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4.素敵な出会い
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「ピーピーとやかましい人たちだったわ!」
エリカはうんざりといった様子で悪態をつきました。
BARシーサウンドの騒がしい店内に我慢ならなくなったエリカは、堪らず店を飛び出してきたのです。
そして今は、リベリーストリートを南に向かって自転車を走らせています。
「ガタガタ道だしーっ」
エリカは石畳の道を、自転車をガタガタと揺らしながら一生懸命に漕いでいました。
「碌でもない街だわ!」
エリカがそんな様にとやかくと文句を言いながら自転車を走らせていると、やがてリベリーストリートを抜けて街を出ました。すると、目の前に緑が生い茂る森が現れました。
「自転車では通れなさそう」
森の前で自転車を停めたエリカは、森の生い茂る草木やでこぼことした地面を眺めて言いました。
エリカは自転車を降りて、自転車のサドルに手を触れました。エリカが「花になれー」と心の中で思うと、自転車は一輪の花になり、エリカは地面に落ちたそれを拾い上げてポシェットの中にしまいます。続いて、エリカは頭に被っていたヘルメットを外して、ポシェットの口へと持っていきました。すると、ポシェットの口よりよっぽど大きいヘルメットが、吸い込まれるようにして、するするとポシェットの中へと入っていきました。
「よし!」
そうしてエリカは、おもむろに森の中へと入っていくのでした。
森の中は湿った空気が漂っていました。霧は晴れておりましたが、ジメジメとした湿気が肌に纏わりつき、エリカは蒸し暑くて堪りませんでした。
「あづーい……」
しばらく森の中を歩き続けたエリカは、すでに全身汗だくになっていました。額に滲む汗を拭いながら、暑い暑いと不満を漏らします。
「本当にお城なんてあるのかしら?」
歩いても歩いても、見えてくるのは木、木、木。木ばかりです。こんなところに本当にお城があるのか、エリカは疑問に思いました。
エリカは一度立ち止まり、ワンピースドレスの裾を摘んで、ひらひらと揺らして扇ぎました。誰もいないのをいいことに、下着が見えてしまうのもお構いなしです。
「ふう、少し休憩しましょう」
エリカはそう言うと扇ぐのを止めて、おもむろにポシェットの中に手を入れます。そうして取り出したのは、木の持ち手に鋭い刃の付いた小ぶりな斧でした。
「よーし」
エリカは斧の持ち手をしっかりと両手で握って、近場にある手頃な木をめがけて振りかぶりました。
「やー!」
コツンっ
掛け声とは裏腹に、小さな音が森の中に響きました。
振り下ろされた斧は木の側面に当たりましたが、刃は1ミリも木に刺さっていません。
しかし、木は刃が当たったところから真っ二つに切れ込みが入り、ガサガサどすん、と音を立てて倒れました。
エリカの取り出した小ぶりな斧、その斧は、小さな子どもでも簡単に木を切ることができる不思議な斧だったのです。
そうして残った切り株の上に、エリカはちょこんと座ってひと休みするのでした。
エリカが切り株に座って休んでいると、森の奥から奇妙なものが現れました。
「なによあんた、気持ち悪いわね」
エリカの目の前に現れたのは、側面にギョロギョロと動くふたつの目玉をつけて、その目と目の間には木の枝の鼻を生やし、根をうねうねと動かして這うように歩く、不気味な切り株でした。
それは、プラントと呼ばれる【STELLA】に生息しているモンスターでした。
ポヨンっ
「あいた!」
エリカが切り株から立ち上がってプラントと目を合わせていると、プラントは突然、なんの前触れもなくたいあたりをしてきました。
「なによ!」
エリカがそう声をかけてもプラントは聞く耳を持ちません。
その後も、ポヨンポヨンと何度もぶつかってきました。
エリカはプラントにたいあたりをされても痛くもかゆくもありませんでしたが、とても不愉快な気持ちになりました。
「わたしあんたが嫌いだわ」
エリカは腕を組んで見下すように、プラントに辛辣に言いました。
「あら? あんた枯れているのね」
プラントの年輪からはいくつかの芽が出ていましたが、どれも頭を垂らしており、元気がない様子でした。
エリカはポシェットに手を入れて、ジョウロを取り出します。
しかし、そんなことをしている間にも、プラントは何度も何度もポヨンポヨンとぶつかってくるのです。
「じっとしてなさい!」
エリカが大きな声で叫びましたが、プラントはポヨンポヨンと一向にたいあたりをやめません。
「おらくそー! やめろー!」
エリカはヤケクソのように半ば強引にジョウロを振り回して、プラントに水をかけました。
すると、プラントはピタッとたいあたりをやめて、ぷるぷると震えだしました。
そして次の瞬間、年輪から生えるいくつもの芽が空に向かってニュルニュルと伸びて、みるみるうちに立派な幹になりました。そして、伸びた幹からいくつもの枝を伸ばし、伸びた枝からたくさんの葉を生やしました。
プラントはあっという間に成長して、大きく立派な木になったのです。
「あーあ」
エリカはポカーンと口を開けて、呆然と大きくなったプラントを見上げます。
エリカとしては、枯れた芽に花を咲かせてやるくらいの考えだったのですが予想外の結果になってしまいました。
大きくなったプラントは、他の木々と枝同士が引っかかり身動きが取れなくなっています。
「あらら」
エリカは自分の引き起こした結果に対して、やれやれといったように両の手の平を空に向けて首を振りました。
「行きましょう」
エリカはプラントを放って置いて、再び森の中を歩き始めました。
エリカはうんざりといった様子で悪態をつきました。
BARシーサウンドの騒がしい店内に我慢ならなくなったエリカは、堪らず店を飛び出してきたのです。
そして今は、リベリーストリートを南に向かって自転車を走らせています。
「ガタガタ道だしーっ」
エリカは石畳の道を、自転車をガタガタと揺らしながら一生懸命に漕いでいました。
「碌でもない街だわ!」
エリカがそんな様にとやかくと文句を言いながら自転車を走らせていると、やがてリベリーストリートを抜けて街を出ました。すると、目の前に緑が生い茂る森が現れました。
「自転車では通れなさそう」
森の前で自転車を停めたエリカは、森の生い茂る草木やでこぼことした地面を眺めて言いました。
エリカは自転車を降りて、自転車のサドルに手を触れました。エリカが「花になれー」と心の中で思うと、自転車は一輪の花になり、エリカは地面に落ちたそれを拾い上げてポシェットの中にしまいます。続いて、エリカは頭に被っていたヘルメットを外して、ポシェットの口へと持っていきました。すると、ポシェットの口よりよっぽど大きいヘルメットが、吸い込まれるようにして、するするとポシェットの中へと入っていきました。
「よし!」
そうしてエリカは、おもむろに森の中へと入っていくのでした。
森の中は湿った空気が漂っていました。霧は晴れておりましたが、ジメジメとした湿気が肌に纏わりつき、エリカは蒸し暑くて堪りませんでした。
「あづーい……」
しばらく森の中を歩き続けたエリカは、すでに全身汗だくになっていました。額に滲む汗を拭いながら、暑い暑いと不満を漏らします。
「本当にお城なんてあるのかしら?」
歩いても歩いても、見えてくるのは木、木、木。木ばかりです。こんなところに本当にお城があるのか、エリカは疑問に思いました。
エリカは一度立ち止まり、ワンピースドレスの裾を摘んで、ひらひらと揺らして扇ぎました。誰もいないのをいいことに、下着が見えてしまうのもお構いなしです。
「ふう、少し休憩しましょう」
エリカはそう言うと扇ぐのを止めて、おもむろにポシェットの中に手を入れます。そうして取り出したのは、木の持ち手に鋭い刃の付いた小ぶりな斧でした。
「よーし」
エリカは斧の持ち手をしっかりと両手で握って、近場にある手頃な木をめがけて振りかぶりました。
「やー!」
コツンっ
掛け声とは裏腹に、小さな音が森の中に響きました。
振り下ろされた斧は木の側面に当たりましたが、刃は1ミリも木に刺さっていません。
しかし、木は刃が当たったところから真っ二つに切れ込みが入り、ガサガサどすん、と音を立てて倒れました。
エリカの取り出した小ぶりな斧、その斧は、小さな子どもでも簡単に木を切ることができる不思議な斧だったのです。
そうして残った切り株の上に、エリカはちょこんと座ってひと休みするのでした。
エリカが切り株に座って休んでいると、森の奥から奇妙なものが現れました。
「なによあんた、気持ち悪いわね」
エリカの目の前に現れたのは、側面にギョロギョロと動くふたつの目玉をつけて、その目と目の間には木の枝の鼻を生やし、根をうねうねと動かして這うように歩く、不気味な切り株でした。
それは、プラントと呼ばれる【STELLA】に生息しているモンスターでした。
ポヨンっ
「あいた!」
エリカが切り株から立ち上がってプラントと目を合わせていると、プラントは突然、なんの前触れもなくたいあたりをしてきました。
「なによ!」
エリカがそう声をかけてもプラントは聞く耳を持ちません。
その後も、ポヨンポヨンと何度もぶつかってきました。
エリカはプラントにたいあたりをされても痛くもかゆくもありませんでしたが、とても不愉快な気持ちになりました。
「わたしあんたが嫌いだわ」
エリカは腕を組んで見下すように、プラントに辛辣に言いました。
「あら? あんた枯れているのね」
プラントの年輪からはいくつかの芽が出ていましたが、どれも頭を垂らしており、元気がない様子でした。
エリカはポシェットに手を入れて、ジョウロを取り出します。
しかし、そんなことをしている間にも、プラントは何度も何度もポヨンポヨンとぶつかってくるのです。
「じっとしてなさい!」
エリカが大きな声で叫びましたが、プラントはポヨンポヨンと一向にたいあたりをやめません。
「おらくそー! やめろー!」
エリカはヤケクソのように半ば強引にジョウロを振り回して、プラントに水をかけました。
すると、プラントはピタッとたいあたりをやめて、ぷるぷると震えだしました。
そして次の瞬間、年輪から生えるいくつもの芽が空に向かってニュルニュルと伸びて、みるみるうちに立派な幹になりました。そして、伸びた幹からいくつもの枝を伸ばし、伸びた枝からたくさんの葉を生やしました。
プラントはあっという間に成長して、大きく立派な木になったのです。
「あーあ」
エリカはポカーンと口を開けて、呆然と大きくなったプラントを見上げます。
エリカとしては、枯れた芽に花を咲かせてやるくらいの考えだったのですが予想外の結果になってしまいました。
大きくなったプラントは、他の木々と枝同士が引っかかり身動きが取れなくなっています。
「あらら」
エリカは自分の引き起こした結果に対して、やれやれといったように両の手の平を空に向けて首を振りました。
「行きましょう」
エリカはプラントを放って置いて、再び森の中を歩き始めました。
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