探偵はウーロン茶を片手にハードボイルドを語る

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第9話 逃亡

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 はぁ、はぁ……オレは……ハードボイルド……

 ハードボイルド探偵……ぜえ、ぜえ……早乙女 瞳!!





 はぁ、はぁ……オレは今、借金取りから逃げている。

 その業界では知らぬものはいないと言われる伝説の取立て屋『金貸しの拓』からだ。

 いやぁ……ビックリした。

 こないだ電話がかかってきた時はどうせハッタリだと思っていたんだが……

 まさか本人だとは……

 実のところオレは『金貸しの拓』の顔は知らない。

 聞いているのはこの世の者とは思えぬほど恐ろしい顔も持つ男だということ。

 ヤツがドアを蹴破って部屋に踏み込んできた瞬間に分かった……

「ああ……アナタが拓さんですか?」って……

 ヤツが『金貸しの拓』だ! 間違いない!

 アレ以上に恐ろしい顔がこの世に存在してたまるか!

 アレはゴリラだ! ゴリラにフランケンシュタイン博士が改造手術を施したんだ!

 無理だろう? アレは無理だ。あんなのに逆らったら骨すら残らない。

 暗がりでも分かるその恐ろしい顔……驚愕したオレは、いつもなら隠し部屋(机の下)に隠れるところを、思わず2階の窓から飛び降りてしまった。

 しかも閉まってる方の窓から。

 昼間掃除した時に窓をピカピカに磨き過ぎたことが仇となったな……

 ガラスが見えなかった。

 気付いた時にはもう遅く、私の体はガラスを突き破り全身に切り傷を負ってしまった。

 そのせいで空中でバランスを崩し着地時に少し足をひねってしまったようだ。

 さっきまでは興奮していて気付かなかったのだが……



 これ、痛っ!



 ……もぉ……いたぁ~……
 大丈夫だよね? これ大丈夫だよね?

 なんか足首が太モモみたくなってるけど……これ大丈夫だよね?

 だが、今は弱音を吐いてる場合ではない。逃げなくては!

 ビラも持ってきているが今はそれどころじゃあない。逃げなくては!

 しかし、どこに?

 どこに逃げる?

 恐らく一瞬のことで顔は見られていないだろうが事務所には当分戻れそうにない……

 どこに?

 そこでオレはふとあることに気付き足を止める。

 顔を上げるとそこにはオレの行きつけのBAR『ヨリミチ』があった。



 やはり……ここしかないか……



 私は店のドアを開けて

「マスター助けてくれ!」

 と出来るだけカッコ良く、ハードボイルドに助けを求めた。


「マスター! すまない……へへへ、ドジを踏んじまった……ちょいと、かくまってくれないか?」

 そうだ……オレは今ある男に追われている……

『金貸しの拓』そのスジでは伝説の男に……

 この傷はその時に負わされた傷だ。

 なに? バカを言うな! ウソなどついていない。

 ドジを踏んだのは確かだし……追われてるのも確かだろう? ウソなど言っていないぜ?

 しかし、マスターは「困ったな」と顔をしかめた。

 どうした? なにかあるのか?

 と聞くと……



 DVD5本借りてて今日返さないと延滞なのだそうだ。


 マスターは「ホラ」と数本のDVDをオレ見せた。



 ……。




 ふざけるな!

 ふざけるな! マスター! 見ろ! オレをよく見ろ!

 全身は切り裂かれ(自分で窓ガラスに突っ込み)……ほら! 足! 足首も見事にやられちまってる(着地に失敗して)。

 この姿を見て用事がDVDの返却だと!? だから、かくまえないと? ふざくるなよ!

 怒鳴りながらオレはマスターからDVDを取り上げタイトルを確認した。



 もっと女子高生


 裏女子高生


 女子高生の放課後


 おしおき女子高生


 〇〇女子高生



 ……。

 マスター……あんた……

 全部女子高生モノじゃないか!

 年を考えろよ! 年を!!

 オレはそう言ってマスターを罵倒すると、マスターは頬を赤らめながら鼻の下をこすっている。

 マスターは言う。

「私は高校は男子校でね……あの頃は女子高生というものに憧れを抱いたものさ……ここ最近はそういったことには無感心だったんだがね……反動ってヤツかな? もう……辛抱たまらなくなったのだよ。い、いいじゃないか! 別にいいじゃないか! 本物の女子高生に手を出したワケじゃないだろう? それともオッサンがビデオで自分を慰めるのは犯罪なのかね!? ええ!?」

 おお、なんだ? 後ずさりするほど、すごい剣幕でまくし立てられた。
  いや、しかし! オレもここで引くワケにはいかないのだ!

 そこでオレはマスターに提案する。

 わかったマスター、マスターはこのDVDを返しに行くといい。オレはここで待ってるから。これでどうだ?

 ん? よくよく考えると最初からなにも問題ないんじゃないか?

 マスターがいなくたって、オレは場所さえ貸してもらえればいいんだから……いったいなんの問題があるんだ?

 その質問をぶつけるとマスターはオレから目線を外しながら……

「君……信用できないんだよね」

 ポツリとそう言った。



 ……。



 そ、そうか! ならば分かった! 店はこのまま開けたままにしておくといい!

 オレがマスターの代わりをしよう! 今日1日オレがマスターだ! それなら客の目が監視代わりになるだろう?

 どうだ?

 この提案を渋々ながらもマスターは了承してくれた。まったく……手間かけさせやがって。



 ……。



 しかし……もしかしてバレてたのか? レジの金持って行ったことがあること……
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