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6.庇護する者たち
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彼女は床を見下ろしていた。
それはひとえに、右側の角から垂れ下がる赤いリボンを見るためであった。
彼女は両腕と左翼が切断され、左足首から先が失われていた。為す術もなく、床に力なく座り込み、直後に訪れるであろう死を悟っていた。
視界の端でひらひらと揺れているはずの赤いリボンは見えなかった。
視界が血紅色に染まっていたからだ。
彼女の両目からは温かな血が絶え間なく溢れ、小雨のようにポツポツと音を立てて床に零れ落ちていた。
「ついにやったぞ……私の勝ちだ!」
「僕を忘れないでよね~薫姉ー」
「忘れるわけないだろ、よくやった! お前が足を切り落としたのはでかい! MVPだ!」
「じゃあユニークアイテムは僕のものかな~」
「二人で共同所有の約束だろ?!」
「冗談だよ」
勝利を目前に二人のプレイヤーは仲良く談笑をしている。薫と大介であった。
「私がとどめを刺す」
「どうぞ~」
「では、お言葉に甘えて……」
そう言って薫はゆっくりと大振りの剣を振りかぶった。
すまない、エリカ……すぐに戻ると言ったが戻れそうにない。
彼女はそう心のなかでエリカに謝罪し、覚悟を決めて瞼を閉じる。
「死ね、牛女」
薫が振りかぶった大振りの剣を、彼女の首めがけて勢いよく振り下ろした──。
ポヨンっ
その時、軽妙な音が部屋中に響き渡った。
聴き覚えのある音。
痛みがない。
彼女は驚いて目を見開く。
明瞭な視界。視界の端に赤いリボンが揺れる。
床にできていた血溜まりは綺麗さっぱりなくなっている。
彼女は自分の両手を持ち上げて、握ったり開いたり、甲の方を向けてみたり、まじまじと眺めた。
切断されたはずの両手がある。
加えて、足も翼も、まるで何事もなかったかのように、彼女の体は傷一つなく元通りになっていた。
何よりも、体を包み込む窮屈で温かな感触。
それは、艶やかに光る、美しい濡羽色のドレスであった。
それはひとえに、右側の角から垂れ下がる赤いリボンを見るためであった。
彼女は両腕と左翼が切断され、左足首から先が失われていた。為す術もなく、床に力なく座り込み、直後に訪れるであろう死を悟っていた。
視界の端でひらひらと揺れているはずの赤いリボンは見えなかった。
視界が血紅色に染まっていたからだ。
彼女の両目からは温かな血が絶え間なく溢れ、小雨のようにポツポツと音を立てて床に零れ落ちていた。
「ついにやったぞ……私の勝ちだ!」
「僕を忘れないでよね~薫姉ー」
「忘れるわけないだろ、よくやった! お前が足を切り落としたのはでかい! MVPだ!」
「じゃあユニークアイテムは僕のものかな~」
「二人で共同所有の約束だろ?!」
「冗談だよ」
勝利を目前に二人のプレイヤーは仲良く談笑をしている。薫と大介であった。
「私がとどめを刺す」
「どうぞ~」
「では、お言葉に甘えて……」
そう言って薫はゆっくりと大振りの剣を振りかぶった。
すまない、エリカ……すぐに戻ると言ったが戻れそうにない。
彼女はそう心のなかでエリカに謝罪し、覚悟を決めて瞼を閉じる。
「死ね、牛女」
薫が振りかぶった大振りの剣を、彼女の首めがけて勢いよく振り下ろした──。
ポヨンっ
その時、軽妙な音が部屋中に響き渡った。
聴き覚えのある音。
痛みがない。
彼女は驚いて目を見開く。
明瞭な視界。視界の端に赤いリボンが揺れる。
床にできていた血溜まりは綺麗さっぱりなくなっている。
彼女は自分の両手を持ち上げて、握ったり開いたり、甲の方を向けてみたり、まじまじと眺めた。
切断されたはずの両手がある。
加えて、足も翼も、まるで何事もなかったかのように、彼女の体は傷一つなく元通りになっていた。
何よりも、体を包み込む窮屈で温かな感触。
それは、艶やかに光る、美しい濡羽色のドレスであった。
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