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3.交差する世界
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薫たちがエリカと名乗る少女を連れて通りを歩き続けると、ほどなくして目的の場所へとたどり着いた。
そこは、この町でプレイヤーが最も多く集まる場所であり、それに伴い情報が最も多く、そして最も早く集まる場所でもあった。
煉瓦造りに赤い三角屋根の二階建てで、頭上の看板にはBARシーサウンドと大きく店名が書かれていた。一階の張出し窓の前にはグリーンカーテンがかかっており、飾られた植木鉢には色とりどりの花々が咲いている。店の扉の横にはモーニングのメニューが書かれた立て看板があり、店名にBARと書かれてはいるものの、BARというよりは喫茶店といった佇まいであった。 扉は閉まっていたがopenと書かれた札がかかっている。
「おーやってるやってる」
扉を開けずとも店の中からは何やら人の怒号のような騒がしい声が聴こえてくる。
それはこの店の名前とは程遠い、酷く喧しいものであった。
「どうやら祝い事らしい」
少しの間怒号に耳を澄ましていた薫は、隣の大介と顔を見合わせてにやりと笑う。
「ああ、よかった」
大介はホッとした表情を浮かべていた。
薫が後ろを振り返ると、二人の後ろをついてきていたエリカは、なにやら一輪の花をポシェットにしまっていた。
「きれいな花でも見つけたか?」
薫は努めて優しく微笑みながらエリカにそう尋ねた。そして同時に、ふとあることに気がつく。エリカはいつの間にやら自転車を降りており、そしてその自転車は影も形もなくなっていたのだ。
「エリカ、自転車はどうした?」
不思議に思った薫はエリカに尋ねる。
「しまった……」
仕舞った……?路地裏にでも停めたのだろうか?確かにあんなレアアイテムを白昼堂々と置いておくわけにはいかない……。薫はそちらのほうがわたしたちにとっても都合が良いと考えた。
「偉いぞエリカ」
薫がエリカにそう声をかけると、エリカは「なにが?」とでも言いたげに首を傾げた。
「まあいいさ、紹介しよう。ここが私たちの溜まり場であり、この静かな町で最も騒がしい場所」
薫は手を広げて大仰にお辞儀をする。
「にぎやか通り58番地、BARシーサウンドだ」
お辞儀を終えた薫はにやりと笑い「行くぞ」とエリカにひと声かけて、勢いよく扉を開けた。
「なんであそこまで追い詰めたのに勝てないんだ! こけし野郎!」
「んだとコラ! 一番最初に死んだやつが文句言ってんじゃねぇよ! ちんこ頭!」
「あぁ?! 俺が目を潰したお陰であのエロ女を追い詰められたんだろうが! 殺すぞクソ野郎!」
「やってみろ! ちんこ頭!」
「ちんこ頭って言うんじゃねぇ! これはマッシュカットだ!」
薫たちが店に入ると、二人の若い男が言い争いをしていた。
背の高いセンターパートの髪型をした男と、中肉中背でマッシュカットの男であった。
「まあまあ落ち着いてよ! 二人とも!」
そして、その二人の言い争いを収めようと背の低いボブカットの女が間に入っていた。
彼らが、先程まで薫と大介が話題に出していた大学生の三人組であった。
センターパートは蒼。マッシュカットが蓮。ボブカットの女は陽葵という名前である。
デーモンをあと一歩のところまで追い詰めたものの結局負けてしまったようで、今まさに、責任の押し付け合いが繰り広げられているようであった。
「殺っちまえー! クソガキどもー!!」
「殺せー!」
「俺はのっぽの方に賭けるぜ!」
「俺はちんこ頭の方だ!」
その一方で、店内でくつろいでいる中年や壮年の男たちが汚い野次を飛ばしている。
「黙れ糞ジジイども!」
「低レベルの老害どもはすっこんでろ!」
煽られた蒼と蓮は、野次を飛ばす男たちにも怒りの矛先を向けた。
「おい! ションベン臭えクソガキども、年上に対する言葉遣いがなっちゃいねぇな、殺すぞ?」
野次を飛ばす男たちの中で、最も太った中年の男がおもむろに立ち上がり、大学生たちに詰め寄る。
「やってみろデブ」
「そっちこそ殺してやるよ豚野郎」
大学生二人と中年の男が至近距離で睨み合う。今にもどちらからともなく手が出て、取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気であった。
「あぁやってやろうじゃねーか残機0のガキどもが、二度とログインできないようにしてやろうか?」
太った男がそう言うと、蒼と蓮は顔を顰めてたじろいだ。
このゲーム『STELLA』は、何度でも際限なくボスモンスターに挑めるわけではない。
それは、残機制を採用しているからである。
残機を増やすには、ベイルと呼ばれるゲーム内マネーを貯めて、教会に一定額のお布施をしなければならない。教会はこの世界の至るところに存在しており、もちろんこの町トロロントにも教会が存在している。
残機を一つ回復するために必要なベイルは、丸一日金策をし続けなければ貯められない額であった。
そして、ボスモンスターに挑み続けるため長い間一箇所に留まるプレイヤーのほとんどは、ボスモンスターに負けて残機を0にしたら、また丸一日を費やして残機を1貯めてボスモンスターに挑み、負けてはまた残機が0になる。というループを繰り返していた。
皆、我先にと躍起になっているのだ。
もちろん、大学生三人組も例に漏れず、デーモンに負けて残機を0にしていた。
それは、このゲームにとってとても危険な行為であった。
もし、残機が0の状態で再びゲーム内での死を迎えてしまったら、今までこのゲームをプレーしてきた全てのデータが抹消されてしまうのだ。また、それ以降二度と『STELLA』にログインすることができなくなってしまう。
残機0の大学生たちは、それを恐れてたじろいでいるのだ。
「豚野郎がっ……!」
「あの痴女悪魔を殺すのは俺たちだ。 お前らはログアウトしてママのおっぱいでも吸ってるんだな! ガッハッハッ!」
太った男は高笑いして自分が座っていた席へと戻っていく。
「糞がっ……!」
「あと一歩だったようだなーガキどもー」
苦虫を噛みしめるような顔をした大学生二人と、ホッとしたような顔をしている陽葵に、薫は陽気に声をかけた。
「「薫さん!」」
「あんたか……」
蒼と陽葵は胸の前で手を拝むように握って、目をキラキラとさせる。蒼は単純に薫に恋い焦がれており、陽葵はモデル体型の薫に女性としての憧れを抱いていた。
一方、そんな感情を一切持ち合わせていない蓮は不愉快そうな顔をしている。
「安心しろお前ら! 仇は私たちが取ってやるよ!」
薫が胸を叩いてそう宣言すると、蓮は舌打ちをして、憧れの表情を浮かべていた蒼と陽葵も気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「おいあんたっ……! あんまり馴れ馴れしくするなよ……あのエロ女は俺たちの獲物だ!」
蓮がそう言って薫を睨みつける。
「威勢がいいな、悪いが牛女は私たちがぶっ殺す。今日、日が暮れるまでにな!」
エロ女、痴女悪魔、それに牛女。三者三様の呼び名だが、どれもボスモンスターであるデーモンのことを指している。彼らはデーモンの外見的特徴から、そういった蔑称で呼んでいるのだ。
「んだと?! 調子こいんじゃねぇぞ女! 犯すぞこら!」
蓮はそう叫びながら薫に詰め寄った。
「あぁ?! なんだとチビ! ソちんのガキがやれるもんならやってみろこら!」
「んだと糞ビッチが!」
「んだとちんこ頭!」
「だからちんこ頭って言うんじゃねぇ!」
「どう見てもちんこだろうが!」
「薫姉……」
肩を叩かれて薫が振り返ると、大介が呆れたような顔をしていた。
「エリカちゃんが怯えてるから……」
大介の後ろに隠れていたエリカは、あまりの騒がしさからか両手で耳を塞いでおり、その顔はとても怯えた表情をしていた。
「あ! 騒がしくて悪い……エリカ、こっちに行こう」
薫はエリカの背を押して、窓際の空いている席へと向かう。
「おい! 話は終わってねーぞ!」
「これ以上薫さんに迷惑をかけるな! ちんこ頭!」
「ちんこ頭じゃねーって言ってんだろーが!」
「まあまあふたりとも……」
そこは、この町でプレイヤーが最も多く集まる場所であり、それに伴い情報が最も多く、そして最も早く集まる場所でもあった。
煉瓦造りに赤い三角屋根の二階建てで、頭上の看板にはBARシーサウンドと大きく店名が書かれていた。一階の張出し窓の前にはグリーンカーテンがかかっており、飾られた植木鉢には色とりどりの花々が咲いている。店の扉の横にはモーニングのメニューが書かれた立て看板があり、店名にBARと書かれてはいるものの、BARというよりは喫茶店といった佇まいであった。 扉は閉まっていたがopenと書かれた札がかかっている。
「おーやってるやってる」
扉を開けずとも店の中からは何やら人の怒号のような騒がしい声が聴こえてくる。
それはこの店の名前とは程遠い、酷く喧しいものであった。
「どうやら祝い事らしい」
少しの間怒号に耳を澄ましていた薫は、隣の大介と顔を見合わせてにやりと笑う。
「ああ、よかった」
大介はホッとした表情を浮かべていた。
薫が後ろを振り返ると、二人の後ろをついてきていたエリカは、なにやら一輪の花をポシェットにしまっていた。
「きれいな花でも見つけたか?」
薫は努めて優しく微笑みながらエリカにそう尋ねた。そして同時に、ふとあることに気がつく。エリカはいつの間にやら自転車を降りており、そしてその自転車は影も形もなくなっていたのだ。
「エリカ、自転車はどうした?」
不思議に思った薫はエリカに尋ねる。
「しまった……」
仕舞った……?路地裏にでも停めたのだろうか?確かにあんなレアアイテムを白昼堂々と置いておくわけにはいかない……。薫はそちらのほうがわたしたちにとっても都合が良いと考えた。
「偉いぞエリカ」
薫がエリカにそう声をかけると、エリカは「なにが?」とでも言いたげに首を傾げた。
「まあいいさ、紹介しよう。ここが私たちの溜まり場であり、この静かな町で最も騒がしい場所」
薫は手を広げて大仰にお辞儀をする。
「にぎやか通り58番地、BARシーサウンドだ」
お辞儀を終えた薫はにやりと笑い「行くぞ」とエリカにひと声かけて、勢いよく扉を開けた。
「なんであそこまで追い詰めたのに勝てないんだ! こけし野郎!」
「んだとコラ! 一番最初に死んだやつが文句言ってんじゃねぇよ! ちんこ頭!」
「あぁ?! 俺が目を潰したお陰であのエロ女を追い詰められたんだろうが! 殺すぞクソ野郎!」
「やってみろ! ちんこ頭!」
「ちんこ頭って言うんじゃねぇ! これはマッシュカットだ!」
薫たちが店に入ると、二人の若い男が言い争いをしていた。
背の高いセンターパートの髪型をした男と、中肉中背でマッシュカットの男であった。
「まあまあ落ち着いてよ! 二人とも!」
そして、その二人の言い争いを収めようと背の低いボブカットの女が間に入っていた。
彼らが、先程まで薫と大介が話題に出していた大学生の三人組であった。
センターパートは蒼。マッシュカットが蓮。ボブカットの女は陽葵という名前である。
デーモンをあと一歩のところまで追い詰めたものの結局負けてしまったようで、今まさに、責任の押し付け合いが繰り広げられているようであった。
「殺っちまえー! クソガキどもー!!」
「殺せー!」
「俺はのっぽの方に賭けるぜ!」
「俺はちんこ頭の方だ!」
その一方で、店内でくつろいでいる中年や壮年の男たちが汚い野次を飛ばしている。
「黙れ糞ジジイども!」
「低レベルの老害どもはすっこんでろ!」
煽られた蒼と蓮は、野次を飛ばす男たちにも怒りの矛先を向けた。
「おい! ションベン臭えクソガキども、年上に対する言葉遣いがなっちゃいねぇな、殺すぞ?」
野次を飛ばす男たちの中で、最も太った中年の男がおもむろに立ち上がり、大学生たちに詰め寄る。
「やってみろデブ」
「そっちこそ殺してやるよ豚野郎」
大学生二人と中年の男が至近距離で睨み合う。今にもどちらからともなく手が出て、取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気であった。
「あぁやってやろうじゃねーか残機0のガキどもが、二度とログインできないようにしてやろうか?」
太った男がそう言うと、蒼と蓮は顔を顰めてたじろいだ。
このゲーム『STELLA』は、何度でも際限なくボスモンスターに挑めるわけではない。
それは、残機制を採用しているからである。
残機を増やすには、ベイルと呼ばれるゲーム内マネーを貯めて、教会に一定額のお布施をしなければならない。教会はこの世界の至るところに存在しており、もちろんこの町トロロントにも教会が存在している。
残機を一つ回復するために必要なベイルは、丸一日金策をし続けなければ貯められない額であった。
そして、ボスモンスターに挑み続けるため長い間一箇所に留まるプレイヤーのほとんどは、ボスモンスターに負けて残機を0にしたら、また丸一日を費やして残機を1貯めてボスモンスターに挑み、負けてはまた残機が0になる。というループを繰り返していた。
皆、我先にと躍起になっているのだ。
もちろん、大学生三人組も例に漏れず、デーモンに負けて残機を0にしていた。
それは、このゲームにとってとても危険な行為であった。
もし、残機が0の状態で再びゲーム内での死を迎えてしまったら、今までこのゲームをプレーしてきた全てのデータが抹消されてしまうのだ。また、それ以降二度と『STELLA』にログインすることができなくなってしまう。
残機0の大学生たちは、それを恐れてたじろいでいるのだ。
「豚野郎がっ……!」
「あの痴女悪魔を殺すのは俺たちだ。 お前らはログアウトしてママのおっぱいでも吸ってるんだな! ガッハッハッ!」
太った男は高笑いして自分が座っていた席へと戻っていく。
「糞がっ……!」
「あと一歩だったようだなーガキどもー」
苦虫を噛みしめるような顔をした大学生二人と、ホッとしたような顔をしている陽葵に、薫は陽気に声をかけた。
「「薫さん!」」
「あんたか……」
蒼と陽葵は胸の前で手を拝むように握って、目をキラキラとさせる。蒼は単純に薫に恋い焦がれており、陽葵はモデル体型の薫に女性としての憧れを抱いていた。
一方、そんな感情を一切持ち合わせていない蓮は不愉快そうな顔をしている。
「安心しろお前ら! 仇は私たちが取ってやるよ!」
薫が胸を叩いてそう宣言すると、蓮は舌打ちをして、憧れの表情を浮かべていた蒼と陽葵も気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「おいあんたっ……! あんまり馴れ馴れしくするなよ……あのエロ女は俺たちの獲物だ!」
蓮がそう言って薫を睨みつける。
「威勢がいいな、悪いが牛女は私たちがぶっ殺す。今日、日が暮れるまでにな!」
エロ女、痴女悪魔、それに牛女。三者三様の呼び名だが、どれもボスモンスターであるデーモンのことを指している。彼らはデーモンの外見的特徴から、そういった蔑称で呼んでいるのだ。
「んだと?! 調子こいんじゃねぇぞ女! 犯すぞこら!」
蓮はそう叫びながら薫に詰め寄った。
「あぁ?! なんだとチビ! ソちんのガキがやれるもんならやってみろこら!」
「んだと糞ビッチが!」
「んだとちんこ頭!」
「だからちんこ頭って言うんじゃねぇ!」
「どう見てもちんこだろうが!」
「薫姉……」
肩を叩かれて薫が振り返ると、大介が呆れたような顔をしていた。
「エリカちゃんが怯えてるから……」
大介の後ろに隠れていたエリカは、あまりの騒がしさからか両手で耳を塞いでおり、その顔はとても怯えた表情をしていた。
「あ! 騒がしくて悪い……エリカ、こっちに行こう」
薫はエリカの背を押して、窓際の空いている席へと向かう。
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