのかもしれない。男爵が病気になったのは、愛しい娘が行方不明になったからなのかもしれない。
しかし、カルロスが常軌を逸しているからこそ、上手く煽れば情報を引き出せるかもしれないと私は睨んでいた。
監禁されたプロスティトゥタの純潔は気にしない。
彼女のせいではないのだから。
プロスティトゥタと私は運命の恋で結ばれている。どんな艱難辛苦があろうともふたりなら乗り越えていけると、私は信じていた。
「プロスティトゥタ? って、だれですか?……ああ、いや……」
不思議なことに目の前のカルロスからは、あまり狂気を感じなかった。
善良そうな青年に見える。そう演じているのだろうか。
少し悩んだ後で、彼は言葉を続けた。
「地獄じゃないですか?」
「は?」
「俺が乗っていた馬車を襲撃した罪で処刑されたから、守護女神様が悪人を落とす地獄で罰を受けているんじゃないでしょうか」
「君はだれのことを言っているんだ?」
「殿下がお尋ねになったんじゃないですか。プロスティトゥタでしょう? 俺の婚約者のイザベルの異母妹だと偽って男爵を騙し、ならず者の実父に男爵からの金を渡して俺が乗ってた馬車を襲撃させた悪党の名前ですよ、プロスティトゥタっていうのはね。……お話はそれで終わりですか?」
「……あ、ああ。時間を取らせてすまなかった」
嘘だと叫びたかったが、そんな気力はなかった。
喜々として今の婚約者のもとへ帰って行くカルロスは、初めて見る幸せそうな表情を浮かべていた。
あの瞳に煌めいているのが愛情だとしたら、前のカルロスがプロスティトゥタを愛していたことはない。
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