23 / 26
5.ふれあい
5
しおりを挟む
彼女は一時の平穏を感じていた。
大きなリンゴの木の幹にもたれ掛かり、空を見上げればサラサラと揺れる枝葉の音が、耳に心地よく流れ込んでくる。地面に目を向ければ枝葉の間から落ちた木漏れ日が、枝葉の揺れとともに不規則に動きながら日陰を灯している。膝の間に座るエリカは、集めたシロツメクサを手に何やら工作をしている。
彼女はそんなエリカの後ろ姿を柔和な表情をして見つめていた。
彼女は木の幹から背中を離し、おもむろにエリカの頭に顔を近づける。日光で熱を帯びたエリカの髪はとても暖かく、しっとりとした汗を含んでおり、湿った毛先がひたりと頬にくっついていた。その様子からはエリカが賢明に工作をしていることが彼女にはひしと感じられた。そして、エリカの髪からは汗の匂いと何やら花のような香りが漂っており、その香りは彼女の心をとても落ち着かせるものであった。
彼女の気配を感じ取ったのか、エリカは一度振り返って彼女と目を合わせると、ニコッと笑ってまた工作に戻る。
彼女はエリカのお腹に手を回し、軽く抱きしめるようにして、工作に没頭するエリカの手元を覗きこんだ。
「まだ見ちゃだめ!」
エリカはそう言って彼女の顔の前に手をかざし、工作しているものが見えないようにしている。
「完成するまでのお楽しみ!」
そう言われた彼女は少々むくれた表情をしてみせて、再び木の幹に背中を預けた。
「ちょっとくらいいいじゃないか」
彼女は頭の後ろに手を回して、いじけたように小さな声で独りごちる。
「ダメよ!」
その小さな声を耳聡く聞いていたエリカは、大きな声でそう言って彼女に釘を刺した。
釘を刺された彼女は渋々エリカの後ろ姿を見つめる作業に戻る。しかしながら、むくれた表情はすぐさま柔らかな微笑みにかわり、彼女はまた、その平穏な時間に身を浸らせるのだ。
「できた!」
それからしばらくして、エリカが立ち上がり声を上げた。どうやら工作が終わったようであった。
エリカの手に掲げられているものは、シロツメクサで作られた花冠であった。
たくさんのシロツメクサが編み込まれて輪になった花冠はとても繊細で可愛らしいものであった。「器用なものだ……」彼女は心のなかでそう呟いた。
「どう?」
エリカはその花冠を自身の頭の上に乗せると、首を傾げて感想を求めてくる。
「ああ、似合っている」
彼女は暖かく微笑みながらそう答えた。
「フフン」
彼女の称賛にエリカは自慢げに胸を張っている。
「あなたも被ってみて!」
そう言ってエリカは自身の頭から外した花冠を、彼女の頭へと乗せた。
「どうだ?」
「いまいちね」
「そうか……」
エリカの辛辣な感想に彼女はがっくりと肩を落とした。
「そうだわ!」
なにか思いついたように声を上げたエリカは、自身の頭の右側に結ばれた赤いリボンをおもむろにほどいた。そして、それを彼女の右側の角、くるくると螺旋を描く角の溝に沿ってリボンを引っ掛けると、自身の髪に結んでいるのと同じように蝶々結びをした。
「うん、いいわね! とても似合ってる! それ、あなたにあげるわ!」
「いいのか?」
「もちろん! わたしとお揃いよ?」
エリカはそう言って、自身の頭の左側に結ばれた赤いリボンを見せた。
「嬉しい……ありがとうエリカ」
彼女は心底感動した面持ちでエリカに感謝を伝える。
「どういたしまして!」
エリカはそう言ってニコッと笑った。
その時だった。バタンと大きな音が城中に響き渡ったのだ。それは城の正面扉が開かれた音であった。
「エリカ、すまない。お客さんが来たみたいだ。少しの間ここでじっとしておいてくれるか?」
「お客さん? いいわよ! お姫さまも大変ね」
「ああ」
彼女は立ち上がり、エリカを中庭に残して城内へと向かう。
城内に入ると彼女は着ていたドレスを勢いよく脱ぎ捨てて、元々着ていた動きやすい下着のような装いに戻った。
「すぐに片付ける」
彼女は拳を握りしめ、決意を込めてそう呟くと、ボス部屋へと足早に歩みを進めた。
大きなリンゴの木の幹にもたれ掛かり、空を見上げればサラサラと揺れる枝葉の音が、耳に心地よく流れ込んでくる。地面に目を向ければ枝葉の間から落ちた木漏れ日が、枝葉の揺れとともに不規則に動きながら日陰を灯している。膝の間に座るエリカは、集めたシロツメクサを手に何やら工作をしている。
彼女はそんなエリカの後ろ姿を柔和な表情をして見つめていた。
彼女は木の幹から背中を離し、おもむろにエリカの頭に顔を近づける。日光で熱を帯びたエリカの髪はとても暖かく、しっとりとした汗を含んでおり、湿った毛先がひたりと頬にくっついていた。その様子からはエリカが賢明に工作をしていることが彼女にはひしと感じられた。そして、エリカの髪からは汗の匂いと何やら花のような香りが漂っており、その香りは彼女の心をとても落ち着かせるものであった。
彼女の気配を感じ取ったのか、エリカは一度振り返って彼女と目を合わせると、ニコッと笑ってまた工作に戻る。
彼女はエリカのお腹に手を回し、軽く抱きしめるようにして、工作に没頭するエリカの手元を覗きこんだ。
「まだ見ちゃだめ!」
エリカはそう言って彼女の顔の前に手をかざし、工作しているものが見えないようにしている。
「完成するまでのお楽しみ!」
そう言われた彼女は少々むくれた表情をしてみせて、再び木の幹に背中を預けた。
「ちょっとくらいいいじゃないか」
彼女は頭の後ろに手を回して、いじけたように小さな声で独りごちる。
「ダメよ!」
その小さな声を耳聡く聞いていたエリカは、大きな声でそう言って彼女に釘を刺した。
釘を刺された彼女は渋々エリカの後ろ姿を見つめる作業に戻る。しかしながら、むくれた表情はすぐさま柔らかな微笑みにかわり、彼女はまた、その平穏な時間に身を浸らせるのだ。
「できた!」
それからしばらくして、エリカが立ち上がり声を上げた。どうやら工作が終わったようであった。
エリカの手に掲げられているものは、シロツメクサで作られた花冠であった。
たくさんのシロツメクサが編み込まれて輪になった花冠はとても繊細で可愛らしいものであった。「器用なものだ……」彼女は心のなかでそう呟いた。
「どう?」
エリカはその花冠を自身の頭の上に乗せると、首を傾げて感想を求めてくる。
「ああ、似合っている」
彼女は暖かく微笑みながらそう答えた。
「フフン」
彼女の称賛にエリカは自慢げに胸を張っている。
「あなたも被ってみて!」
そう言ってエリカは自身の頭から外した花冠を、彼女の頭へと乗せた。
「どうだ?」
「いまいちね」
「そうか……」
エリカの辛辣な感想に彼女はがっくりと肩を落とした。
「そうだわ!」
なにか思いついたように声を上げたエリカは、自身の頭の右側に結ばれた赤いリボンをおもむろにほどいた。そして、それを彼女の右側の角、くるくると螺旋を描く角の溝に沿ってリボンを引っ掛けると、自身の髪に結んでいるのと同じように蝶々結びをした。
「うん、いいわね! とても似合ってる! それ、あなたにあげるわ!」
「いいのか?」
「もちろん! わたしとお揃いよ?」
エリカはそう言って、自身の頭の左側に結ばれた赤いリボンを見せた。
「嬉しい……ありがとうエリカ」
彼女は心底感動した面持ちでエリカに感謝を伝える。
「どういたしまして!」
エリカはそう言ってニコッと笑った。
その時だった。バタンと大きな音が城中に響き渡ったのだ。それは城の正面扉が開かれた音であった。
「エリカ、すまない。お客さんが来たみたいだ。少しの間ここでじっとしておいてくれるか?」
「お客さん? いいわよ! お姫さまも大変ね」
「ああ」
彼女は立ち上がり、エリカを中庭に残して城内へと向かう。
城内に入ると彼女は着ていたドレスを勢いよく脱ぎ捨てて、元々着ていた動きやすい下着のような装いに戻った。
「すぐに片付ける」
彼女は拳を握りしめ、決意を込めてそう呟くと、ボス部屋へと足早に歩みを進めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる