少女は淑女で最強不死者

きーぱー

文字の大きさ
7 / 68
冒険者編

7話 闘技場

しおりを挟む
 俺達は西門の先にある闘技場を目指し移動をはじめた。心配になった俺は風音の横に行き小声で話しかける。

 「風音… 殺したり、手とか足… 切り落としたりしないだろうな? 」

 そう、俺の心配は相手の心配だった。あの常識外れた力は、普通の人間では到底勝ち目がないからだ。

 「当たり前じゃ わしは殺人鬼ではないぞ 相手に殺意がなければ少しだけ力の差を教えてやるだけじゃ それに… これでまた金が入るではないか クックク」

 そう言って風音は笑った。

 「託也 今回もお前は見ておれ」
 「わかってるよ… 近くでちょろちょろされても目障りだろ」
 「なんじゃ? 棘のある言い方じゃのう 今回はお前の為に体術だけで戦ってやるというのに」
 「えっ? そうなんだ? 」

 西門を過ぎ、闘技場に到着するとビーノが提案する。

 「よし! ルールを決めようじゃないか お嬢ちゃん 」
 「わしはなんでもかまわん 言い訳されると面倒じゃから そっちは全員でかかっこい こっちは わし1人じゃ」
 「たいした自信だな ハッハハ じゃあ今回は1対1の勝負、術・武器何でもあり 勝敗はどちらかが膝を付くまでってどうだい? もちろん、俺の攻撃は峰のみだ」
 「うむ どっちでもかまわんがよかろう 最後に念を押して言っておくが 言い訳はするでないぞ」
 「ハッハハ おっけー 約束だ」

 風音は懐から二つの袋を取り出し地面に放り投げた。ビーノもその場所に財布を投げる。

 「ちょっとビーノ! あんまり酷い事やっちゃ駄目よー!」
 「冒険者ってもんをルーキーに教えたれー! 」

 外野が騒ぎ始めた。皆には、ビーノが当然の如く勝利を収め、吹き上がった新人冒険者が地面を叩き己の未熟さを恥じりながら悔しがる光景が見えているのだろうか… 俺には到底思い浮かばなかった。

 「誰か合図をくれ」

 ビーノが外野に向かって開始合図を求める。パーティーメンバーの女が答える。

 「おっけー! いくわよ」
 …
 「はじめっ! 」

 開始の合図、ビーノが静かに剣を抜く。

 「お嬢ちゃん かかってきな! 先手は取らせてやるぜ」

 ビーノは腰を落とし風音に剣を向ける。

 「たいした余裕じゃの クックク では少しばかり遊んでやるかのう」

 スタスタとビーノの目の前に立つと

 「いくぞ」

 風音は一瞬で消えビーノの後ろを取る。風音の姿を完全に見失ったビーノ。背後の気配に気付き剣を回す。同時に、後方へ回避する風音。

 「遅すぎるのう… 実戦なら お前は首の骨をへし折られていたぞ」
 「くっ… やるなお嬢ちゃん 正直、侮っていたよ」

 どうやらビーノも、風音がただの少女じゃない事に気付いたのか、目付きが変わった。間合いを詰め風音に切りかかる。もちろん、峰の部分で攻撃をしてくるが風音は構わずビーノの懐に入ると手刀で腹を切り、また距離を取る。ビーノの腹からジワリと血が滲む。

 「これで2回… 人の外見と中身は違うと改めるんじゃな 今のは、わざと浅く切りつけた 次で終わりにするかのう」

 「クッ… お前、何者だ!?」

焦るビーノ。開始の合図から数分… 誰もがこんな光景、思いもしなかっただろう。最初のうちは騒いでいた外野も、今では口を開く者は1人もいなかった。

 「何者?… お前達が知る必要はない」

 パチン

 風音は指を鳴らした。ビーノの剣からゴツンと鈍い音がし、剣が弾かれる。
 慌てて剣を拾おうとするビーノ。だが、剣を握ろうとした瞬間、風音の指が鳴らされ再び剣が遠ざかる…2度、3度と繰り返された。
 
 ビーノは、その場で跪くと動かなくなった… 風音に心を折られてしまったのだ。攻撃も当たらず、自分の最大の武器であるはずの剣すら握らせてもらえない… 屈辱以外の何者でもなかった。

 風音は袖口から、いつもの煙管を取り出し火をつける。煙を吐くと
 
 「わしの勝ちじゃ 言い訳はあるか? 」

 「負けだ… 力の差があり過ぎる すまなかった… 」

 ビーノは下を向いたまま敗北宣言… 風音はくるりと方向転換し、真っ直ぐ地面に落ちた3つの袋を拾い上げ俺の元に帰ってきた。

 「どうじゃ? 少しは役に立ったか? 」

 ニヤリと笑いながら俺に問い掛ける。

 「最後、体術じゃないじゃん… デコピンでしょ あれ? 」
 「なんじゃ バレてたか」
 「それに… あんな高速移動 参考にならないよ」
 「あぁ 確かにそうじゃのう クックク まあよい 金も入ったことだしギルドに戻って身分証受け取るかのう」

 遠目から様子を伺うとビーノの周りに、パーティーメンバーが集まり何があったのか事情を聞いているようだ。外野の冒険者達も、何が起こったのか未だ信じられない様子で互いの顔を見る。
 すると、ゼスが俺達に近づいてきた。

 「すまなかった お嬢さん… いや、かざねさん 笑った事を謝るよ」

 ゼスは被っていた帽子を脱ぎ頭を下げる。

 「ふん やっと自分らとの力の差がわかったか 人を外見で判断すると痛い目に会うぞ よーく覚えておくことじゃな」
 「ああ すまなかった 礼と言ってはあれなんだが飯でも奢らせてくれ」
 「おお! よい心掛けじゃ 登録証を受け取ったら行くとするか」

 風音はにっこり笑う。俺達3人は、その場を後にしてギルドへ戻った。

 ▽▽▽

 ―― ギルド内部

 蛻の殻になったギルド、さっきまでテーブルで飲み食いしていた冒険者達は闘技場に残っているのだろうか、職員以外誰もいない。
 
 「あ… かざねちゃん たくやくん、登録証の発行が完了しましたよ。」

 闘技場から戻った俺達に、受け付けのお姉さんが声をかける。身分証明も兼ねた冒険者登録証、今後の旅に役立ちそうだ。俺と風音は登録証を受け取り、手招きされカウンターの段差が一段低くなっている場所へ案内されると、座って説明を受けるように促された。
 席に着くと、お姉さんが正面に座り説明をはじめる。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...