少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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北ダンジョン編

13話 合格

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 ―― 二日後
 
 風穴の訓練は、最終段階を迎えていた。最初の訓練場所から奥に移動した場所で、風音立ち会いのもと試験が行われた。内容は3本連続で木を折ること。
 すでに、旅支度は出来ていて俺の試験の結果で出発の日が決まる。

 「準備はよいか? 託也」
 「うん… 行けるよ」

 すでに集中する時間を貰っていた俺は、風音の合図で開始出来る。

 「はじめ! 」

 俺は息を細く吸い込み、1本目の木は腕から撃ち放った音と共にゆっくり倒れていく。

 ドンッ!! ギィィィィィィ ズドーン!!

 「次! 」

 風音が次の木を指差した。1本目と同じように息を細く吸い込み撃ち放つ。

 ドンッ!! ギィィィィィィ ズドーン!!

 2本目もクリアー。

 「最後じゃ! 踏ん張れ 託也! 」
 「託也! 頑張れ!! 」

 たまらず、ゼスも俺に声援を送る。風音は、少し距離のある場所の木を指差す。俺は、そのまま全力疾走し腕を伸ばしきったところで全てを撃ち込む。

 ズドーン!! 

 今まで一番、木が抉られていた。半分以上吹き飛んだ木は即座に倒木する。

 ズドーン!!

 俺は、やり遂げた高揚感で一杯になった。身体の内側から、さらに沸き立つ力を感じる。

 「合格じゃ! さすがじゃ! さすがわしの… 」

 風音は、言いかけて言葉を閉ざした。だが、にっこりと笑い言葉を続ける。

 「うん! お前は武術の基礎が出来ていたので 思った通りじゃ… 源一郎に感謝じゃな…」

 にっこり笑ったと思ったら、親父の名前を口に出した途端にしんみりした顔を見せた。俺の何倍も時間を共有した親父と風音、寿命がある普通の人間が先に死ぬのは判っているはず。仲良くなれば別れも辛いだろう…

 「やったな託也! 凄いな 下手したらSランク冒険者の実力だ! 」
 「何を言っておる ゼス 実戦経験が無いのでは意味がないわ」
 「ゼスさん お待たせしました これで出発できますね」
 「ああ! 冒険者を楽しもうぜ!! 」

 ゼスが初めて見せた満面の笑みだった。

 「今から発って何時頃ダンジョンに着く? 」
 「昼過ぎだから… 朝方になるな」
 「それは西の都市経由か? 」
 「もちろん! 安全第一だ」

 風音は、苦虫を潰したような顔になり

 「真っ直ぐ北に向かえ 何が安全第一じゃ! 」
 「えっ!? 北ルートは剣獣殺が… 」
 「ゼス… わしらと旅を共にするならば 引くな! 引く事は許さんぞ! 」

 俺は、ゐたたまれなくなりゼスの耳元で小声で教える。
 
 「ゼスさん… 剣獣殺はSランク冒険者の人を倒した日に風音が倒したよ」
 「う… うそだろ? 」
 「ほんと… 運がよければ生きていると思うけど… それに風音が持っている財布2つも剣獣殺から毟り取ったものだよ… 」
 
 ゼスは、口を半開きにして固まっていた。
 動かなくなったゼスの頭を、懐から取り出した煙管で引っぱたく風音。気がついたゼスは口を閉め、我に帰ると恐る恐る返事をした。

 「おっ… おっけー かざねさん 北ルートで出発します! 」
 
 俺達は、馬車に乗り込み北ダンジョン目指し出発した。

 ―― 馬車を走らせ数時間後

 荷台には、折り畳み式の長椅子が両側に備え付けられ横になって寝れるように細工がしてあった。購入した時に追加で風音が注文したらしい。旅に必要な食料や雑貨は邪魔にならぬよう荷台前側に仕切りをつけて移動中でも散らばらない様な仕組みになっていた。
 俺は、横になりながら表に向けて風穴の練習をしていた。風音はゼスの横で黒蓮に話かけたり地図を眺めて現在地を確認したりと、好きにしている。。ゼスが馬車の手綱を握りながら振り向き様に

 「託也 そろそろ着くぞ 準備しとけよ」
 「了解ー 」

 俺は、身体を起こし椅子に座って止まるのを待つ。そこから見える光景は、硬そうな岩肌のダンジョン入り口と手前に整地された馬車や馬を止める駐車場な様な場所だった。何台か馬車が止められているが、中には人が動く様子も確認できた。
 ゼスの話では、荷物番じゃないかと言った。整地された広場の中に、よくある町内会の公民館程度の大きさの小屋が立っていた。寝食も、中で出来るようになっていて談話室もあると言う。

 「おっしゃ 着いた」

 ゼスは、手綱を近くの木に縛り付ける。

 「ゼスご苦労じゃったの 託也 黒蓮に水と飯をやってくれぬか」
 「わかった ゼスさんお疲れ様」
 「じゃあ 俺は中で飯の支度するよ 例の処置は、手はず通りに」
 「わかった 託也と遅れて行く」

 何だろう? 手はず通りとは… 
 風音は、荷台に乗り込み親指を口で噛む。 親指から血が滲んだのを確認し、荷台の床に親指を押し付けた。風音は俺にも同じ事をしろと言う。
 何でも、馬車に張ってあるマジックアイテムの効果を発揮させるのには、使用者の血を馬車に付着させ登録させておく必要があり、登録されていない者が馬車に触れると警報が鳴り響くという盗難防止アイテムだという。
 同じ様に俺も登録をした。傷口は風音同様、見る見る塞がっていく。
 どうやら、この盗難防止アイテムは冒険者の間では常識らしい。

 「よし 行くか 今夜は、あの小屋で寝て 朝からダンジョンじゃ」

 風音はスタタタッと小走りで小屋に駆け込む。俺は、皆の分の毛布を持ち小屋の中へ入った。奥の方では風音とゼスが座り酒を飲み始めていた。
 周りを見渡すと3~4人のパーティーだろうか、3組ほどが飯を食ったり酒を飲んだりしていた。すると、1人の男が近づいてくる。歳は40くらいで顎や口の周りに髭を蓄え、腰に剣をぶら下げていた。身体はそれほど大きくないが、ぼってり腹が出ている。もし喧嘩になったら、何時でも風穴が撃てるように2本指を丸めて準備しておく。

 「なぁ あんた達は、どこの冒険者? 俺はドリボラから来たんだが、北ダンジョンは温いって噂だから来てみたんだけど あんたらも魔石狙い? 」

 男は、片手に酒の入ったコップを持ちあれこれと話しかけてきた。しかし、その目は俺やゼスの腰に付けているナイフやバッグを確認してる。

 「俺達はメイドスから来た ここまで近いしな 今回は、適当な階層で魔石狙いだよ」
 「へぇー なるほどねえ そっちの二人は若いようだけど経験あるの? 」
 「いやいや 最近登録したばっかで魔物狩りってどんなもんか連れていってくれて頼まれたのさ まあ何事も経験だわなあ」
 「なるほどぉ へっへ そうだわな 何事も経験しなくちゃな まあ明日はかち合わない様に よろしくな あんちゃん達」

 そう言うとニヤリと笑い、髭おやじは自分のパーティーの元へ戻っていった。明らかに怪しい感じがした。風音は、というと静かに酒を飲んでいるだけだった。ゼスは、立ち上がり炊けた飯を炊事場から持ってくるとスープや料理を取り分ける。俺達は静かに飯を食う。

 多分、ゼスと風音は打ち合わせしてあったのだろう。何の為に、本当の事を言わないのかは何となく判ってはいたが確証はない。今回の依頼は大きい報酬と聞いているので、事前に他冒険者へ情報を漏らさないためのものだと予想した。
 例えば… この時点で情報が漏れたりすれば、何かしらの方法で仲間に伝達され帰りに襲撃される恐れもある。
 
 一番最悪なのは、ここにいる3組のパーティーが全員仲間だった時である。
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