少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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北ダンジョン編

19話 バーデン

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 北ダンジョン… 最終地点であろう施設の宝物庫で、ゼスは袋に提出用の古代通貨と装飾品数点と武具を入れる。それらをギルド支部に持ち帰り説明するのだと言う。至極当然な話だ。手ぶらで説明しても信憑性に欠け、ギルド本部を動かす事は出来ないからだ。

 俺達は、来た道を戻り地上を目指す。9層の魔法時に乗ると8層の魔法陣に出た。キングタイガーが待ち構える、8層フロアーに向かう途中の出来事だった風音とカリナがハッとし、何かに気付いた様子だ。

 「カリナ 気付いたか? 」
 「はい 風音様」

 ▽▽▽

 カリナは指輪を受け取った直後、宝物庫の外に出ると片膝をつき風音に対して忠誠を誓いだした。

 「風音様… 私カリナは、風音様を主とし忠誠を尽くすことを誓います」
 「そうか カリナよ 期待しておるぞ」
 「ハッ! 」

 ここで、主従関係をハッキリさせたかったのか… カリナは口に出す事で、風音はそれを聞く事で、1つのけじめをつけたのかもしれない。勝手な想像で納得し、改めて面倒臭いと思った。

 すると、風音はカリナに向かって

 「カリナ! 今時、そんな忠誠なぞ古いわ! もっと楽にせんか わしは堅苦しいのは嫌いなんじゃ! わかったな? 」
 「ハッ! 」
 「だからそれが嫌なんじゃ! はいでよい はいで」
 「はい… 」

 結局、こうなるのだ…

 ▽▽▽

 「カリナ 気付いたか? 」
 「はい 風音様」

 俺とゼスは、何の事か判らず風音に質問する。

 「何かあったの? 風音」
 「感知は使っているが… 何も引っかからないんだが」
 「うむ… 嵌めないと駄目らしいのう」
 「はい」

 「託也 ゼス さっきの指輪を嵌めてみよ 面白いぞ」

 風音は、ニヤリとして言う。俺とゼスは4人で分け合った指輪を嵌めてみた。特に変わった様子は感じられない。

 「わしらから少し離れてみよ」

 俺とゼスは、足を止めて進む風音達と距離を取った。すると、白と赤のラインが見えてきた。白いラインは風音に、赤いラインはカリナに向かって伸びていた。

 「どうやら、指輪を嵌める者同士の位置が判るようじゃな」
 「なるほど マジックアイテムって事か 場面によっては使えるかも」
 「うむ… 特定人物の居場所が判るということは… ということは… ゼス! 他にもあったか!? 同じ指輪は他にもあったのか!? 」
 「あ… ああ 後4つ、あったな 棚に」
 「戻るぞ… 全て回収じゃ」
 「どうしたんだい かざねさん? 」
 「あ… そういう事か 戻ろうゼスさん」
 「そうじゃ… あの指輪が、他人に渡ったら わしらの位置情報は筒抜けになるという事じゃ」

 「あ… 」
 「もちろん、指に嵌めなければ良いだけじゃが 今後、何があるかわからんだろう」
 「確かに… 今回の調査が公になれば国中に俺達の名が知れ渡る… 報奨金が出た後なんか標的にされることも考えられる やばいな… 」
 「まあ全て返り討ちじゃがな 兎に角、全て回収してから戻るぞ」

 俺とゼスは、急いで戻り残りの指輪を回収する事に。風音とカリナは、その場で待機となった。
 本当に、ダンジョン内で気が付いて良かった… メイドスに戻って気付いたら大変な手間が掛かるところだったのだから。

 ―― 10分後

 「回収完了! 」
 「うむ… 残りはわしが預かっておこう」

 ゼスは、回収した指輪を全て風音に預ける。これが、一番安全な保管方法だろう。待機組と合流した俺達は、再びダンジョンを下りて行く。
 俺達は、キングタイガーを処分して5体分の魔石を回収。キングタイガー1匹の魔石の大きさは、2Lのペッボトルくらいの大きさになっていた。
 7層のキングフォックスはスルーして6層のヘルボアを討伐し、5層と繋がる通路に出た。ここで風音が皆に指示を出す。

 「各自、指輪を外して服やバッグにしまえ カリナ、透明化しろ 託也、十手をよこせ」
 「わかりました」

 カリナは、即座にアサシン固有スキルで透明化する。

 「なんで十手? 」
 「あの髭親父… 変化があれば気付くぞ」
 「なるほど 行きと帰りの荷物、装備で判断されるのを防ぐためか」
 「そういうことじゃ ほれ こっちに渡せ」

 十手を風音に預けると風音が言う。

 「相手の出方がわからんからのう まあ どうにでもなるから深く考えるな 襲ってきたら全力で叩けばよい」
 「ああ… 」
 「了解! 」
 「わかりました」
 「あ… あの髭親父は殺すなよ? あやつには聞きたい事があるからのう」

 そういうと俺達は5層のフロアーに踏み込んだ。狩りをしていた髭親父のパーティーは、すぐに気付き笑みを零す。

 「へっへへ 随分遅かったじゃねえか? へっ 一体、何していたんだ? 」

 髭親父が、俺達の荷物や装備の確認なのか目をキョロキョロさせながら言うと、ゼスが答えた。

 「何してたって 上で狩ってたんだけど 何か問題でも? 」
 「いやいや へっへ 何も問題ない まったく問題ないぜ」

 ニヤリとしながら返答する。すると、狩りをしていた連中は魔物退治を中断して帰り支度をはじめた。それを確認した髭親父は、都合良く自分達も今から帰るところだと言い出した。あまりにも咋だ…

 「なんだ 偶然だな俺達も終わって戻るところさ へっへへ」
 「ふーん… 」
 
 ゼスは、素っ気無く答る。
 そして、髭親父パーティーは俺達の前を塞ぐように歩き出した。逃がさないつもりなんだろう… だが、それはこっちの台詞だ。

 4層に着くと、黒ローブのパーティーも帰り支度を済ませて3層に降りていく階段付近で固まり待機していた。ここで、カリナが回り込み黒ローブ達に透明化したまま伝える。

 「お前達 決して手を出すな 確実に殺されるぞ」
 「どういうことだ… カリナ お前、裏切ったのか!? 」
 「そう思われてもかまわん… 手を出さなければ見逃すと約束してくれた だから絶対に手を出すな」
 「何があったんだ? 」
 「詳しい事はダンジョンを出たら話そう… 」
 「どうするんだ… 依頼を受けた以上、遂行しなけりゃ仕事が無くなるぞ」
 「… 」
 
 俺達のパーティが、4層フロアー中央に差し掛かると髭親父が立ち止まり大声で笑い出しやつのパーティーメンバーは俺達の後方へ散らばり退路を絶つ。

 「へっへへ ゼスー! ご苦労だったな どうだった? 宝は持ち帰ったのか? へっへへへ 知ってるさ! お前達が未開地調査に上がったのは!! 」
 「ふーん どうやって調べた? 教えてくれねぇかな それと俺の名前は、どこで知った? 答えろ」
 「へっへへ 知ってどうする? ここで魔物の餌になるお前達に必要ない事だろ へっへへへ さあ、よこせ! 未開地マップをよこせ!! 」

 髭親父バーデンは腰の剣を抜き、ゼスに詰め寄る。俺は、後方からの攻撃に備え風穴の準備は完了していた。
 風音は、何時もの様に煙管で煙草を吸い出した。

 ふぅー

 煙を吐くと

 「ゼス 託也 そっちは任せたぞ」
 「おう! 」
 「了解 ってどこ行くの風音? 」
 「ん? わしはあっちのやつらと遊んでくるとしよう」

 風音は、スタスタと黒ローブ達が待機している方へ進んで行く。すると、後方からハンマーのような鈍器を持った男が襲いかかってきた。

 「余所見しやがって… なめてんのかぁー!!」

 ブオォン!
  
 男は、大きく鈍器を横から振り回してきた。当たったらヤバいが… 風音の戦闘を目の当たりにしている俺にとっては難なく回避出来る。回避しつつ、1本風穴を顔に撃ち込む。

 「グワアッッッ! 」

 男は、片手で顔を抑え下を向く。すかさず、腕風穴で足を攻撃。

 ドゴーン!

 加減はしたつもりだったが、完全に片足が砕けている。ごめんね… 男は悲鳴を上げて動けなくなった。その悲鳴は4層フロアーに響き渡り、バーデンは一瞬、身体をビクッさせ手下達に発破をかける。

 「なっ… なにしてんだ! まとめてかかれ! そんな餓鬼1匹始末できねぇのか!? 」
 「わ… わかりました 親方! 」
 「はい! 」

 ソードマン系の男と、魔石回収をしていたポーターだろう二人が武器を構える。ポーターに至っては、俺に向ける短剣は振るえ足がガクついていた。

 「うおおぉぉぉ! 」

 ソードマンが突進しながら長剣を振り下ろしてきた。俺は、両手で振り下ろされるソードマンの懐に飛び込み、手首を握り振り下ろす力を利用してソードマンを投げ飛ばす。男は一回転しフロアーに叩き付けられていた。

 「グホッ! グホッグホッ! 」

 受身も取れず、背中から落ちたソードマンは痛みで噎せ返る。

 「うあああぁ! 」

 その時、若いポーターが短剣を前に突き出したまま走ってくる。2本風穴で足を狙い撃ち放った。

 「あうっ! 」

 痛みで躓き、手に握る短剣はフロアーを滑るように転がる。後ろで立ち上がったソードマンにも、足と剣を握る右手に向けて2本風穴を放つ。
 男の握った長剣は吹き飛び、足を抱えてその場に蹲ってしまった。俺は、そのまま交戦中のゼスの横に行き2本風穴をバーデンの顔面に叩き込む。

 「グハッッッ! 」

 鼻が捩れ、上前歯が何本か折れた。バーデンは、その場で蹲り顔を両手で押さえつける。押さえつける両手の間からは、止め処なく血が滴り落ちていた。

 俺は、事の結末を風音に伝える。

 「風音ー こっち終わったよ そっち行く? 」

 気が付いた風音が答える。

 「こっちはよい ん? そやつらを縛って転がしておけ 聞く事聞いたら餌にする」
 「わかった」

 俺とゼスは、ゼスが持ってきたロープで髭親父バーデン一味を縛り上げて身動きできないようにした。
 
 「託也 さっきはありがとうな あの髭親父ソードマンだった ちょっと梃子摺ってしまった」
 「いいよ それより風音は何をしてるんだろ」
 「ああ… どうする気かな かざねさん」

 まだ、ひと悶着ありそうな気がするけど… 
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