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王都編
40話 帰還
しおりを挟む俺達は、風音が『海に行きたい』の一言から漁業の村タスカに来ていた。浜辺で酒を飲み、俺が銛で突いてきた魚やダムの釣った魚をゼスが捌いて皆が食う。
昼には、酢飯を作り俺が握った寿司を振舞った。腹一杯食べ、メイドスに戻る帰り支度をはじめる。
俺達は、宿屋に戻り荷物を運び出しゼスが主人に挨拶する。
「楽しかったよ また来るから、それまで達者で」
「ありがとう また来てくれゼスさん 皆さんも またお越し下さい」
主人は、頭を下げて俺達を見送った。村の馬繋場に向かう途中、風音とゼスの会話が聞こえる。
「良いところじゃったのう」
「だろ? また来よう かざねさん」
「わしの水着姿も見れたしのう また見たいのじゃろう? ゼス」
「なっ!?… 何言ってんだよ! かざねさん!? 」
「クックク」
何時もの様にゼスをからかう風音。
「また見たいです… 可愛かったです…」
頬を赤らめ、ボソリと呟くカリナ。
…
荷物を馬車に詰め込み、メイドスに向かって馬車を走らせる。帰りは、海岸沿いを北に向うルートにした。景色を楽しみながらの、馬車の旅は各々夫々が様々な思いを馳せている事だろう。
―― 夕方
休憩を、一度挟んだもののメイドスには日が落ちる前に到着できた。王都からの帰還であった。俺達の大型馬車はメイドス・ギルド支部に横付けにする。
それに気付いた冒険者達。
「ゼスじゃないか!? おい! みんなー ゼスが帰ってきたぞ!」
「すげえ… 何だこの馬車… 」
「ゼス! やりやがったな! おめでとう!! 」
数名の冒険者達が、ゼスの帰還をギルドに知らせると中から大勢の冒険者達が表に出てきた。
「おいおい ゼス! こういう事だったのかよ 一杯食わされたぜ」
すると、ゼスが冒険者にこう答えた。
「騙したようで悪かった だが、こっちも命掛けてるんでな 実際、北ダンジョンでも情報が漏れてて襲われたよ」
「何だって!? やばかったんだな… 」
「そりゃ ゼスじゃなくても慎重になるわな 騙されたって判った時は腹もたったが 仕方ねえさ」
「ああ! とくかく、メイドスからSS冒険者の誕生だ!! おめでとう! 」
「嬢ちゃん達もSSだってな? おめでとう! あんたが強いのは俺達も見ていたからな 当然だ! 」
俺達3人は、互いに顔を見ながらニコリと笑顔になっていた。
「嘘付いたお詫びだ みんなに一杯奢らせてくれ! 」
「おっ! さすがSS冒険者だぜ 遠慮せず奢られるぜ! ガハハ」
「みんな中で飲んでくれ!」
ゼスは単純に嬉しかったのだろう… 嘘を付いた侘びと言って冒険者全員に酒を振舞う。
俺達一行は、無事に財宝を王都に届けた事と報酬を受け取った報告を支部長のブライトに伝える為にギルドの玄関を入って行く。
中に入ると、ギルド職員が俺達に気付くと職員一同が席を立ち祝福の言葉をくれた。
「この度は、本当におめでとうございます。 そして王都までの警護、お疲れ様でした。」
手前のカウンターにいた、ミラから挨拶が始まり次々と職員達の祝福を受ける。最後の職員の、祝福の言葉を受け取るとゼスが支部長は何処にいるかとミラに尋ねる。ミラは答えた。
「支部長なら ゼスさん達が到着したのを知ると上の応接室に上がりました。みなさんを、上に通してくれと指示か出ています。」
「そっか ありがとう あっ!? 後、みんなに酒を飲ましてやってくれ 俺からの奢りだ」
「わかりました」
俺達は、支部長が待つ応接室に向かう。
トントン
「入るよ 支部長」
ドアを開けて俺達は応接室に入って行く。
支部長が、最奥に置かれた書斎用の椅子に腰掛けて待っていた。
「みんな、ご苦労さんでした 座ってくれ 疲れただろう? 」
支部長は、立ち上がり隣の部屋から灰皿を持ってきてテーブルに置いた。
「お茶は、すぐに持ってくる 待っててくれ それと、ゼス・かざねくん・たくやくんの3名は本部からの知らせでSSクラスに昇格したと伝言があった。 すでに、1階の依頼掲示板の横に名前を張り出させて貰っているのは了承して欲しい」
「ああ かまわんよ支部長 それより、例の件だ… 本部から鳩を頼んだから判っていると思うがどうなんだ? 」
支部長の顔が曇る。
「はぁ… カテリーナからも連絡が来たよ… 今回は出ないって言ったじゃないかって どうして、わたしが攻められるんだ… はぁ… 」
「クックク 大変じゃのう 支部長」
「カテリーナはかざねさんの戦闘を見ているからな 北ダンジョンで… あれを冒険者達にやられたら大変な事になると思ったんだろうな」
「それは言ったであろう 『税杯』ではちゃんと手を抜くわ」
風音は、プィッとそっぽを向き煙草を吸い出した。続けて支部長に風音が問い質す。
「で、支部長 わしらは出ちゃいかんのか? どっちなんじゃ? 」
「いや、出るのは構わないが 参加費が… いきなりだったし金貨5,000枚も用立てるのは… 」
「何ならわしが1人で出しても構わんのだぞ? 」
「えっ!? 本当か? かざねくん」
「もちろんじゃ そのかわり優勝したらわしの総取りになるぞ? それでも構わんのか? 」
風音は、笑みを溢しながら支部長に尋ねると支部長ブライトは腕を組んで考えはじめる。
「んー… 」
「支部長 儲けるチャンスじゃぞ? ギルドで金貨1,000枚用意せい それでわしらが優勝したら金貨10,000枚を支払ってやろう 今回は特別じゃ。以前の話じゃと金貨2,500枚を用意して優勝すれば金貨20,000枚弱の取り分であったろう? 率としては、わしの条件の方が良いではないか? 」
「確かに!? 本当に、その条件でいいのか? かざねくん」
「かまわん わしらもメイドスギルドに、ある程度の金貨を持っていて欲しいのじゃ 必要な時に金を下ろせるんじゃろ? SS冒険者は」
「なるほど… そういう訳か よしっ! 金貨1,000枚出そう!!」
こうして、当初の思惑とは若干の修正となったもののメイドスギルドを含めた参加費を用意して『税杯』に参加する事となった。ゼスが飛ばした、鳩の伝言で今回の参加を知った支部長はメイドス市長にも相談したらしいが参加人数も少なくなった『税杯』には意欲的ではなくなり、今回は見送ると返答があったそうだ。ただ、参加は自由にやってほしいとあった。
「今後の予定は? 」
支部長が聞く。
「どうする? かざねさん」
「『税杯』までは、この辺に居ようではないか 多少、備えもしなきゃならんしのう… 」
「備え? 」
「まあ、夜はゼスの家に来れば連絡は取れるでのう わしらから用時があれば鳩か直接出向くから問題無い」
「わかった」
風音は、煙草を吸い終わると煙管をテーブルに置いて立ち上がる。
「一度、ゼスの家に戻って休むとするか」
「ああ そうだな」
「あっ それとカリナ君達はCランクからBランクに昇格 下で登録証をカウンターに出してくれ おめでとう」
「支部長… なんじゃBとは!? こやつらはとっくにSランクの実力じゃぞ! Bとか、みみっちぃ上げ方せずSランクにせい! 」
「そんな急には無理だ ハハハ でも、すぐにSランクになれるだろう」
俺達は、立ち上がり応接室を後にする。支部長は、風音の置き忘れた煙管に気付いて声をかけようとした。しかし、風音が振り向き手のひらで止めるような仕草をしたのだ。支部長は何か2人きりで話があるのかと直感した。
1階に降りてカリナ達はカウンターに登録証を差し出しランクの更新をしてもらう。その間、俺と風音とゼスは依頼掲示板の横に張り出された号外記事を眺める。
『号外』
この者達、北ダンジョンの未開拓地を攻略成功!
本日付で、ゼス・かざね・たくやの3名をSSランク冒険者に昇格する。
ギルド本部 本部長アドルフ
ギルド本部長のサイン入りの記事が張り出されていた。
「なんじゃ? 大袈裟じゃのう」
記事を見た風音が口走る。しかし、その表情は満更でもない様子だった。ゼスに至っては、黙っているものの表情は緩んでいた。2人とも素直じゃない…
「ん!? そうじゃった ゼス 託也 預かっていた物じゃ ほれ」
風音は、そう言って預けていた『ディオルド硬貨』を袖口から取り出し俺達に返した。
「ああ ありがとう かざねさん ギルドに預けておくよ」
「俺もそうしよ」
俺とゼスは、カウンターに行くと『ディオルド硬貨』をギルドに預けた。
「確かに、お預かりしました 預かり証です」
預かり証を受け取り、ランク更新の終わったカリナ達に合流してギルド支部を後にした。風音は、黒蓮に乗って行くと言い馬繋場に向かおうとした時、
「むっ 煙管を置いてきた お前達 先にゼスの家へ戻っておれ」
「わかった」
「了解」
俺達は、誰一人として風音の三文芝居に気付かなかった。
今、思えば妙に台詞っぽかったような…
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